ホラーセオリー2
[2]
「賑やかなはずの学校も、夜になれば静けさの塊となり、靴の響く音すらひたすらに怪しく不気味に思える。
ましてそこが廃校ならばなおの事。
薄汚れた校舎。割れた窓硝子。罅の入った廊下。
もはや使われていない様子が、むしろ人知れない何者かの痕跡に思えて。
耳を閉じ、目を閉じ、口を閉ざしても。
低い何かの音が、暗闇の奥の蠢く何かが、誰かのかすかな声が。
意識の中に入り込んでくる。
全ては気の所為だ、自分の想像が見せる幻覚だ。
そう思わなければ、やっていけない。
――夜の学校」
「じゃ、とりあえず校舎回って行こうかしら」
「何かもう、ホラー特番みたいになってきましたね、さっきロケ弁出たし、ってか一緒に弁当食べたスタッフが見当たらないんですけど、コレ絶対脅かし役として何処かに潜んで居ますよね?」
「まぁ実録とか体験ルポならともかく、セオリーとしてこういった肝試しチックな仕掛けは必要でしょ」
「そりゃそうですが、仕掛けあるならもうちょっと隠そうと努力しましょうよ」
「仕掛けはあくまで何にもなかった場合の最終手段よ、とりあえず最初は本物の体験を目指すわよ」
「……この学校の物と思しき制服に着替えるのもですか」
「やっぱり生徒の霊なら、同級生っぽい恰好した方が出やすいでしょ」
「まぁミライさんは元々の身長と相まって、この紺色のブレザーが似合っていますけど、僕はちょっと無理がある様な……」
「まぁまぁほらほら、女の子連れだって肝試しよ、悪い気はしないでしょ?」
「ま、まぁー、でもその女の子が仕掛け人で、驚いて抱き着いてくる気配皆無となると楽しみが十割ほど減退するんですが、そもそも何で僕がわざわざこんな夜の廃校を歩き回らないといけないんですか」
「ホラーの構成要素の一つとして、使命感があるわ」
「使命感、ですか?」
「まぁ簡単に言うと、暗闇大好き! 幽霊ウェルカム! って奴がこういう場面でいくよりも、暗闇怖いし幽霊でそうだし嫌だなーでもいかないとなーって心理の方が、共感しやすいし怖さの演出に成る訳よ」
「いやだから何で僕行かないといけないんですか」
「それともアンタ……女の子一人をこんな暗がりに放置する気かしら?」
「……噂より何よりミライさんが怖い!」
「おっと! ほら早速向こうから蒼白い火の玉が!」
「言っている傍から仕込みに走るんですね!?」
「ああ、急に怪しい子供の声が聞こえるわ!」
「もうガイドまでし出すんですね……この棒読み感はリンネですか、むしろ彼女の方が怖がってるんじゃないですか?」
「こういうのって、仕掛け人って心構えでいると暗がりとかあんまり怖くないのよね」
「僕もそっちが良かったです!」
「っと窓の外を誰かが横切ったわよ!」
「もう帰っていいですか?」
「ちょっとは反応しなさいよ!」
「うげは! ちょっとお腹止めてくださいよ、さっき食べたロケ弁とお茶がこみあげてきたじゃないですか!」
「ちょっと幾ら怖いからって吐くのは止めてよね、女の子が居るんだからね、そこトイレあるし寄ってく?」
「何か罠っぽいんで遠慮します」
「むぅ、意外と警戒心が強いわね、こんな絶好のロケーション、アナザーだったら死んでいるのに」
「殺す気で来ているんですかっ!」
[続く]




