一等地売ります!
『一等地格安で売ります! ※私に勝てれば』
具体的には、ぼろの貸家の家賃3か月分ほどで。分割払いの相談も柔軟に対応する予定だ。官舎に泊まることも多いので、在宅予定時間もできる限り正確に記して……よし完璧だ。
最低限の説明がまだだと? 俺は、この国の将軍、テューレだ。以上!
今期の新人募集にろくな人間が引っかからなかった。
仕方がないので、自分の有り余っている土地を餌に新人発掘を行って、軍に勧誘すると言う完璧な作戦を立てたのだ。
軍神と腕試しにと戦いを挑んでくる者は多かったが、俺との勝負に勝てるどころか、いい線行っている者もいない。
張り紙を出して数日、細っこい体の20代前半の男が我が家を訪れた。
「本当に、土地を下さるんですか?」
俺は彼を上から下まで眺める。贅肉もないが筋肉もついてないような体。人のよさそうな笑みを浮かべている。
「ああ。 勝負の得物は剣でも槍でも好きなのを選ぶがよい」
軍神が相手なのだ。それくらいのハンディくらいはあって当然だろう。
が、明らかに軍人向きではない彼が取り出したのは――
「では、私はこれで」
彼がでかい袋から取り出したのは、チェス盤とチェスの駒。
思ってもいなかった展開に、一瞬頭が真っ白になる。
「俺はそんなのルールさえ知らん」
この時、ゲームではなく武器でと強く言っていたら……
この男に娘まで渡さなければならない未来は防げていたのに。
だが、残念ながら過去は変えられないのだ。
「私だって、剣や槍の持ち方さえ知りませんよ」
では、と言って彼が次に出したのは、オセロ盤と両面が白と黒の石だった。
「ルールは簡単。自分の石で相手の石を挟めば……」
「知っている!」
結果は俺のほうが惨敗。
「では、あの土地を……」
「さ、三回勝負だ!」
で、結果は三戦とも惨敗。
契約書にサインする男は、来たときと同じ穏やかな笑みを浮かべていた。
「ちょうど新居を探しているところだったんですよ」
数日後――
「た、たのもぉおおー!!」
見るからにひ弱そうな男が現れた。
「ほ、本物の軍神様だ」
目をきらきらさせて、俺を見つめる。主人に忠実な子犬のようだ。
「何用か?」
「この貼り紙に書かれていることは本当ですか?」
とっても嫌な既視感を感じながら、彼の言葉に歯切れ悪く答える。
「……まあ、本当だ」
「軍神様が私などの勝負を受けてくださるとはっ!」
今にも感極まって泣き出しそうな勢いである。
が、さすがに家の前で泣き出されたら近所迷惑だ。
「武器は好きなのを選ぶがよい」
「では、これで」
そう言って、彼が懐から取り出したのは……
「ト、トランプ!?」
「何で勝負いたしましょう。簡単なところですとババ抜きでしょうか?」
結果は惨敗。
「新兵検査せずに、軍神様に覚えてもらえる機会があると教えられまして」
まあ、彼の体格なら、まず“背丈”で落とされそうだな。
彼はニコニコしながら、土地売買契約書を破り捨てた。
「家など要りません。軍神様に仕えさせてください」
後からよくよく聞いてみると、オセロの男とババ抜きの男は昔からの知り合いだったそうだ。
オセロの男は将来、俺の娘の旦那の父親になり、ババ抜きの男は私に生涯仕える副官になった。