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転生? 転移? 召喚? そんなもんお断りだ!

作者: 家人

気付けば俺は真っ白な世界にいた。

上を向いても真っ白、下を見ても真っ白。

なんか気分が悪くなってきたな。


そう思っていると、目の前に絶世の美女が現れた。


「愛しい愛しい私の息子、木梨渡(きなし わたる)。」


美女がそう語りかけてくる。しかし、残念な事に俺の母さんはこんなに可愛くもなければ若くもない。


「俺はあんたの息子じゃ無いんだが。」

「地球に生きるすべての生物は私の子供なのです。」


この人は何を言っているのか……。折角顔とスタイルは良いのに頭が残念とはもったいない。


「はぁ……? そうですか。」

「そうなのです。私はあなた方が言うところの女神ですから。」


良くわからんが、女神と来たか。確かに容姿は女神と呼ばれてもおかしくはない。


「現在、私の治める世界の一つ『バード』が崩壊の危機にさらされています。そして、それを止めるためには、貴方の力が必要なのです。

そのために私は貴方を呼んだのです。

『バード』に転生して崩壊の危機を止めてくれませんか?」


急にそんなことを言い出した自称女神さん。大丈夫かな、この人? 一応答えてあげるか。


「え?……嫌だけど。」

「え? 私の聞き間違えですかね。もう一度聞きましょう。

どうか『バード』を救って下さいませんか?」

「だから、嫌だって。」

「そんな! 『バード』を救えるのは貴方しか居ないのです。貴方が助けなければ何千万と言う命が失われるのですよ。」

「女神なんだったら、自力で何とかしろよ。何で俺がわざわざ異世界に行かなければならないんだ。」


ピリリリリ ピリリリリ


そう反論すると、女神の顔が段々と険しくなっていく。怒った顔も悪くないな。


ピリリリリ ピリリリリ


「愚か者。ここまで頼んでいるのに。いいです、分かりました。このまま無理矢理にでも『バード』に送らせてもらいます。」


ピリリリリ ピリリリリ


おい、愛しい息子じゃなかったのかよ。


自称女神の手が光ってるんだが……。もしかしてヤバい感じ?


ピリリリリ ピリリリリ


ってかさっきからピリリリうるさいな。

ゆっくり寝れやしない。


? 寝る?


女神の手の光が一層強く成ったかと思った瞬間。

俺は目を覚ました。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


ピリリリ ピリリリ


朝か。


俺は枕元で元気良く鳴っている目覚まし時計を止める。

何か変な夢を見た気がするが、良く覚えて無いな。


俺はベッドから降りてパソコンの電源を着けた。

メールチェックが俺の朝一番の行動と決めているのだ。

携帯を持ってないからパソコンで見るしか無い。悲しいな。


新着は5件。

3つは会員登録した店から。どうでもいい。

友達から一件。何? 数学のノート貸してくれ? お前が遅刻するのが悪い。そんなもん知らん。


もう一つは……件名が「木梨様、貴方を異世界に招待します」だ。

何だこれ、胡散臭いな。知らないメルアドなのに名前書いてあるし……。

ウイルスが有るかも知れないから、削除しておこう。

ちょっと怖いがこう言うのは触らないに越した事はない。


気付けば結構ヤバい時間だ。

急いで準備をして、家を出る。


高校までは徒歩で15分。

この時間なら走らなくても間に合う。もうちょっとゆっくりしても良かったかな。


そう思っていると、急に足元が輝きだした。


「うわっ。なんだ?」


驚いて下を見ると、複雑な模様の書いた円が光っている。いわゆる魔方陣ってやつだ。


なぜか猛烈に嫌な予感がして、俺はそこから猛スピードで逃げ出す。

すぐに円の外に出て一安心するが、光る魔方陣は俺を追いかけて来た。


やべぇ。何か追いかけて来たんだけど。


ダッシュで逃げる俺、追いかけてくる魔方陣。


周りの人が不思議そうにこちらを見ている。謎の光る物体に追いかけられる人がいたらそら驚くわな。


しかし、いつまでもこのままだと埒が明かない。いつかは俺の体力が尽きてしまうし、どうするか……。


その時俺は圧倒的天啓を授かった。

そうだ! 魔方陣が入れない程のスペースに逃げ込もう。


思い立ったら即実行。

俺は急いで裏路地に逃げこむ。ちょうど魔方陣が通れない程の狭さだ。


魔方陣は……入って来ない。

よし!


