愛5
[5]
「……どうですかミライさん、僕の作品は?」
「うーん、まぁ良いんじゃないかしら」
「本当ですか!?」
「ええ、相変わらず面白くないけど光るものを感じるわ、登場人物も割と個性的だし、話の纏まりも良い、もうちょっと推敲して改稿して行けば、何回目かでそこそこ面白くなるんじゃないかしら?」
「そ、そうですか……相変わらず厳しい……」
「何事も一発で上手く行く事なんてそうそう無いわよ、一発で上手く行きたければ相当練習するか訓練を積んで、入念に準備をした時だけ、今は準備の段階と思いなさい」
「そうですね、それでミライさん、他に何かテクニックなんかは?」
「そうね、これ以上は貴方が自分で学ぶ事ね」
「え?」
「私から教える事はもう無いわねって事」
「え、じゃ免許皆伝ですか?」
「そこまではいかないわよ! でも、このくらいなら世界に悪影響は与えないでしょって事、じゃ私帰るから」
「え? 帰るって何処に?」
「勿論未来に決まってるでしょ、私未来から来たんだから」
「え、それってそんなあっさりと決められる事なんですか?」
「まぁあまり付きっ切りで、私がいないと何も書けなくなっても悪いしね、それじゃ」
ミライさんは唐突に机に上ると、引出しを空け、片足を入れた。
「ここまで面倒見たんだから、ちゃんとプロ顔負けの傑作小説書きなさいよ♪」
そう激励して、引出しの中へと入って行った。
「ちょっ!? 待って下さいよミライさん、まだお別れなんて早過ぎ……」
慌てて駆け寄って机の中を見てみても、其処には使いかけの鉛筆と消しゴムとノートしか入っていなかった。
「ミライさん?」
呼びかけても返事は無い。
まるでこれまでが、夢であったかのように部屋が静けさに包まれる。
「唐突に現れて、唐突に消えちゃった」
まるで妄想の様にここにいたと言う痕跡は何一つ残さずに消え去った。しかし、まだ何処かに居るような気がするのだ。いや、きっと僕の心の中に彼女は居るのかもしれない。だからこれは別れではなくて、再会までの修行期間なのだと思う事にした。
「傑作小説……か」
僕は改めて、原稿を見つめて。
その原稿を傑作小説に一歩近づける為に、ヒロインの名前を書きかえる事にした。
どのような名前に変えたかは、あえて言うまでもないだろう。
[終わり]




