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僕とミライの傑作小説  作者: cry-me
81/94

感情を揺さぶれ3

[3]


「さて続いては恐怖について話すわよ」

「でも、皆楽しむ為に読むんですよ? 恐怖を揺さぶってもしょうがないんじゃ?」

「あのねー、恐怖の感情が面白さに繋がらないなら、世の中にジェットコースターやお化け屋敷やホラー映画が此処まで流行る訳ないじゃない」

「た、確かに!」

「恐怖と言う感情は、いわば雰囲気とか空気に近い所があるわ。それ故に登場人物の行動や、会話シーンだけでは描けないし、泣きや笑いに比べて格段に難易度が上がるわ、でも、それ故に上手く狙えればとんでもない威力を発揮するのよ」

「な、なんと……」

「人は誰しも恐怖からは逃れたがる。小説は逆にそれを突く事が出来るのよ、登場時に感情移入が出来れば、その人物が恐怖体験をしたとき、読者はその事件が解決するまで読むのを止める事が出来なくなるわ」

「た、たしかに……」

「つまり恐怖演出を入れるだけで、読者は次の展開が気に成ってしょうがなくなるわけよ、それがどんな平凡なシーンでさえ、迫りくる恐怖がちらつくだけで、たわいも無い日常は得も言われぬ不安な光景に変わる、日常描写がリアルであればあるほど、読者は文章から顔を上げても、作中の恐怖がまとわりつき周囲を見回してしまうのよ」

「す、凄い影響力ですね」

「その分、描くには物凄く緻密に計算した描写が求められるわ。とりあえず行き成り恐怖の本体をどんと置いては駄目で」

「怖い物を描くのに、最初に描いちゃ駄目なんですか」

「恐怖は本能的に訴えなきゃ駄目よ、その為には段階的に気配を出していくの。さいしょは何となーくイヤーな雰囲気を出して不安にさせたり、噂話を又聞きすると言う感じでゆっくりと近寄ってくる感じを表すのよ」

「何だか寒気がしてきます」

「他にも恐怖は、幽霊とか呪い以外にも、暴力や犯罪、破滅等様々な種類があるわ」

「要は基本的に身に降りかかって欲しくない事ですね」

「分かって来たじゃない、降りかかって欲しくない、でも逃げられない。だんだん近寄る足音、コレが恐怖演出のコツよ」

「おおお、ちょっと恐怖良いなって思ってきましたよ」

「あとは物語の展開上、恐怖を克服するのか、恐怖に発狂するのか、恐怖から無事逃げおおせるのかと方向性は作者の好きにすればいいわね」

「結末は割と適当なんですね」

「恐怖の本領は、実際に姿を現すまでに如何に怖さを演出して場を盛り上げるかに依るのよ、姿を見せない内が本番よ、むしろ最後まで正体を明かさずに、ずっと読者を不安な気持ちにさせ続ける事だって出来るわ、それこそトラウマを植え付ける事だって出来るのよ」

「おおお、恐怖パないっス」


[続く]


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