恋愛セオリー3
[3]
「窓から差し込む日差しに、資料の詰まった箱と机が浮かび上がる。
雑務に追われる放課後。それはそれで充実した、日常。
変わらない日々、変わらない部屋、変わらない役員達、それら全てが輝くようだ。
――生徒会室」
「さぁ、部屋に入ったなら後はイベントを起こしていくだけよ!」
「はぁ、生徒会なのはいいとして……僕等役職は何に成るんですか?」
すると黒板を背に、机に座る赤いショートヘアの少女が声を発した。
「書記と会計、随分と遅かったの」
彼女の袖には生徒会長という腕章がついていた。
少女はやや棒読みな口調で、二人を叱咤する。
「生徒会やくいんたるもの、生徒のもはんとなるよう行動する事をこころがけるの」
相変わらず台本を片手に持って。
「……彼女に生徒会長は荷が重過ぎませんか?」
「まぁ恋愛セオリーだから生徒会の仕事がこなせるかどうかはあまり問題に成らないし」
「とりあえず僕は書記ですか」
「どうやら私は会計の様ね」
少女はやや無表情気味に、不満そうな声を上げる。
「こんなていたらくでは、貴方達の評価を下げざるを得ないの、まことにいかんなの」
「何か好感度下がってるっぽいんですが」
「そう、これこそ恋愛セオリーの一つよ、あえて好感度を下げるイベントを挟む訳!」
「ええ、恋愛において好感度は上げる物でしょう!?」
「分かってないわね、好きの反対は無関心よ、興味があるだけ嫌われるのも好感触なのよ。逆にマイナスのイメージは一回のプラスイベントで一気に逆転可能よ」
「なるほど、逆に言えば最初は好感度を下げまくった方がいいって事ですかね!」
「いやまぁ、上げる事が可能なら上げた方がいいとは思うけど」
「なるほど、じゃとりあえず告白してみましょうか」
「はぁっ!? なっ、行き成り何しようとしてんのよ!?」
「え、だって好感度上げろって……それに恋愛セオリ―ですよね?」
「だからって行き成り告白する馬鹿が居るか! とりあえずまずは友達に成るのが基本でしょ!」
「でも男女間で友達関係は成立しないって!」
「何でそう言った事ばっかり詳しいのよ! とにかく! 行き成り告白なんて今時ゲームだってあり得ないわよ」
その時、青髪の女生徒が背後から近寄り、そっと身体を預けてきた。
「ほら、遊んでないでちゃんと仕事しないとぉ、副会長怒っちゃうわよ♪」
「ああああ、あの当たってますけど!」
「違うわよ、当ててるの♪」
「そりゃっ!」
「うげふぅっ! って何でミライさん僕を蹴るんですか!」
「それは、その……恋愛には痛みが伴うからよ」
「それ絶対こんな脇腹を抉る様な鈍痛じゃないと思いますが……」
「まぁともあれこういう最初っから妙に好感度の高めなキャラは要注意ね」
「え、何でですか? 最初っから好感度が高いならいいじゃないですか」
「それがいいことだらけでも無いのよ」
副会長は背中越しに手をまわして、頬へと指を這わせた。
「んもう♪ 他の娘ばっかり見ちゃって、ちゃんと私を見なさいよ、じゃないとその目玉抉っちゃうぞ♪」
「た、助けてぇぇミライさんこの人なんか怖いっ!?」
「ほらね、最初っから好感度の高いキャラは、遊んでいるだけか、別の目的がある裏のあるキャラか、下手に首を突っ込むと地雷化するキャラと相場は決まっているのよ、甘い華には刺があるってね」
「はぁっはぁっはぁっ……怖かった……ところで、ミライさんみたいな幼馴染キャラの場合はどうなんですか?」
「そりゃ、幼馴染は親しみやすくて最初っから好感度高いわ、でも逆に主人公に気づきにくい好意の示し方とかをしてて、色々とフラグは逃しやすいけど、ちゃんと気に掛けてあげれば攻略は簡……か、かん……単な訳よ」
「あれ、ミライさんなんか顔が赤いけど?」
「な、何でも無いわよ」
「で、最後なんて言ったんでしたっけ? ミライさんは最初っから好感度が高くて、しっかり見てあげれば攻略は簡単でちょろいって事ですかね?」
「そこまで言ってないでしょっ!」
「じゃ、ちょっと校舎裏まで行きましょうか?」
「いきなり狙ってんじゃないわよっ!」
[続く]