「ベロベロばぁー。悔しかったら小さくなってかかってこいよ。」


すると、魔方陣が小さくなって、裏路地に入れる大きさになったかと思うと、再び俺に向かって突撃してくる。


ま・じ・か


迫ってくる魔方陣。

どうする?


俺は迫る魔方陣の上を飛び越え、再び逃げる。

第2ラウンドのスタートだ。


俺はそのまま学校まで直行。急いで靴を上履きに変えて、教室に走る。


廊下を走ってはいけません? そんなもん知らん。


教室に入ったとたん俺はドアを締める。

魔方陣は入って来ない。やっぱりか。


どうも、この魔方陣、頭は良くないようで、俺の逃げた真後ろを追ってくるだけだ。

今も、教室の前の方のドアが空いているのにそっちからやってこない。


今度は挑発しないぞ。


しばらく様子を見ていたが、動く様子も無い。

鍵を閉めとけば大丈夫か?


そう思った時、ドアの向こうに人の気配がして、

「よっしゃ、今日こそは間に合ったぜ!」

という声が聞こえた。


やばい。

このままではドアが開けられる。


しかし、

「うわっ、何だこれ? 光って、っ…うわぁあ!」

という声がしたかと思うと何も聞こえなくなった。


どうしたんだ?


窓から覗くと、人はいなかった。気のせいだったのか?

ついでに、魔方陣も無くなっているようだ。良かった。





「わたるー、おはよー。」


俺が自分の席に行くと、葉隠(はがくれ)このは、が話しかけてくる。

彼女は俺の幼なじみだ。


「おはよう。」

「なんか、急いで教室に入ってきてたみたいだけど、どうしたの?」

「ちょっとな。それより、この前オススメした喫茶店行った?」


魔方陣に追いかけられていた、なんて言えるはずもなく俺は適当に誤魔化す。


「行ったよー。めっちゃ美味しかった。今度一緒に行こうよ。」

「ああ。でも、1回目扉を開けたら草原が広がってたのにはビックリしただろ。」

「? 何の話?」

「えっ? いや、あの店、2回扉を開けないと店に入れないじゃん。」

「そんなこと無かったけど? 普通に入れたよ。」


おかしいな。一度扉を開けたときは草原が広がってるのにな。


「まあ、いいか。」


と、そこで担任が入って来る。

もう、朝礼の始まる時間か……。


まだ来ていないのは一人だけ。

俺のもう一人の幼なじみ、天成翔(てんせいしょう)だ。このクラスで遅刻するのは彼くらいだけどな。



朝礼が始まり、担任が連絡事項等を話している。

何とは無しに聞いていると、急に教室に備え付けてあるスピーカーから音が聞こえてきた。


『あー、テステス。ん、ちゃんと聞こえてるみたいだね。』


小学校低学年位の少年の声だ。誰か弟でも連れて来てしまったのか?


