少年の不幸
俺はウトウトしながら、ぼーっと黒板を眺めていた。教室をぐるりと見渡せば禿げかけた数学の教師がだるそうに授業を進めて、それを生徒たちはこれまただるそうに聞いたふりをしている。だるいんですね、わかります、俺もです。
窓の外を眺めれば、これまた禿げかけた、いや禿げた先生が授業を行っている。ハゲ隠せよ、みんなハゲが太陽の光で光るたび笑ってるからね。
そんなどうでもいいような事を考えながらぼーっとしている。見る黒板の文字は見るだけで気持ち悪そうになる。そんな授業、なんといっても暑い、流石に夏に扇風機だけって、夏舐めすぎだから、クーラー付けようよ。しかも俺が座ってるのは風の届きにくい扇風機の真下の窓際。日光のパンチには到底耐え切れない。
早く終わらないかな、正直もう限界。汗がシャツに張り付いて気持ちが悪い。
けど、時計の針はまだまだ終わる時間じゃない。
蝉が鳴いている。うるさい、やめてくれ、耳がやばいからね。ほんとどうにかなりそうだ。
「――――――――――11番」
俺が呼ばれたらしい、今日はついてないな。黒板にはよくわからない図形がびっしり書かれていた。これを解けと、まあ当然わかるわけないので「わかりません」と言ってそのまま席に着いた。
「じゃあ2番、答えろ」
2番さん(名前わからない)本当にすいません。
また窓の外を眺めてみた。外には依然変わらぬ風景が広がっている。そんな光景に飽き飽きした俺は、頑張って寝ることにした。
目が覚めると授業終了の三分前くらいでベストだった。
チャイムが鳴ると先生はだるそうに出て行った。ほんとご苦労様です。
四時間目だったので教室はガヤガヤし始めた。俺は教室を抜けて屋上へ向かった。入れはしないが踊り場には人はいない。静かなその場所にゆっくりと腰を下ろす。
弁当を食べようとすると、弁当がないことに気がついた。どうやら教室に忘れたらしい。
「あれ?儂の食事はないのか」
不満そうな声とともに隣に少女が現れた。
お化け?いえいえ違います、神様です。何食わぬ顔で現れたコイツは俺に憑きやがった困った神様だ。少女の姿をしているが紛れもなく神様だ。
名を「御狐」という。この近くにある神社の一応神様で狐だ。
そんな神様は弁当がないことに不満らしい。
「主よ、弁当がないとはどういうことじゃ」
「ごめんごめん、教室に忘れた。取りに行くのはめんどいから今日は無しで」
「のう、それは本気で言うとるのか」
どんだけ弁当食いたいんだよ。別に昼食一回抜いたくらいで死にはしないだろ。人間そんなに弱くはできていない、まあお前は神様だけどな。
「別に食わなくても平気だろ、しかもお前は仮にも神様だ」
「う、う、う、主のバーカ」
そう言って御弧はすうっと消えた。後でめんどくさそうだな、機嫌直しにお稲荷さんでも買ってやるか。
昼休みは三十分と長く暇だ。こんなとこにいるくらいなので友達と言える人はほぼ皆無に等しく、何もすることはない。携帯に至っては家族と連絡を取る以外使わず、俺の手には余る品物になっている。今なら百円で売るぜ(安すぎる)。
とりあえず横になってみることにした。横になると床がひんやりして気持ちいい。思わずこのままサボろうかななんて思ってしまう。
そんなことを考えていると、ウトウトしてきた。眠気はマックスだ。
起きなきゃと思ったが、時すでに遅く俺は寝てしまった。
脇腹に激しい痛みが走り、慌てて飛び起きた。痛え、めちゃめちゃ痛い、骨折れてんじゃねと思うくらいに。
脇腹をさすりながら、視点を上に向ける。そこにはすげー怖い顔をした女が仁王立ちをして立っていた。後ろに金剛力士像が見えそうになるくらい怖い。顔は整っていて美人の部類に入ると思うのだが、そんな顔がどうやったらこんな顔になるんだ。腰まで届いた髪がさらに怖さを引き立てる。
しばらく無言が続き、女が口を開いた、
「どいて邪魔」
「はぁ?」
「邪魔だって言ってんの」
「なんで俺が退かなきゃがっ」
脇腹を思いっきり蹴られた、もうそれは綺麗に俺の体がガラケーみたいに折られた。
マジで意味がわからない。この女の家は格闘家の家なのか、聞かなかったら暴力なのか?
「っいや、何なんなの、俺が蹴られる理由があったのか?」
「あんたが邪魔だから」
「意味がわからん、お前の頭には蛆でも沸いてるのか」
もしくは戦闘民族か。ナメック星ででも拳で語り合ってろ。
「はぁ、あんたこそ頭に蛆湧いてんじゃないの」
「はぁ、わかったわかった、どきますよ」
そう言って俺は立ち上がって別の場所へ向かう。去り際に振り向いたが女はその場に寝っころがりイヤホンを付けてすでに自分の世界に入っていた。顔には反省の色はない。
ムカつくな、お前も蹴っ飛ばしてやろうか。まあ俺は大人だからしないけどな。
階段を下りているとムカつく弧の笑い声が聞こえた。仮にも宿主が襲われてるんだ、せめて俺を慰めるくらいしろよ。誰も俺に優しくしてはくれないのか。
この時女のスカートの中が見えたのは俺だけの秘密だ。
とりあえず時間が確認したくて携帯を見た。あれから十分くらいしか経ってなかった。
女に蹴られた脇腹が痛んだ。制服をめくって脇を見ると、蹴られたところはくっきり痣になっていた。
あの女恐ろしいな、なんちゅう力で蹴ってやがんだ。やっぱ戦闘民族かなんかなのか。
とりあえず湿布が欲しかったので脇腹をさすりながら保健室へ向かった。
保健室に入ると甘ったるい匂いがプンプンした。砂糖水に砂糖を入れたような感じ。俺はどうもこの空気は苦手だ。
そんな空気に耐えながら湿布をもらって保健室を出た。俺は脇腹にそれを貼り教室へ向かった。
階段を登っている途中チャイムが鳴ったが、俺はゆっくりと登った。廊下は走らない、だからね。
教室に入ると先生に少し怒られた。俺を見るクラスの目が少し痛かった。
そんな俺に狐はゲラゲラと笑うのだった。全く今日はついてないな。