愛1
『愛』
「駄目です!」
「い、いきなりどうしたのよ?」
「こんなんじゃ……全然駄目なんです!」
「ま、まぁ自分を知る事は良い事よね」
「で、でも……何が足りないか分からないんです。テーマも、プロットも構成も、満足いく出来栄えだと思います、面白くなるようなギミックも配しました、キャラクターも自分では魅力的だと思います、説明もくどくなく、展開も読み易い形になっていると思います、でも、心の中で何かが欠けていると思うんです! その何かが足りなくて、全然納得いかないんです!」
「なるほど……ついに」
「ミライさん! 僕はやっぱり駄目です!言われた事は全部試しました! 出来るだけのことはやってみたんです! でも、まだまだ全然ダメで!」
「ふふふ」
「ミライさん?」
「そう、貴方も遂に、其処に辿り着いたのね」
「何を言ってるんですか?」
「いい? ソレは自分の作品が駄目だからじゃないわ、自分の作品に、ある感情が芽生えつつあるからなのよ、だから妥協を許せなくなるのよ」
「感情?」
「そう、ついに、貴方に最後の秘訣を教える時が来たようね」
「最後の……秘訣?」
「これは誰でも辿り着ける境地では無いわ、それにそれを身に着けたからと言って、上手くなったり人に褒められたりするわけでもない、むしろ邪魔になる時だってある。だけど、それはセオリーやルールや記号や流行を守るだけでは決して得られない、非常に大切な事なのよ」
「そ、それは?」
「それは[愛]よ」
「愛? 恋愛要素って事ですか? それならちゃんと入って」
「違うわ、貴方の、自分の作品に対する[愛]よ、いわば作者の作品愛!」
「作品愛!?」
「貴方にはそれが芽生えつつある、だから作品から訴えかけてくる声が聞こえるのよ、もっとより良くしたいと言う欲が生まれるのよ、十分に水準には達しているのに、それでは満足できず、更なる努力に挑もうとしているのよ、それらは全て愛ゆえによ!」
「そ、そんなファンタジーな……」
「愛が芽生えた作者には、その作品がどのように進めば一番いいかが手に取るようにわかるのよ! どのような場面もパッとイメージが浮かんでくるわ! でも、その代り愛が深すぎて、他人には理解出来ないような所に拘りを持って、突き詰めてしまえば自分以外の誰にも理解されない様な難解な物になってしまう恐れもある、それでも貴方は、その扉を開く?」
「も、勿論ですよ、ここまで来たら皿まで食らいます!」
「いい返事ね、では最後の講座を始めるわよ!」
[続く]




