表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴ル雨!!  作者: 庭宏海
1/1

ギター少年と愉快すぎる仲間たち

誤字・脱字等ありましたらご指摘下さい。


『僕の名前は瀬戸龍平!!今朝、起きたらなんと右手がサイコガンになっていたんだ。理由は分からないけど、とりあえず今この瞬間、僕は人間として何かが終わったって言うのはよく分かった。よぉし、犯人を捕まえたら舐め腐った性根ごと血祭りにしてやるっ☆』


「ーっ!!」


跳ね起きた。まだ四月だと言うのに身体中は妙に汗ばんで、鼓動もかなり高鳴っている。

恐る恐る右手を見てみたが、もちろんサイコガンになんかなっちゃいなかった。


「…新学期早々嫌な夢をみた…」


とりあえず、自分を落ち着かせるために風に当たろうと思い、窓を開けた。

そこから見えるのは山や田んぼといった普通の田舎の景色。どうしようもない、小さな町の景色だった。

窓を締め携帯をチェックする。…うん。


「…ほんっと、新学期早々嫌な夢をみた…」


携帯を閉じ、ニヒルに笑ってから、血相を変えて部屋を飛び出した。

今日は、よく晴れた新学期日和。


始業式まで、あと15分。


***


(はぁ…はぁ…人間ってのは…はぁ…頑張れば…何でも出来…出来るもんだな…)


4秒で着替えて5㎞先の学校まで自転車をかっ飛ばし、何とか間に合った龍平は机に突っぷしていた。

クラス替えのせいか、見慣れない生徒がちらほらと見えた。


(ったく、スポーツテストの判定が毎年Cな僕にこんな苦行を強いるとは、神様はまたとんだドSだな。)

ほんと、最近嫌な事ずくめだ。

今日は朝から嫌な夢見るし、遅刻しそうになるし、最近、綾音ちゃん(出会い系サイトからの迷惑メール)からのメールは途絶えないし、先月は思いきって直美ちゃん(中学から一緒)に告白したら、


『ごめんね。瀬戸…りゅうさく君?だっけ?とは、知り合って間もないし、初めは同じ学舎の生徒として、から始めよう?りゅうさく君にはもっといい人がいるって!!がんばれっ(笑)』


龍平です。てか、それは既にクリアしているはずでは?てか、遠回しに友達になる事すら拒絶していませんか?てか、中学から一緒でしたよね?てか、なんで励ましながら笑っ「なんで起こしてくれなかったのよっ!?」「げぼらっ!!」背中にドロップキックを頂いた。

椅子ごと蹴倒され、傷む背中をさすりながら、上を見上げると、


「あんたのせいで遅刻しちゃったじゃない!!おかげで生徒指導の竹中にねちねち小言言われたわよ!!」


あぁ、神様よりよっぽどドS…もとい強気な性格の持ち主、姫野白雪が立っていた。

お姫様みたいな名前で、襟足で揃えた短めの黒髪で、大きな瞳を持つ、一見美少女なこいつとは小さい頃からの幼なじみ…と言うより、腐れ縁であり、只今絶賛家出中であり、僕ん家に逃げ込んでいたりする。


「あんたが起こしてくれなかったから朝食食べ損ねたじゃない」


「残念だったな。こんな事もあろうかと僕は昨日のうちにおにぎり作っておいたのさ。てか、その台詞は妙な誤解を生むからやめろ」


僕が白雪と大人の階段を昇るなんて。聞こえはメルヘンだが、こんなドSを相手になんかしたらおかしな性癖に目覚めそうだ。ぶるぶる。


「さて、今からゆっくり食べ「あ、龍平の鞄からおにぎり発見!!いただきまぁす!!ごちそうさまぁ!!」…。」


うぞおぉぉん!?そりゃないぜ、し〜らゆきちゃ〜ん!!


