世界観1
【第三話】
『世界観』
「よし完成だっ!」
「ふぁー、こんな朝早くに一体何を騒いでいるのよ」
「おや、コレは自称未来から僕の傑作小説を書く手伝いにやって来たと言う、案の定押入れに住み込んだりしちゃっている(やっぱり肩書長い)末記ミライさん、おはようございます」
「ミライでいいわよ、おはよ、所で一体朝っぱらから何やってたのよ」
「フフフ、聞いて驚いてください。実は小説の世界観を練っていたんですよ!」
「へぇ、スゴーイ」
「時は人類抵抗暦299年、人類は突如として現れた異界からの軍勢に襲撃を受けてからかなりの時が経とうとしていた。人類共通の敵の出現に、人は協力せざるを得なく、世界連邦を結成した。そして国家の垣根を越えて行われた異世界との戦争は更なる敵、高次元の存在、第三認識種の登場によりさらに混戦となる。そして異世界との停戦が締結され、高次元の敵を共に迎え撃つ事になる。そして抵抗暦300年を記念し、世界連邦青少年士官学園ミース。異界より白の女王騎士団養成学校アドリエ、黒の薔薇園寄宿学校ロードアスター、竜の奈落城ワールアドロンという教育機関より生徒を選抜し一つの学校に通わせると言う異文化コミュニケーションが」
「ちょ、ちょっと待って、起き抜けにいきなりそんな電波放たれても私受信しきれないからっ!」
「な、なんですか? ここから共通敵と認識されていたはずの第三認識種側からの行き成りの転入生登場という説明に入ろうと言う所だったのに」
「ま、まぁ……設定を練る事は悪くないわ、無いよりは断然あった方がいいもの……で、貴方はその設定をどうするつもり?」
「え、そりゃせっかく作ったんですから冒頭にバシッと張り付けて前提知識として」
「はい失格!」
「ええっ!?」
「だいたい、何処の誰がそんな興味の無い設定のオンパレードを喜んで読むって言うのよ」
「で、でも設定って大事じゃないですか! なるべく最初の方で知っておかないと物語の前提条件とかわからないじゃないですか!」
「だとしても! 行き成り冒頭にコピペするのは単なる作者の手抜きよ! ってか、その人類抵抗暦だっけ? それ知ってないとどう読むのに困るっていうのよ?」
「いや、別に困りはしませんけど」
「要らない設定をだらだらと説明するなぁっ!」
「あああ、そんなっ! 美しい御足が僕の鳩尾にぃぃっ!(御馳走様です)」
「そう言うのを読ハラ(読者ハラスメント)って言うのよ!」
「いえそんな言葉無いですよっ!?」
「……これから生まれるのよ」
「で、でも……せっかく作った設定を乗せるななんて……だったら世界観設定なんて作る意味ないじゃないですか! ごく普通の学校の教室なんて描写する意味も無い箱庭みたいな世界観じゃ、オリジナリティなんて出せません!」
「箱庭を舐めるなぁっ!」
「げふぅ!(捻りの籠った蹴り御馳走様です)」
「大体どんなシーンだったとしても、魅力的に描くのが作者の腕でしょうが……貴方は、普通の学校なんてって言ったけれど、学生時代に通った教室に、本当に何の感慨も浮かばないわけ?」
「え?」
「数多の人が生きる空間って言うのは、それだけで一つの空気が生まれるのよ。苛められっ子には辛くて地獄の様な、青春を謳歌する者には輝かしく活き活きと出来る様な、恋する者には、甘く切ないムードが漂う様な、其処に過ごす者によって様々に色を変えるのよ! 貴方は箱庭と言ったけれど、貴方は箱庭をどこまで知っているって言うの?」
「そ、それは……」
「それに、誰も載せるなとは言って居ないわよ。冒頭で全部説明するのを止めなさいと言ったのよ」
「じゃ、じゃあどうすれば?」
「物語を書くページは何十ページもあるのよ? その中に細かく分散させて説明させていけばいいのよ、そうすれば読者も自然と物語に入り込んでいけるし、ある程度話が進めばさほど重要じゃない設定もイメージを広げる為にすんなり読んで貰えるわ」
「な、なるほど!」
「いい? 世界観は作者が物語を作る上で大事な物かもしれないけど、読者にその世界に浸って貰う為に必要な物でもあるのよ、だから決して適当にしたり、説明を手放したりするんじゃなく、ちゃんと読者が読み進めるうえで必要な情報を、必要なタイミングで提示してあげるようにするのよ」
[後編に続く]