7、委員会(2)
孝介は肝がでかくて女性に対して遠慮のない子ってイメージで。
「えっと、何をしているの、来栖くん?」
野田をかばう孝介を見て驚いた顔で言う早海先輩。
こちらとしてはなぜ先輩が野田に話があるのかが全く思いつかないので、一つ聞いてみる。
野田は依然として孝介の後ろに隠れ彼のシャツをぎゅっと握りしめていた。
いつものきょどきょどした様子とは違い、手が心なしか震えているのが分かる。
「先輩こそ、野田に何の用があるんですか。自分もその話聞いても良いですか?」
一緒にいてくれると分かったのか、シャツを握っていた手の力が緩むのを感じた。
「別に構わないけれど、野田さんはそれでいい?」
その問いに野田は頭を縦に小さく揺らして応じた。
図書準備室、というよりは倉庫といった感じで棚がたくさんあり、壁際に長机が連なっていた。棚には図書室の棚に置ききれないのか、または古すぎて傷んでしまいそうな本がしきつめられている。
孝介たちが準備室の中に入ると早海先輩は野田の顔色をうかがうようにして見つめて言った。
「野田さん。私、あなたのことを中学の後輩から聞いたんだけど」
「・・・・・・はい」
何かしら覚悟はしていたようで、今度は先ほどよりうろたえた様子は見せず早海先輩の方を向いて話していた。
・・・というのは合ってるんだが、その状況がさっきと変わっていない!
野田は俺の後ろとまではいかないが、隣でシャツをがしっとつかんだままだ。(小)動物としての本能なのか、いまいち決まらないなぁ。
間に入っているおれはどうすればいいんだ。二人の話し合いを横で聞いているつもりでいたんだぞ?ホントだぞ?
「野田さんは」
「記憶喪失だって本当なの?」
まず最初はそこから確認したかったんだろう。一番大事なことではある。
「・・・そうです。昔の友人が誰だったかも・・・覚えてません」
野田は自分の思いを滲ませ、言葉を吐き出した。
「だったら、野田さんが記憶を失った後、野田さんに私は昔親友だったと言ってきた子達がいたわよね?」
!?
突如、野田が固まったように見えた。孝介の方に寄りかかり、今にも倒れてしまいそうである。
「みんな、ずっとずっと野田さんに私たちあんなに仲が良かったのにって言い続けていたわよね?野田さんがいつか思い出してくれると信じて。
でもそれぞれ、あなたに知らない分からないからと突き放されて、・・・おかしくなっちゃったって聞いたわ。」
「ど、どうなっちゃったんですか?その子たちは・・・」
興味本位で聞いてみる。聞きにくいことを聞くのは自分の役目だと思った。
「さぁ。そこから先は聞くに聞けなかったの。で、本題はここからなんだけど」
早海先輩が野田さんの顔を正面から見据えて言った。
「私ね、野田さんにはもっと良い友達を作ってほしいと思うのよ。」
先輩は笑顔を語る相手に向けていた。野田に笑ってほしいと思うくらいに慈悲にあふれたものだった。
その先輩の顔を見て、彼女は先輩を見つめ呆けている。
「話を聞く限り野田さんに何一つ悪いところなんてないし、むしろ野田さんを苦しめていたんじゃないかと思うの。親友だったら、そこまで追い詰めるように言ったりしないだろうし。野田さんは、新しく出会う人と関わっていく方が良いわ。その方が、絶対に。」
「・・・わたしに、・・・どうしてそんなこと」
不思議そうに話す野田に対して微笑を浮かべた早海先輩は、
「ただ、野田さんに会ったら言おうと思っていたことがあっただけ。先輩の助言と受け取ってくれてもいいわ。ただの自己満足だってことくらいわかってる。でも、・・・」
「後輩から聞いたこと、それについて思ったことに自分の中で区切りをつけたかったから」
淡々と、しかしはっきりと話す早海先輩の声は集会の時のような有無を言わせない自信のあふれたものだった。
「後輩の方はなんと言われたんですか?」再度孝介は先輩に尋ねてみた。
「うん、ひどい話だったよ。聞く人に野田さんが悪者だと印象づけるくらいには」
「そう、・・ですか」
「でも来栖くんがいればなんとかなりそうかもね。そんなに服つかまれちゃって、付き合ってたり?」
「・・・付き合ってないの。私の新しい・・・友達」
否定しようと思ってたら代わりに言ってくれる野田。なんだろう、・・・すぐに否定されるとそれ自体を否定したくなるような、ならないような。
まぁ今は関係ないことだし、どうってことでもないかな。
「さて、話も済んだところでこれからは図書委員としてビシバシ働いてもらうからそのつもりで。
二人とは仲良くやっていきたいな。もう日も暮れるし帰りましょうか」
すたすたと先を歩いて出て行ってしまう先輩を目で追いかけながら、野田に話しかける。
「俺、本当に聞いてもよかったのか?あの場にはいなかった方が良い気がしたぞ」
そう言うと野田は首がちぎれそうなほどブンブン横に振って、
「そんなことないの!来栖くんがいてくれなかったら、走って逃げてたと思う。
ずっとそばに居てくれて、ありがとう。」
満面の笑みで微笑む野田がそこにはいた。
いつもの途切れ途切れな喋り方ではなく流暢に話す野田に孝介は驚いた。いやもう驚きすぎて言葉も出なかったですよ。というか、シャツ握られたら逃げることもできないし!
彼女の目が夕日を浴びて爛々と輝いているのがとてもきれいで、しばらく眺めていることにした。
「・・・・・・・」
「そんなに・・・・見ないでほしいの・・・恥ずかしいの」
基本的に口調は変わっていなかった。変わっていなくて安心して・・・いいのか?
次は部活の話になります。(その前に野田の話やるかも)
今回のは(も)言葉足らずな感じがしますけど、そこは感想で言ってもらえると助かります。
ほのぼの日常をテーマにしてますので。お忘れなきよう><
野田視点というのも面白いかも?でも何考えてんだろあの子・・・




