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僕とミライの傑作小説  作者: cry-me
38/94

ファンタジーセオリー2

[2]


「賑わう街並み、人の群れ。旅人行商、騎兵物乞い、使用人に町娘。

 馬車に猟犬、花売り小間使い、占い師。

 人、物、金、情報、あらゆる物が行き交う。

 此処は何でも揃う、さぁ冒険に必要な物を狩って行け。

          ――交易都市」


「冒険に出かけるのに丸腰なんて何考えてんのよ」

「いや、勝手に冒険に出かけようとしていたのはそっちなんですけど……」

「えーと、じゃはいコレ」

「剣ですか、良いですね、ちょっと小さい気もしますが」

「ショートソードよ、あとは革鎧くらいでいいんじゃない? あんまがっしりした奴だと重くて動けないだろうし」

「いい、何か恰好いいですね! ショボイ装備ですけど、来てみると案外テンション上がりますよ! で、これから僕に似合う伝説の剣なんか探しに行くんですか?」

「はぁ? アンタ自分が勇者に成れるとでも思ってんの? あんたなんか一生懸命頑張っても門番がいい所よ」

「え、でもファンタジーってそう言うサクセスストーリーじゃないんですか?」

「ヒロイック・ファンタジー成らね、ハイ・ファンタジーはリアル思考よ、元々の才能や生い立ちや、何かの経歴が無いキャラは身の丈に合った冒険しか出来ないのよ」

「ひ、酷い……」

「ほら落ち込んでないでさっさと準備しなさいよ、傷薬は買った? 毒消し薬も必要よ」

「毒消しって具体的にどういう効果があるんですか?」

「これは月角樹と向月葵と星草をハーブと一緒に聖水と五色水に付け込んだ物よ。(カラバル)の魔法による毒を打ち消す効果があるわ」

「おお一気にファンタジーっぽくなりましたね、闇の魔法とか、魔法の毒ですか……何かそれなら効きそうですね、え、じゃ普通に毒きのことかの毒は?」

「あきらめるしかないわね」

「便利何だか不便何だか」


「街を出ると、其処には何処までも自然が広がっていた。

 街の外では人は孤独だ。

 故にパーティーを組み、隊列を組み、徒党を組み、目的地へと歩き出す。

 自然の驚異から身を守る為に、徘徊する獣から身を守る為に、不安や恐怖から身を守る為に。

          ――街の外」


「街から一歩でも出たら危険がいっぱいなんだから気を付けなさいよ?」

「え、でも僕たちちゃんと武器も持っていますし、街の周辺なんて雑魚でしょう? そんなに警戒するもんじゃないと思うんですが」

「馬鹿ね、ハイ・ファンタジーを甘く見ちゃいけないわ、例え待ちの近くに出現する雑魚でも、リアル指向なら死人が出るくらいの強敵なのよ」

「ハードですね……」

「しかもこういった場合、死人は蘇らないのが基本よ、大怪我とか負ったら助からないから気を付けてね」

「それも出歩くなって言ってるに等しいんですけど」


 すると、丘の向こうから幾つかの黒い影が殺到してきた。

 獰猛な唸り声、血走った眼。漆黒の毛並。

 野犬と言うには大きく、恐ろしい。


「敵のお出ましよ! 武器を構えて!」

「エンカウントって奴ですか!」

 叫ぶや否や、ミライは弓を上空に構えて、特殊な形状の矢を放つ。矢は大きな音を響かせて空へと上がって行った。

「今のなんですか?」

「合図よ、とにかく敵が来るわよ!」

「わぁぁぁぁっ!」

 剣が振るわれ、斧が振り下ろされ、矢が飛ぶ。時折爪や牙が革鎧を掠める。

「あっちいけあっちいけ!」

「ちゃんと狙いなさいよ! 全然当たらないじゃない!」

「そう言っても!」

 すると、野犬に追い立てられる僕等にさらに近づく影があった。

「不味いわ、野盗よ!」

「ここでさらに不利になるとかハード過ぎません!?」

「それがハイ・ファンタジーって奴なのよ!」


[続く]


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