「何て事をっ!?僕だって朝飯食べてないんだぞ!!どうしてくれ「あんたはA組ね。私はC組だから何かあったらいつでも遊びに来なさいよ。」人の話を聞けよっ!!」


「あ、もうチャイム鳴るわね。じゃあまた後でね〜」


ひらひらと手を振りながら白雪が走り去った後は嵐のように静まり返り、何かの魔法が解けたかのように周りの喧騒が再び聞こえてきた。


「…はぁ。名前に見合ったお姫さまみたいな性格なら完璧なんだけどね」


今日も王子さまはお姫さまに一方的な制裁(いじめ?)を強いられていたのでした。めでたしめでたしっと。



…めでたくねぇ。


***


「はぁ、とんだ厄日になったよほんと」


独り言を呟きながら龍平は旧校舎の廊下を歩いていた。今日は始業式だけなので学校自体は既に終わっている。今は部室に向かう途中だ。

すると、遠くからドタドタと激しいドラムの音と地を這うような歪んだベースの音が聴こえてきた。


「っと。もう始まってるのか」


疲れきった顏を気持ちを切り替えるように引き締めた。


「…頑張らなきゃな」


その声は迫り来る不安に震えているようにも聞こえた。




「遅いじゃないか。もう始まってるぞ」


部室に入ると、ドラムセットに囲まれたゴリラが話しかけてきた。


「おっと、ゴリラが話しかけてきた。でもまぁ、僕はそんなファンタスティックな夢を信じたりしない、平常心平常心」


スルーを試みる。


「龍平よぉ、人ってのはぁ叩いたらどんな音を出してくれんだろうなぁ…てめぇの命と引き換えに試してやってもいいんだぜ?」


「マジすいませんでした、なんか調子乗ってました。ほんと反省してます。」


ひきつった笑顔を浮かばせながら龍平は細川剛に華麗に土下座を決め込んだ。あんな筋肉バーみたいな腕で叩かれたらスクラップになってしまう。苗字は細川のくせに。


「まったく、二人とも冗談言ってないで早く練習の準備をして頂戴」


呆れたように黒崎栞先輩が軽く説教をしてきた。

黒崎先輩は軽くパーマをかけた茶髪に、肌は健康的な色をしていて、発育の進行がかなり進んでいる人だ。

この事だけはドSな神様に乾杯したい。読者モデルをしていたりもして見た目は完璧だが、外面が外れやすく、外れたら細川でも手に負えない。


「来月中に部員をあと1人獲得しないと、軽音部は廃部になるのよ?もっとそこあたりの事も考えてよ」


黒崎先輩の注意に細川が答えた。


「分かってますよ、先輩。しかし、廃部寸前の軽音部なんて妙にべたっすよね。け〇おんに、あま〇うに、階段途中のビッグ〇イズに…あと何かありましたっけ?」


「知らないわよ。この手の話は廃部寸前っていうシチュから始めるのがおいしいのよ」


「やっぱそうっすよね。しかし、ボーカルがいないとどうも締まらないっすよね」


「当たり前よ。ボーカルだって大切な楽器の1つなんだから。貴方だって、ベースがいないと叩きずらいでしょう?」


「?いえ、そうでもな」


「…叩きずらいでしょう?」


「はい、凄く叩きずらいですね。ベースは、いや、先輩はバンドにいなくてはならない存在。バンド=先輩、先輩=俺と付き合って下さいわっしょいって感じでどうでしょう?」


「最後投げやりにしないで。あと、キモい」


「あ、先輩はアウトオブ眼中なんで大丈夫っす。俺、ロリしか興味ないんで」


「てめぇ、削るぞ?表出ろや!!」



ミイラ取りがミイラになる瞬間をぼんやり眺めながら龍平はSGのギターをアンプに繋いでいた。メーカーはエピフォン、赤色。

いつかはギブソンのやつをって思いつつもなかなか手が出せない。

ギターは中二の頃から始めている。月に二回、ここから市内のギター教室まで電車(かろうじて駅はある)に乗って行っていた。

先生には、「君は手が大きいからすぐ上手くなれるだろう」ってよく誉められたものだ。けど、一年通ってすぐやめた。両親が離婚したのだ。僕は母さんに引き取られた。父さんはどっか消えた。受験生だったって事もあり、ギター教室をやめた事に対しては特に何も思わなかった。

