推理セオリー3
[3]
「部屋の扉は内側から施錠され、窓も同様。
扉は外側から開ける手法は無く。
外は嵐、二階の書斎に外から入る手段は無し。
扉と窓以外には、天井付近に空調用の通気口があるが、人が通れるサイズでは無い。
そんな部屋の中で、誰かに殺されていた。
――密室殺人事件」
「私は恐らくミライさん達の後に、主の書斎に訪れた事になりますわ」
青髪のライセが、自らの行動を振り返る。
「やはりその時も鍵は掛かっておりました。何でも主は最近誰かに命を狙われていると感じておいでで、それ故に常に書斎には鍵をかけて引き籠っているようだったわ」
「どんな事を話したわけ?」
「他愛無い世間話を少々、そしてあまり神経質に成らず、気分転換に晩餐会では一つ催しなど開き楽しんではと提案したのですが、この様な結果になってしまって……」
「その時の主の様子は?」
「随分と気を持ち直したようでしたわ。その後は部屋に戻り、停電に驚いて晩餐会場にて皆と合流し、書斎へ向かいました。何とか処置をしようと試みましたが、間に合いませんでした。もう少し早く主の書斎に向かって行っていればと思うと、悔やまれますわ」
ライセは悲しげに顔を伏せる。
「処置と言うと何を?」
ミライさんの問いに、ライセは少し考える様にして答えた。
「と、とりあえず止血を試みました。しかし今考えれば近寄った時にはもう死んでいたかもしれませんわね」
「じゃ、近寄った際に脈は取らなかったの?」
「そんな余裕はありませんでした、とにかく応急処置を使用と頭がいっぱいで」
「皆が書斎を出た後は?」
「暫くして主の体が冷たくなって行って、そこでようやく死んだという実感がわいてきましたわ……そしてまずリンネが戻って来まして、次に貴女達が」
「どうですミライさん? 停電してから、僕等がブレーカーを戻して帰るまでライセさんはずっと晩餐会場に居ましたし……発見してからずっと主の死体の傍に居ました、怪しい所は無いと思いますが」
「……そうね」
「やはり、外部の犯人が館に忍び込んだんじゃないでしょうか?」
「あのねー。何で推理セオリーでいきなり名前も無い通り魔が姿を現すわけよ! その上何? ノイローゼによる突拍子も無い自殺とか、名前を書かれたら死ぬノートに、他殺に見せかけるように死ぬと書かれたからとかそんなトンでも推理を進言するつもり!?」
「いや、そうは言いませんけど、僕やミライさんは違うとして、ライセさんにも犯行は不可能……だって主と二番目に会ったのなら、三番目に会った人が居る以上その時点で主は死んでいない訳で、ましてあの幼女に主を殺す事なんて可能とは到底……」
「いい? それでもね、推理セオリーである以上、犯人はこの館の中に居るのよ、決して後半に姿を現す急な来訪者や、今まで名前の出てこなかった使用人じゃなくて、今の所名前の出ている登場人物の中にね」
「でも推理って意外性が大事じゃないですか」
「その為にセオリーを犠牲にしてはいけないわ。意外性は確かに大事だけど、守るべきルールはしっかりと守らないと読者の反感を買うのよ」
「へぇ、意外とそう言う決まりがあるんですか?」
「それほど絶対的なルールでは無いけどね、有名な所ではノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則。この辺は作者と読者にフェアプレーを呼びかけるルール的な事を指すモノね、推理物はある程度読者も頭を捻らせて答えを導かせるように作らないといけないのよ」
「どうしてですか? 探偵が華々しく解決するんだから、読者はそれをただ漠然と読み進めるだけでいいじゃないですか」
「まぁ娯楽として、オマケ程度の推理要素ならそれも致し方ないでしょ、でも本格推理物に挑戦するならば、読者と勝負する気持ちでトリックを考えて、推理のヒントを鏤めて、互角の条件を用意するべきなのよ、それが推理物の面白さとも言えるわ」
「成るほど……奥が深いですね……」
「因みに今回はオマケ程度の推理要素なんで」
「え、ここは本格やらないんですか?」
「推理セオリーの説明でそんな大層な事やってる余裕は無いわよ」
「何か世知辛い……」
[続く]




