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神様と狐
『恋をしては駄目よ』
母様の優しい声が、雫は大好きだった。
『うん』
白い着物に赤いふわふわの帯。 見た目は15歳くらい。 でも実際は千をゆうに越えている。
雫は林のずっと奥の古びた社を守る狐だ。
母様はその社の神様だけど……。
長い間、人が離れていた為弱りきっている。 今日から3日、町は祭りで賑わう。
遠くから新しい神様がくるのだ。
3日後、母様と雫は消える。
最後だから……と、母様がとっておきの浴衣を着せてくれた。
『足……ごめんね』
白い浴衣の下のワラジに母様が言う。 力が足りなくて、ゲタが出せなかったのだ。
『この方が歩きやすいよ』
長い黒髪に赤いリボンをつけて雫は笑った。
『楽しんでいらっしゃい』
送り出す母様の腕が透ける。
『いってきます』
グッとこらえて、笑顔で言った。