受験勉強のかいあってこの高校にも無事入れたし、それなりに順調だった。

残念だった事とすれば、僕たちが入学したと同時に1人の先輩を除いて部員が卒業してしまった事くらいだ。

その時から、僕がギター、細川がドラム、黒崎先輩がベース、残っていた先輩がボーカルとして活動していた。

その先輩も三月に卒業してしまい、僕らは3人になってしまった。

生徒会側からの要求は


『部員4人以上で部として成立』


今、必要なのはボーカル1人だけなのだが、僕としては、物真似程度の歌唱力を持つだけのボーカルはいらないと考えている。そんな声じゃ何を歌っても僕らのじゃない、物真似をした偽りの曲になってしまう。

だから僕が考えるに「瀬戸君もぼーっと突っ立ってもやしの物真似なんてしないで頂戴!!」


…。


(…Youはゴリラと表へGo…ボソリ)


「てめぇも表に出ろやっ!!」


やべぇ、聞こえちゃった☆


***


「ったく、なんで晴れて雲1つ無いのに雨が降ってるんだよ」


龍平は山道にある石段を登っていた。(練習は一応した。)所々ひびが入っていてコケの生えたちょっと危ない石段である。この石段の先には『孤狐神社』という、地元でもお年寄りしか知らない凄く小さい神社がある。龍平は小さい頃、この山で遊んでいた時この神社を偶然見つけた。それ以来、時々こっそりと遊びに行った。

その場所は誰にも教えなかった。何故なら、そこは自分だけの秘密基地みたいに思えたからだ。


「晴れてるのに雨が降るのって『狐の嫁入り』って言うんだよな。孤狐神社で結婚式してたりして」


冗談まじりに独り言を呟いた。その手の話は迷信だって小学生のときに学習した。

サンタクロースは本当は近所に住むロドリゲスさん(故郷はアメリカ。黒人で元軍人)だったって知ってるし、赤ちゃんだってこうの鳥が連れて来るんじゃない、お父さんがお母さんに通信師を向かわせないと生まれないし、宇宙人だってどこかの星で楽しく暮らしているんだろうし、アポロ11号だってちゃんと月に行った。

今更どんな事実を並べられたって特に関心も持てない16歳、それが今の僕。



「…それにしても、真っ暗な部屋でロドリゲスさんを見たときはほんと怖かったな」


ロドリゲスさんがサンタの格好をして僕の枕元にプレゼントを置こうとしたとき、たまたま目が覚めてばっちり目が合ってしまったのだ。

あの時はロドリゲスさんがサンタさんから衣装を剥ぎ取って僕のプレゼントを盗もうとしてるのかと思った。泣きながら元軍人に立ち向かった懐かしい小4の冬。


「9歳の少年に現実とトラウマを植え付けやがって…ん?」


神社まであと数段って所まで登った時に、雨の音に紛れてこの場所じゃ聞き慣れない音を龍平は耳にした。


(ギターと…女の子の…歌声?)


相手にバレないよう、石段を登りきり、近くの草むらに隠れ、草々の隙間から狭い敷地を覗くと、奥にある境内で女の子がギター片手に座っているのが見えた。


(あれってうちの学校の制服だよな…)


髪は背中まで伸ばした黒髪で、肌はかなり白い。顔立ちもこの距離から見ても驚くほどに可愛かった。


(2次元から飛び出したかのような子だな。…ん?)


その時、龍平は見た。

本来なら人には『決してあるはずのない』迷信じみた現実。



彼女の頭には『狐の耳』が生えていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