『君達を今から、僕の作った世界に案内するよ。』


しかし、いたずらが過ぎるな。担任もちょっと怒って、

「一度朝礼を中断する。先生はこの少年に注意しに行くから君達は自習していなさい。」

教室を出ていこうとする。


が、扉が開かない。


「その教室からは出られないよ。中からどんな事をしようと、扉も窓も開かないし壊す事も出来ない。

大人しく転移されるのを待っててね?」


それを聞いて、今まで賑やかにしていたクラスの雰囲気も、急に慌てた物となる。


「くそっ、本当に開かないぞ。」

「駄目だ。こっちも開かない。」

なんて声がそこかしこから聞こえてくる。

どうやら、かなり凝ったいたずらのようだ。


スピーカーからは今から転移する世界の情報何かを得意気に説明する声が聞こえてくる。


だが、俺は焦っていない。何故なら……


今まで開かなかった教室のドアが、急に開いた。

かと思うと、

「はぁはぁ、遅れてスイマセン!」

と言う声が聞こえてきた。


我が幼なじみにして、クラス唯一の遅刻魔、翔の登場だ。


スピーカーの声は中からは扉が開かないと言っていた。なら、外からなら開くと言うことである。

急いで脱出する俺達。


しかし、翔だけは事態を飲み込めないようで、一人教室に残っている。


スピーカーから、

『逃げられちゃったか。でも、取り合えず一人はもらっていくよ。』

と声が聞こえたかと思うと、翔は消えた。




そんなことが有ったが、授業は普通に始まる。


1限目の授業は青木の英語。いきなりくそつまらないな。


………………


気付けば、俺は宮殿の中にいた。

世界遺産とかに登録されてそうなヨーロッパの宮殿を思い浮かべてくれればいい。


そして、目の前には今にも死にそうなお爺さん。杖にすがって立っている。

近くに椅子があるから座れば良いのに。


「お主は木梨 渡じゃな?」


じいさんが話しかけてきた。俺は頷く。


「今からお主を異世界に転生させるぞい。ちなみに拒否権は……ドゴッ


…………


痛ってぇ! 急に頭に衝撃を感じて、うつ伏せになっていた顔を起こす。

すると、目の前に青木のデカ面が広がっていた。


「うわっ」

「うわっ、じゃねぇ。俺の授業中に許可も無しに寝るな!」


そう言ってもう一発殴ってくる青木。

それと同時に笑いが起こる。


許可がありゃ寝てもいいのかね?




そんなこんなで昼休みだ。飯の時間だ。

昼はいつも、幼なじみ2人と学校の中庭で食べている。


早速向かうとしよう。俺は翔、コノハと一緒に弁当を持って教室を出た。いつ翔は戻って来たんだ?


「それにしても、お前はよく青木の授業で寝れるよな。ある意味尊敬するぞ。」

「ほんと、そうだよね。」


なんて言ってくる2人。


「いや、青木の授業つまらんからな。

それに、遅刻魔の翔には言われたく無いし。」

「そりゃあ、そうだけどなぁ。」


なんて会話をしている内に中庭に着いた。

早速弁当を開く俺達。


しかし、そんな平和な時間はコノハの次の一言で脆くも崩れ去ってしまう。


「今日、私、お弁当多めに作って来たから2人とも食べてよ。」


そんな信じられない言葉が聞こえてきた。

まさか、聞き間違いだろう、と思って俺と翔は聞き直す。


「い、今なんと……?」

「だから、私のお弁当少し食べてよ。」


聞き間違いじゃないようだ……。


「あ、あぁ。すっすまんな。俺は今日ちょっとお腹そんなに空いて無いんだよ。」

「ま、まじで? お前も? 実は俺もなんだよなー。」


何とか誤魔化そうとする俺達。

何だってこんなに必死なのかって? コノハの弁当を見れば一発だ。


紫色に輝く半液状の物体が、緑色の泡とオレンジの煙を発している。


なんでそんなにグロテスクなのか……。せめて真っ黒焦げとかなら食べてやらんことも無いのに。


「何よー2人揃って。」


不機嫌そうなコノハ。

すまんな、お前の機嫌の為に命を張ることは流石に出来ん。


「あっ。お腹いっぱいなら、交換したげるね。」


そう言って、コノハは素早くおかず?を交換する。

こいつよりにもよって卵焼きを取っていきやがった。


それはまだいい。問題は、弁当の中で他のおかずを侵食する謎の物体X。

これを何とかして処理せねば……。


コノハは俺の卵焼きを美味しそうに頬張っていて、こちらを見ていない。

俺は素早く箸を裏返しにして、汚物を外に放り投げる。飯を食う方では触る事すらいやだ。


放り投げた事にコノハは気付いていない。


よっしゃあ! ミッションコンプリートだ。


放り投げたヘドロ爆弾を見ると、そこには鳩がいた。

鳩は不思議そうに目の前に現れた生物兵器を見つめている。


……まさかお前……食べるのか?

