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僕とミライの傑作小説  作者: cry-me
39/94

ファンタジーセオリー3

[3]


「何故旅人が武器を買うのか? 何故商人が護衛を雇うのか? 何故街には外壁が設けてあるのか? その理由をご存知か?

街の外には危険が溢れているからだ。

 獲物を求めてさまよう野獣。不用心な旅人の身包みを剥いで行く血も涙も無い野盗。

 死んだ事すら忘れ発狂する亡者、他者を引き摺りこむ鬼火、神々が戦いの際に生み出した怪物。それらは時に偶然に、時に意志を持って、時に行く手を遮る障害として。

 立ちはだかる。

          ――敵」


「風よ、その加護で我等を包み込め!」

 ミライさんが叫ぶと同時に、僕等の周りを厚い風の層が包み、野盗の放つ矢を防ぐ。

「はぁぁっ! なの」

 リンネの振り回す戦斧が野犬の一匹を打ち据えて、大岩に叩きつける。

「闇の導き(カラバル・ラガレド)よ、飽くなき人の探求心、その貪欲なる業の意志をこの世に解き放つ標と成れ!」

 ライセの持つ杖が、渦巻く炎を生み出し、野犬と野盗を牽制する。

「ど、どうしますかミライさん! 囲まれました! 全然逃げられる気配も無いです!」

「そうなのよね、魔法とかでドカンと一発逆転出来ないのもハイ・ファンタジーの醍醐味」

「ジリ貧じゃないですか!」


 その時だ。駆け寄ってくる幾つもの蹄の音。そして怒号。

 それに野党と野犬の群れは慌てて踵を返す。

「ようやく来たわね」

「な、何がですか?」

「援軍よ」

 さっそうと現れたるは、馬に跨り甲冑に身を包む、騎士の隊。

 彼らは野盗を追いかけ、そして訓練され洗練された剣筋で追い払い仕留めていく。

「エルフの王国と、人の王国は協力体制にあるのよ、だから近くに騎兵隊が居れば救助を要請できるのよ」

「はぁ、そんな設定が……だから最初に音の成る弓を放ったんですね」

「主人公達とは別件で組織が動くと言う所も、リアリティーある世界観を作るコツよ」

「な、なるほど……でも、救援が呼べるなら最初に言って欲しかったです」

「今回偶然近くに居たから来てくれたわけで、何時も来てくれる訳じゃないわよ」

「……帰っていいですか?」

「冒険が終わったらね」


 騎兵隊は、随分昔にエルフの王国より盗み出された秘宝を追っている最中だと述べた。

 その秘宝は、邪悪なる竜によって持ち去られ、王国付の騎士の一人が追いかけ、そしてついには帰らなかったと言う。

 騎士達は僕等の旅の無事を祈り、野盗の残党狩りを行うべく駆けて行った。


「洞窟とは、冒険の恰好の舞台である。

 暗く、装備もなしには容易に踏み込めず。

 未知の生き物がその身を隠し。時に犯罪者や得体の知れない人物が隠れ潜み。

 そして全てを闇に覆い隠す。

 踏み込むならばご用心を。自らがその闇の住人に成らないように。

          ――洞窟」


「光よ、その加護で我等を包め!」

 ミライさんが手を伸ばすと、僕等の周りが淡く発光しだして、真っ暗な洞窟の奥を照らしだした。

「いつからミライさんそんな凄い便利に成ったんですか!?」

「私エルフだもん、弓の他にも 光の導き(ミラ・ラガルド)の魔法で光や幻、風や大地の魔法が使えるのよ」

「エルフって便利なんですね、じゃこのジメジメした洞窟とか地均ししてくださいよ」

「魔法は何でもできる訳じゃないわよ、ここからが本番なんだからしっかりしなさい」


 洞窟を煽動するのは、ドワーフのリンネであった。彼女は重々しい鎧に悪戦苦闘しながら僕等を煽動する。

「……ここはドワーフの坑道なの、ドワーフは王国の地下にこんな感じの穴を掘りまくっているの」

「さっきの野盗とか追いかけてこないんですか?」

「この穴をドワーフの道案内なしに進む事は非常に危険なの」

「なるほど結構厳選されたメンバーなんですね」

「でも油断は禁物よ! ほら敵!」

「えええ!?」

 ミライの指差す方向からは、薄暗い闇をその身に纏いながらゆっくりと姿を見せる白い影。骨組みだけの身体に、生前身に着けていた鎧と武器を持ち、髑髏がこちらに向けられる。その瞳の無い眼窩には、確かに殺気が宿っていた。

「さぁついにファンタジーっぽい敵! スケルトンのお出ましよ!」

「って奥から物凄い数がわらわらと出てくるんですが!?」


[続く]


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