冒険セオリー4
[4]
「長い困難の果て。彼らはついに辿り着いた。
数多の罠を抜け、ついに洞窟は終わりを迎える。
巨大な岸壁に挟まれた入江に、古びた帆船が佇んでいた。
何処か威厳溢れる佇まいは、近寄る事を拒むかのように怪しい気配が纏う。
冒険者足るならば、その一歩を恐れず踏み出してくるがいい。そう言っているかのようであった。
――海賊船」
「つ、ついに辿り着いたわよ! 冒険の醍醐味! お宝とのご対面だわ!」
「くぅ、此処に辿り着くまで物凄く苦労しているのに、何かカットされた気がします!」
「仕方ないわ、全てはページの都合よ」
「まぁともかく間もなく冒険も終わりですね」
「油断しちゃだめよ。冒険はこういった最後が一番肝心なんだから」
船長室へと踏み込む二人が見たのは、夥しい数の金銀財宝であった。
そして踏み込む二人を待ち受ける様に、額に一際輝きを放つ宝石の付いた船長帽を掲げる白骨死体と、そして青い髪の女性が居た。
「ここまでの道案内と安全確認ご苦労様、悪いけれど、やっぱり此処の財宝は私が独り占めさせていただくわ」
「あれ、この女性何処かで見た覚えが」
「馬鹿ね忘れたの? 最初の酒場で私達に地図を渡してきた女でしょ!」
「ええ、その人が何でここに!?」
彼女は銃を手に語る。
「本当は途中で海賊の子孫と共倒れになって貰う予定だったけれど、子孫さんは途中の罠で脱落しちゃったから予定を変更して私がこうして待ち伏せてあげたのよ」
「どうやらしてやられたようね」
「まさか、初めから僕等を騙してたんですか!?」
「途中で裏切る美女も冒険の醍醐味でしょ」
「そりゃ確かに醍醐味ですけど、これからどうするんですか」
「今こそ、知恵と勇気を振り絞る時よ!」
「ええ、知恵って言ったって……何かあったかな、あ、そう言えばあの海賊の子孫って設定の子何て言ってましたっけ?」
「我が元まで来れた暁には、宝はくれてやろう」
「その続きです」
「えっと、しかし船と……そうだわ!」
女性は冷ややかな微笑を浮かべて、銃を構える。
「あら、どちらから先に死ぬかの相談は決まったかしら?」
「そうね、取引と行かないかしら? 実は道中で私達、さらに凄いお宝の在処を手に入れたんだけど」
「そんなハッタリ通じると思うかしら?」
「信じなければそれでいいわよ、でも命を助けてくれるなら教えてあげてもいいんだけれど」
「駄目ですよミライさん、額の宝石の事は秘密って!」
「あ、馬鹿!」
女性はその言葉に反応して、白骨死体の帽子に飾られた宝石に手を伸ばした。
「あらそうなの、へぇこの宝石が……」
宝石が外された途端、白骨死体は崩れ去り、そして船全体が大きく震えだした。
「な、なんなの! 船が……そんなぁ!」
「あわわわ、船が崩れていきますよ!?」
「そう、これこそ冒険のセオリー! 最後に辿り着いたお宝に手を伸ばすと、罠が起動してお宝ごと埋没する大仕掛けよ!」
「わ、私のよ! 私の宝よ!」
「ああ、ミライさん、女性が宝と共に船の帆y楽に巻き込まれて!」
「人に構っている余裕は無いわよ、このままじゃ私達も」
「さぁ、この手に捕まるの!」
「ああ、キミは海賊の子孫と言う設定の女の子!? 罠に掛かってリタイアしたとばかり!」
「機を見計らっていたの! ここはもう駄目なの、さぁ逃げるの」
「何故……敵であるはずの僕等を?」
「それは野暮ってものなの、共に罠を潜り抜けてきた者同士最後は協力して窮地を脱するべきなの」
「そう、これこそ冒険の醍醐味! 最後には手を貸してくれるライバル!」
「……手を貸したいのはやまやまなの、でも二人は無理なの」
「へ?」
「ちょっ、ライバル役何だから最後まで責任もって助けなさいよ!」
「いやミライさん流石にこの幼女に二人の体重は支えられないですよ、どっちかが手を離さないと」
「じゃ貴方が手を離すべきね」
「いやここはミライさんが、私の分も頑張ってと自己犠牲を発揮して手を離して僕が名前を叫んで号泣するシーンじゃないですか!」
「くっ、ここに来てついにセオリーを掴んだと言う訳! 生意気な!」
「どうでもいいけど早くどっちが堕ちるか決めて欲しいの、最悪二人とも落とすの」
「あああ、こうなったら一度僕がミライさんにしがみ付いて、少女にはミライさんを掴む事に専念して貰って、僕がミライさんを伝って上に登って引き上げます!」
「背に腹は代えられないわね、時間が無いわ早く捕まりなさい!」
「では失礼します、よいしょ!」
「きゃぁつ! 行き成り何処を掴んどるかぁ!」
「あああああああありがとうございました―!」
「……これもセオリーなの?」
「知らないわよっ!」
[続く]