鳩が様子を伺いながら、ダークマターをつつく。


な、鳩よ。そこで止めとけ。今ならまだ助かる。


しかし、俺の思いも虚しく、鳩は嘴を大きく開け……パンドラの匣を…食べた。

その瞬間、空間が歪んだかと思うと、その中に鳩が吸い込まれて行った。


「は?」


呆然とする俺。


「どうかしたの?」


コノハは自分の弁当の中身を食べながら俺に尋ねてくる。


こいつ、平然と食べてやがる。なんでこれを食べても平気なのか? 不思議で仕方がない。


ふと、翔は大丈夫か?と思って横を見ると、そこにはすでに誰もいなかった。

そうか、お前は食べたんだな……。心から尊敬するよ。


その後完全に食欲の失せた俺は、弁当を食べずに昼休みを終えた。

あれの液を浴びたかも知れない食べ物なんて食べる気がしないしな。





その後、大した事もなく放課後になった。

敢えて言うとすれば、歴史の先生が持ってきた古墳からの出土品を触った翔が急に消えた位だ。



「なあ、今から肝試しに行こうぜ! 出るって場所聞いたんだよ。」


放課後になるや否や、翔がそんなことを言ってきた。


「いや、まだ昼だぞ? やるなら夜だろ。」

「いやいや、夜なんかに行ったらまじでヤバいんだよ。聞いたこと無い? 天偉文(てんいもん)神社の神隠しの噂。」

「えっ、天偉文神社に行くの? 絶対やめといた方がいいってー。」


どうやら、なんたら神社って言う怪談が流行ってるみたいだな。どうせつまらない怪談話なんだろうけど、翔は言い出したら聞かないしな。


「どうせ暇だし行ってもいいけど。」

「よっしゃ、そうこなくっちゃな。コノハも来いよ。」

「えー。私そういうの苦手だもん。絶対行かない。」

「そう言わずにさ。まだ日の沈まない内に帰るから大丈夫だって。」

「じゃ、じゃあ、ちょっとだけだよ。」


結局3人揃ってなんちゃら神社に向かう事になった。



天偉文神社の神隠し。

最近この巷で流行っている噂話である。


ある日、4人の女子高生達が受験の合格祈願の為にこの神社に訪れたそうだ。

来たときはまだ日も沈んでおらず、ちょっと寂れた神社だな、という印象しか無かったそうだ。

しかし日が沈むと、急に神社から奇妙な雰囲気が漂い始めたそうだ。

急いで神社を離れようとしたが、1人足りない。そこで、3人で手分けして探す、が見つからない。

そして再び集合したときには2人になっていた。

いてもたっても要られなくなり、すぐに神社を離れようと走る。何とか逃げ切れた。そう、息をついて横を見ると、一緒に逃げていた筈の一人は居なくなっていた。



何処にでも有るような怪談だが、これが広まっているのはその信憑性が高いからだ。


まず、本当に女子高生3人が行方不明になっている、と言うこと。新聞にも載ったらしい。


そしてもうひとつ、

すでに、翔が居なくなってる、と言うことだ。



既に日は落ちてしまっている。神社からはただならぬ雰囲気が漂ってきている。


「翔、どこに行っちゃったのかな?」


コノハが怖がりながらそう言ってくる。翔の事はともかく、早くここを離れた方がいい気がする。


「どうせ翔の事だ。先に帰ったんじゃ無いのか。アイツ怖がりだし。俺達も帰ろう。」

「で、でも……。」


やっぱり納得しないよな。

だけど、そう言っている間にも、神社の妖気は強くなっている。

というか、周りの景色が徐々に変わっている。


これは……やばいな。


「コノハ、逃げるぞ!」

「でも、翔は?」

「そんなもん後だ。」


俺はごねるコノハの手を取って走りだす。その間にも景色はどんどんとこの世の物とは思えない物になっている。


駆ける。駆ける。駆ける。

いくつもある鳥居をくぐり抜け逃げる。


後ろを見ると、ちゃんとコノハはついてきている。しかし、そのすぐ後ろから景色の境界線が迫って来ている。


あとちょっとだ。残る鳥居は3つ。間に合うか?


