冒険セオリー3
[3]
「入江から岩場の影へと小舟で移動すると、間もなく洞窟が暗い口を開けていた。
入り口から差し込む光が、済んだ海中を宝石色に輝かせる。
穏やかな波の音に導かれるまま、船は奥へと進んでいく。
やがて船は岸に止まり、さらに深く暗い洞窟の奥へと我々は導かれる。
――洞窟」
「ミライさーん、物凄く暗くて怖くておっかないんですけどっ!」
「ああもう、たかが洞窟程度で慌てふためくんじゃないわよ! あと背後に回るな抱き着くな何処触ってんだっ!」
「えぐぅ! ああ何かちょっと心落ち着きましたありがとうございます」
「まったく、こういった暗気な洞窟こそ冒険の王道でしょ! 作家ならむしろ喜びなさいよ、胸躍らせなさいよ、狂喜乱舞しなさいよ、阿鼻叫喚しなさいよ!」
「阿鼻叫喚はしてます!」
「そうだったわね、あちょっとあんまり壁際を歩くと」
「え、何ですか? アレ、何か岩に触れた手が何かのスイッチを押したような……な、何ですか洞窟の奥から何かが転がってきますよっ!?」
「洞窟に仕掛けられた罠! これぞ冒険の醍醐味よね!」
「奥から大岩が転がってくるじゃないですかっ! ミライさん今こそ未来の秘密道具で……ってアレ!? 何で一目散に逃げ出してるんですか! 冒険の醍醐味でしょう!?」
「悪いけどストーリーダイブ中は私もほとんどの機能が使えないのよ! ここは自分の力で乗り切るしかないわ」
「って言うか普段からほとんど何の機能も持たない癖に、何を今だけはってノリで説明してるんですかっ!? っと、そこの岩陰ならやり過ごせそうですよっ!」
「とうっ!」
「うわぁぁぁぁ!」
「ふぅ、間一髪だったわね……」
「……ちなみにもしああいった罠にかかって大怪我を負ったり、最悪死んだりしたら?」
「ああ、その辺は安心していいわよ未来の技術は安全第一だから、死んでもちゃんと現実に戻れるわ」
「ああ、そうなんですか。じゃそこまで慌てて逃げる必要は無かったんですね」
「でも死ぬほど痛いから極力安全に進む事をお勧めするわ」
「何で痛みフィードバックするんですかっ!?」
「リアリティの為としか言えないわね」
「もう帰りましょうよ!?」
「!? ちょっと待って、何か聞こえない?」
「ええ、また新たな罠が発動したんですか?」
「いえ、これは人の足音だわ、其処に居るのは誰!」
二人が降り男変える先に、たいまつを手に佇む少女が居た。
赤いショートヘアの少女は、海賊風の衣装に身を包み、挑戦的な表情でこう告げてきた。
「そうか、お前達も海賊の宝を狙っているのか、しかし我が祖先の宝を、みすみすお前等の様な冒険者に渡すわけにはいかないの!」
そう言ってこちらに少女は指を突きつけてきた。
「えっと、先祖はこう言っているの、わがねむりをさまたげることなかれ、もしわがもとまでこれたあかつきにはたからはくれてやろう、しかし船と額の宝石いがいはな……えーと」
台本を片手に持って。
「えっと、誰なんですか?」
「冒険に必要不可欠なライバルの登場よ!」
「あの思いっきり仕込みですよ? あんな子供がこんな洞窟来る訳ないですし、何処と無くミライに面影が似ている気が」
「さぁ、今こそ知恵と勇気でこの難関を乗り切るのよ!」
「うわっと背中押さないでくださいよ、難関って言っても相手は子供ですよ、何を恐れる事が」
「かくご糞小説家ぁ!」
「うわぁ銃撃ってきた!? あと糞小説家とか言ってる時点でこっち側だろお前!」
「ほらマスケット銃くらい気合で避けなさい、大丈夫当たっても死にゃしないから」
「でも死ぬほど痛いんでしょ!? いやですよ」
「死んでわびろぉー!」
「うわ今前髪掠った! って偶然壁に手を置いたら何かスイッチを押したような?」
「うわぁー何か奥から転がって来たの!?」
「ちょっと馬鹿狙うなら敵だけを巻き込みなさいよ!」
「死ぬほど痛いのはいやだー!」
[続く]




