推理セオリー1
『推理セオリー』
「大雨が窓を打つ。大風が壁を揺らす。けたたましく雷が、皆の耳を掻き鳴らす。
山中の古屋敷は、今や閉ざされた唯一の世界となった。
館の主が開くと言う晩餐会。
急に起った停電も復旧し、しかしいくら待てども主は姿を見せなかった。
嫌な予感が、皆の頭を巡り巡る。
――古屋敷」
「何とか体当たりで、施錠された書斎に踏み込むと、其処には主が倒れていた。
背中には一本のナイフ。血がシャツを赤く染める。
主は施錠された部屋で物言わぬ躯と成り果てていた。
誰かが悲鳴を上げる。窓の外で雷が鳴る。
人が殺されている。
――死体発見」
「え、ちょ……ミライさん……いきなり誰か死んでるんですが!?」
「ちょっ、おおおお、落ち着きなさい! 推理セオリーなんだから冒頭で死体が転がるのはお約束なのよ!」
慌てる僕等を後目に、一人の青いウェーブ掛かった長髪の、グラマラスな体をドレスに仕舞い込んだ女性が、倒れている主の元へ駆け寄って行った。
「……まだ助かるかもしれないわ、誰か止血用のタオルと救急箱を! あと救急車の手配が出来るか連絡を!? あと、犯人がまだ近くにいるかもしれないわ、気を付けて!」
「は、はい!」
「……まぁ助かる見込みはないと思うけどね」
僕等は慌てて、部屋から出て行った。
「タオルってこのぐらいあれば良いでしょうか?」
「多分無駄になると思うから持てるだけでいいわよ、この救急箱も恐らく無駄よ」
「他の部屋見て回らなくていいんですか?」
「この大雨の中山に出ていくのは自殺行為だし、犯人はこの屋敷に居続ける事を選ぶはずよ、ならなるべく大勢でまとまった方が安全だわ……まぁ、他に犯人が居るのなら、だけどね」
主の書斎にタオルを抱えて戻ると、其処には赤いショートヘアの小さな女の子が先に戻って来ていた。
「駄目なの……電話が通じないの、きゅうきゅうしゃもけいさつも呼べなかったの」
彼女はそう無表情に呟いた。
台本を持っていなければ、それは感情を押し殺し恐怖を抑え込もうとしている悲痛なシーンに見えた事を思うと残念でならない。
部屋の中では青髪の女性、ライセが主人に出来る限りの処置を施していた。部屋の床に血は広がり、彼女のドレスも血に染まっていた。
やがて彼女は、悲痛な声で告げる。
「……駄目、亡くなったわ」
殺人が行われたのだ。
とりあえず行われる事は無くなった晩餐会の会場に、皆集まって落ち着く為に席に着いた。そこでミライさんが口を開く。
「さて、誰かここに居る以外に人を見た?」
「……僕は見てないです」
「私は主の処置をしていましたから」
「見ていないの」
ライセと赤髪の少女リンネも見ていないと告げる。
「なら……今この屋敷の中に居るのはこの四人と言う事になるわね、はっきり言うわ、犯人はこの中に居る!」
「えええええっ!?」
[続く]