2つ。 あと、1つ。


後ろを見ると、既にコノハは半分ほど境界線に飲まれている。


ヤバイ


俺は必死に走って、最後の鳥居を抜けた。

すぐに後ろを向き、コノハを抱き寄せる。




……間に合った。何とか2人とも無事に脱出出来た。




「帰ろう。」


しばらくして、俺は立ち上がりながら、彼女にそう言う。


「うん。」


彼女はそう答えるも未だに呆然としている。


そりゃそうだよな。


俺が手をさしのべると、掴まって立ち上がろうとするが、立てない。

あれか、腰が抜けたってやつ?


「腰でも抜けたのか? おぶってやるよ。」

「えっ、だ、大丈夫だよ。」


そう否定して、顔を真っ赤にしながら立ち上がろうとしているが、立てそうにも無い。

俺は無理矢理彼女をおんぶしてやる。恥ずかしいのか、彼女は身を捩って降りようとするがそうは行かない。


「ち、ちょっと、わたる。」

「立てないんだからしょうがないだろ。」


そう言うと、彼女は観念したように大人しくなった。


俺はおんぶをしたまま彼女を家まで送った。




その帰りの事である。


流石に全速力で走った後すぐに人をおんぶしたから疲れた。


だらだら歩いて体力を回復していると、急に目の前に黒い穴が現れた。


何だこれ?


手を差し出してみると、中に吸い込まれていく!


慌てて引き抜こうとするが中々引き抜けない。

何とかならないかと手をバタバタさせると何かにあたった。


何だ?


気になって、それを取り出して見ることにした。

体の体制を低くして踏ん張り、一気に手を引き抜く。


体ごとひっくり返ったが何とか抜けた。

手に掴んでいたのは、鳩だ。口に紫色の何かがついている。

……もしかしなくても、あの鳩だな。


ということは、この穴の先に繋がっているのは、例の物を食べたら飛んで行ってしまう場所。


俺は一目散に逃げた。今日一番の走りだ。勿論神社の時より速い。

当然のように穴が追ってくる。しかも周りの物を吸い込みながら。


俺はなるべく人の居ない道を通りながら家に向かう。今朝と同様に蓋をすれば何とかなるはずだ。

臭いものには蓋というし。


何とか家の前までたどり着く。

人はまだ吸い込まれてないはずだ。


しかし、家の前には人がいた。翔だ。

翔は笑いながら話しかけてきた。


「渡! 大丈夫だったみたいだな。

気付いたら皆居なくなってるし、近くにあった筈の神社は消えてるし、どうしたのかと思ったぞ。

でも、無事で良かった。

コノハは大丈夫かわかるか?」


翔はそんな呑気な事を言ってやがる。

俺は翔が穴に吸い込まれない様に避けながら玄関に向かう。


しかし、翔は俺の意図に気づかず、俺の方にというか、黒い穴に向かってくる。


「おいっ、何で避けるんだよ。答えてくれたって、って、うわぁ!」


そして、穴に吸い込まれていった。

完全に吸い込んだあと、穴は満足したかのように消えてしまった。



何とか助かったみたいだな。

俺は一息ついて、玄関の扉を開ける。すると、それと共にいい匂いが漂ってきた。今日はシチューのようだ。


「ただいま。」

「あら、お帰りなさい。晩御飯もうすぐ出来るからリビングで待っててね。」


母さんが料理をしながらそう言ってくる。

俺は自分の部屋で着替えてからリビングに行く。


まだご飯は出来ていないようだったのでテレビを見ながら待っている。


『さあ日本、カウンターだ! 速い! 相手選手をごぼう抜きにして、ゴールキーパーと一対一。さあ……ガッガガガ……ガガ…ガガガガガガガガ』


なっ! 折角良いところだったのに。

くそッ、このポンコツテレビめ。


『ガガ……ガガガ……………私はこの世界の神です…………ガガ……』


しかし、俺に直せないテレビなどない。


『……あなた達家族は栄えある神の使途に選ばれました。なので、異世界に行ッ!!ガンッ


このテレビなら、中央部から左に3㎝を右ななめ45°、速度15m/sで5度叩くことによって直るのだ。


『ちょっと、い、痛いって言ッ!!ガンッ


3度目


『いっ痛ぁ、止めッ!!ガンッ


4


『わ、わかった出ていく、出てッ!!ガンッ


あと1回


『ひどい、せめてもっと優しッ!!ガンッ

『……7時になりました。ニュースをお伝えします。』


直ったな。

って、完全に良いところ見逃したじゃねえか。ポンコツテレビめ!



