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僕とミライの傑作小説  作者: cry-me
46/94

ホラーセオリー4

[4]



「向こう側に、こちらの常識は通用しない。

 向こう側には、こちらの法則すら適用されない。

 向こう側には、向こう側のルールがある。

 それに従い、守る内は少なくとも安全だ。

 危険の一歩手前で、立ち止まって居れる。

 大切なのは、何をするべきで何をしてはいけないかだ。

 一度ルールを犯した者の末路は。

 彼等のみぞ知る。

          ――境界」



「ライセ! そのお茶!」

「え、なに? もう飲んでしまったわよ? 欲しかったの?」

「手遅れか……」

「え、どうしたっていうの?」

 戸惑うライセに、未来は深刻な表情で語る。

「席じゃなかったの! この教室では、人数分に揃えた何かが必ず一つ余るのよ!」

「教室に生徒が居た時は座席が一つ余っていたんですね、そして今回はお茶の缶ジュース……」

「え、え? つまり?」

「人数丁度に成ったら、誰かが減って必ず一つ余る……」

「ちょっとやだ……何よそれ、私関係無いじゃない!」

「この手の現象に、関係とか立ち位置とかは無いのよ、理不尽にルールを犯した者が対象となる」

 唐突に、廃校を照らしていた持ち込んだ照明が一斉に光を失った。

「きゃっ!?」

「なに?」

「くらいの」

「何か変わりの明かりをっ!」

 闇が覆いかぶさる。夜が包み込む。何かが忍び寄る。

「きゃ誰?」

『……ふふ』

「何か聞こえるわ!」

「またスピーカーなの?」

「ちょっと皆あんまり動かないで!」

「きゃぁぁぁぁぁっ!」

「この声ライセ? どこ?」

「声が聞こえなくなったの」

「ああもう、どうなったんですかっ!」



「終わりを告げる朝の光。

 怖い怪談の終わりを告げる日の光。

 恐怖の薄れる人の時間。

 しかし、忘れてはいけない。

 それは、彼らが眠りにつく時間というだけで。

 全てが終わるわけでは無いと言う事に。

          ――朝」



「ううーん」

「あー、身体が痛い……っていつのまに僕等寝たんでしょうか?」

「あ、ホント……ああもう、床で寝たから服しわになってるー」

「……夜が明けたの」

「まったく最後はもう何か訳が分かりませんでしたね」

「あ、そうだ……最後に食べようって思ってたアイス食べてないわ」

「……暑いし丁度いいの」

「今食べましょうよ」

「そうね、はーいほら受け取って」

 ミライがクーラーボックスを取り出すと、皆でそれを手に取った。

「あれ、アイスが余らない?」

「ミライさんそりゃそうですよ、人数分用意したんなら余りませんよ」

「でも、ライセが連れて行かれて、一人減ったわけでしょ?」

「ははは、ミライさん何を言ってるんですか、ほらライセさんならそこに」

 教室の陰で、それまで無言でいたライセはアイスを手にゆっくりとこちらを向いた。

 無表情で、焦点の合わない瞳で、こちらを向いた顔はまるで別人だった。

 そして唐突にその顔が歪んだ。

 まるで、表情の筋肉を使わず外側から歪める様な、人形を無理やり笑顔にさせるような、口角を無理やり吊り上げて、でも瞳は笑っていない、不安を招くカタチの無い笑顔。

 そして教室に音が響く。



『……また、おいで……』



[続く]


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