愛2
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「しかし作品を愛するって具体的にはどうするんですか? 添い寝でもしてあげるんですか?」
「出来る物ならすればいいわよ、まずその作品に愛するべきものを入れる方法があるわね、好きな物なら語る文章にも熱がこもるでしょう? 設定でも、世界観でも、登場人物でも、愛してあげるのよ、その日常を想像する様に、自分がその世界で過ごす様に、想像の中で、妄想の中で、虚構の中で、現実としてとらえるのよ。これは貴方の中で描かれた空想の世界じゃない、もう一つの、現実なんだと。そう作者が思い込む事によって、読者もまたその世界に浸り、もう一つの現実なんだと認識するわ」
「そ、壮大な話ですね」
「でもね、愛があれば別にそう難しい話じゃないのよ。例えば、旅行記とか体験記って実際にそこへ行った気持になるでしょう? 作者が空想でも愛を持って行った気持ちで書けるなら、それは実際に体験記として読者に伝わるのよ」
「おおお!」
「でも、其処には嘘は入れられないは。多少でも作者が所詮空想だしとか、実際には行けないしとか雑念を挟めば、それが文章となって表れて読者の心に壁を作ってしまうの」
「ざ、雑念を取り払うにはどうしたら?」
「経験を積む事ね。様々な経験や体験記を通じて、自分も他人の空想に触れ、疑似体験を得て、自分の妄想力を高めるのよ、妄想力とリアリティが直結する時、貴方の中に、もう一つの世界が生まれるわ」
「これまでの訓練は全部その為の物なんですね」
「そう、そしてキャラクターも同じこと、愛があれば、そのキャラの描かない日常を空想し、そしてどのような言葉や事象に、どのような反応を返すか、それを何百通りも趣味レート出来てしまうのよ、揚句には内容に対して「いや、このキャラはこうは言わないな」と勝手に動き出すようになるのよ、そうすればどのような路線変更や設定変更を受けても、キャラクターが対応してくれるわ、これはキャラクターを人間と捕えて、愛を持って接すればこそ、ただの記号や役割で見ている内は、そこまでの動きを見せてはくれないのよ」
「な、なるほど」
「そして! 愛すべき世界、キャラクターが出来れば、ストーリーなんて、その世界を説明するツールに過ぎないわ、もし受けが悪いなら何度でも変えてやり直せる、道具に成り下がるのよ!」
「で、でも普通はストーリーを見せたい為に世界観とかキャラはあるんじゃ?」
「ストーリーを引き立てる為だけの世界観やキャラなんてただの使い捨てよ! むしろキャラや世界観の為にストーリーはあるのよ!」
「そ、そうなんですか……ストーリーは、ただの引き立て役に過ぎないんですね……」
「でも、勿論読者はストーリーを見に来ているわ、だからおざなりな内容や展開じゃ見向きもされない、でも人は読んだ後にはストーリーよりもむしろ世界観がキャラに惹かれるのよ、だからもっと読みたいと思う様になりファンになるの」
「そうなんですか」
「そう、誰よりも作者が作品を愛してこそ、読者の愛を得られるのよ」
「愛されるよりまずは愛せと言う訳ですか……」
「いや、アンタの中からそんな格言が出てくると流石にキモい」
「その発言こそ愛がありませんよ!?」
[続く]