ご飯が出来て、夕食になった。

母さんの料理は普通に旨い。間違ってもどっかに飛ばされる様なことは無いのだ。



ご飯が終わり、部屋に戻ってきた。

今日は宿題も無いし、ゲームをするか。


やるのは少し前に大ブームになったMMORPGだ。

だが、上位ランカーの連続失踪事件のせいで今は下火になっている。


実は俺もかなりやり込んでいて、もうすぐでレベルがカンストするのだ。

そう言えば、翔ももうすぐカンストだって言っていたな。誘うとするか。


俺はSkylineを起動して、翔に電話する。ちなみにSkylineはSNSの一つな。

おっ、繋がった。


『何か用か?』

「九日十日」ブチッ


あいつ切りやがった。

もう一度電話する。


『次、しょうもない事言ったら電話取らないからな?』

「ごめんって。それよりさ、ゲームしようぜ。」

『ああ良いぞ。魔王の森で待ってるな。』


さあ、ゲームを始めるか。



1時間後

現在俺と翔のレベルが999。レベルアップまでの経験値は後1000を切っている。


後1回ラスボスを倒せばカンストするだろう。

折角だからと言うことで、少し経験値の少なかった俺を翔はわざわざレベリングしてくれたのだ。


そして、今は魔王の間の目の前。扉を開ければ魔王戦だ。


扉を開いて、最後の戦いを始める。

戦いは熾烈を極め、はしなかった。

そりゃそうだ。カンスト直前でラスボスごときに苦戦するはずが無い。


最早何度目か分からないエンディングロールを見ながら、カンストした達成感を味わう。

ようやくこれで、このゲームを終われる。


ちょうど欲しいゲームが出て、カンストまで後少しだったので、それで止めようと思った訳だ。


エンディングロールが終わり、レベルアップ報酬が表示される。

強力なスキルや武器、防具などが手にはいる。

それが終わると、急にパソコンの画面が暗転した。


『何だ? 急に真っ暗になったけど。』


どうやら翔の方も同じようだ。

少しすると、黒い画面に文字が現れた。


[あなたは異世界を信じますか? YES/NO]


勿論NOを選ぶ。異世界なんて有るわけが無い。


[本当は有ると思いますか? YES/NO]


NOだ。


[本当は有ると思いますか? YES/NO]


どうやらYESを押さないと話が進まないみたいだな。仕方がないのでYESを選ぶ。


すると、次に現れたのは、


[あなたは異世界に行きたいですか? YES/NO]


新しいマップにでも行くのかも知れない。しかし、NOだ。俺は今日でこのゲームを止める。新しいマップなんていらない。


NOを押すと何時ものマップに戻ってしまった。いったい何だったんだろうか。


『これって、もしかしなくても新しいマップだよな? 勿論YESだぜ。』


翔はどうやらYESを選択したようだ。


『えっ。ちょっと、なんだこりゃっ。画面が………うわっ…やめっ……』ブチッ


電話が切れてしまった。新マップの詳細は明日聞くか。


さて、丁度良い時間だし、もう寝るとしよう。

最後にメールだけ確認するか。


新着は1件

件名は「不自由な世界を捨てて、新しい世界で生きよう!」


なんじゃこりゃ。削除だ。

初短編です。

気に入ってくれましたら感想とか評価とかお願いします。


あと、宣伝。

「クラス全員異世界無双」もよろしく。

http://ncode.syosetu.com/n1869ci/

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― 新着の感想 ―
[一言] 翔くん、可哀想っていうよりSUGEE 何故彼は無事に短時間で帰ってこれるのか!?
[良い点] 普通なら異世界に行きたいとか思うのにな~と思った。友達とか吸い込まれて消えていくのに全く動じない主人公が面白いと思う。1人でずーとニヤニヤしてたわw
[一言] 主人公のとことん断る姿勢がイイ♪
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