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死神87番 2

ヤナは自分でも分からなかった。

 どうして自分があんなにもあの少女………友のことを思ってしまうのか。考えてしまうのか。

 始めは何とも思わなかった。ただ、ちょっとした興味で毎日通っていただけ。なのに、今では毎日友に会わなければ不安になってくる。何故?

 自分にとって、友は何なのだろう?友にとってのヤナは………。

 そしてその日もヤナは病院へ行った。

 ヤナと友が出会ってから6日目だった。友が死ぬのは、明日だった。


 友は窓の外を見ていた。季節は冬。窓の外には雪が降っていた。

 窓を開くと、手を伸ばす。そして小さな雪が指先に触れると、それはすぐに溶けてしまった。友はしばらくの間、ずっと手を外へ伸ばして雪が手については溶けるのを見ていた。

「なに、してる?」

 友が振り向くと、ソコにはヤナがいた。

「雪………触ってるの」

 友はそう言うと手を戻し、窓を閉める。

「ねぇ、ヤナ」

 ヤナは友を見る。友は、ヤナの顔をじっと見つめて、そして口を開いた。

「屋上、行きたい」

「え?」

 それは、前にも友に言われた言葉だった。しかし、今の友の表情は前とは全く違っていた。まるで、そこに行かなければいけないような、泣きそうな顔。

 友は俯きながら、再び同じ言葉を言う。

 友は外出禁止だった。身体の免疫力が他の人よりも低いため、外に出て金を拾ってきた場合ソレが普通の人の倍胃異常の影響を身体にもたらす。

 そのことは友本人も知っているはずだった。だから、ずっと我慢していた。そして、時々ふざけ半分に外へ行きたいと言っていただけ。しかし、しかしだ。

「ヤナ、お願い………」

 友は俯いたまま、ヤナに頼む。ヤナはしばらく友を見つめていた。

 思うことは一つ。友は明日死んでしまう。

 だったら、だったら………――――

「行くか」

 ヤナはそう言うと、そっと友の手を取った。

 あり得ないことだった。死神は人に触れてはいけない。触れることすら出来ない。だから、ヤナは力を使った。

 ヤナに触れている間は、友の姿は誰にも見えない。友が病室からいなくなっても誰も気づかない。分からない。

 友は、初めて触れるヤナの手を見つめた。

 その手は力強いとは言えなかったが、友はヤナの手を強く握り返す。感触がある。肌が触れ合っている。熱を感じる。

 友は俯いたままだった。だから、ヤナには友の表情が分からない。ヤナは友の手を引いてドアを開ける。友は何も言わずにヤナに着いてきた。

「友………」

 屋上へ向かう階段の途中、ヤナが不意に口を開いた。

 友は顔を上げる。

「どうして、屋上へ行きたい?」

 友は、答えなかった。


 そして、屋上の扉を開けた時、ずっと黙っていた友が、ずっとヤナの後ろについてきていた友が、ずっと手を握っていたはずの友が、走り出した。

「友………!」

 屋上にはうっすらと雪が積もっている。その雪の上を、友の足跡が残っていく。そして続いていく。

 友は屋上の端っこ、フェンスの所までくると、ソレを昇りだした。そして乗り越える。

 ヤナには何も理解できなかった。

 そして、友はそのまま屋上から飛び降りようとした。

「っ………!?友!」

 ヤナはそこでやっと思考が追いつき、友を呼び止める。友はチラリとヤナの方を振り返った。

 ヤナが見た友の顔。それは、今まで見たとものどれでもなかった。

 友はスリッパを脱ぐ。素足が雪の上につくと、友の足の熱が雪を溶かす。

「何………考えてるんだよ」

「ヤナ、私ね」

 友が病室から出て、初めて口を開いた。 

「私すっごく恐がりなんだ。恥ずかしいぐらい恐がり。そして寂しがり屋。聞いて。私ずっと死にたかったんだよ。生きるの、辛かったんだよ」

 ソレは、友の思いだった。

 小さな自分。広い世界に取り残され、病気のため外にも出られない。許されない。友達もいない。家族もいない。

 生きていくことが怖かった。このまま生きていて、どうなってしまうのかが怖かい。

 死んでしまいたかった。この世界から逃げて、そしてみんなのいるところへ行きたい。ずっとそう思っていた。でも同時に、こうも思っていた。

 “普通の生活をしたい。今からでもいい。外に出て、遊びたい。たくさんの人と話して、そして知りたい。たくさん、色んな事”

「ねぇ、ヤナ。どうして私なの?どうして私がこんな思いしなくちゃいけないの?」

 ここで言葉を切った。どうして?どうして私は知ってしまったんだろう?

“ソノ”事を………。

「ヤナ、私は今日を生きる意味があるの?今を生きる意味があるの?」

 そう言い、振り向いた時。

 ヤナの手が友の手を掴んだ。

「っ――――!!!」

 とっさに振りほどこうとしたが、ヤナがもう片方の手で友をフェンス越しに押さえつける。そして友の顔をじっと見つめる。

『今日を生きる意味が、今を生きる意味があるの?』

 明日死ぬことになっている友に答える事が出来なかった。

 それは決まってしまったことだから。あらがえないことだから。自分の仕事だから。

 なのに、どうして自分は………こんなにもこの少女のことを気にとめていたのだろう?

「俺は………」

 ヤナは俯いた。

 今思っていることを口に出してしまって良いのだろうか?ヤナは悩んだ。しかし、気づいてしまったのだ。

 少女を、友を気にとめていた理由。

「俺は、友に生きていて欲しい。今日を、今を………」

 やっと分かったんだ。

 初めてあって、そして話して。笑って、すねて、そして泣いている。そんな友に、自分は惹かれていた。

 きっと、好きになってしまったんだ。

 死神なのに、友に生きていて欲しいと思った。友といたいと思った。友がいないと不安だった。友といると楽しかった。

「ヤナ………」

 友はヤナの言葉を噛み締めた。

 初めて言われた、生きていて欲しいという言葉。とっくの昔になくしたと思っていた言葉。どこかへ行ってしまった言葉。

 生きる意味が分からなかった。そんな自分が、生きていて欲しいと言われた。

 友の目からたくさんの涙がこぼれる。そしてソレが下に積もる雪を溶かしていく。

 ヤナは友に言う。

「帰ろう、病室に」

 その言葉に、友は頷いた。

 

 暗い部屋の中、友は一人きりになった。

 目を固く閉じても、見えるのは一つ。決心した。


 ヤナは黒いマントを着る。

 友の前でこの姿で言ったことは、初めて会いに行った時の一回きりだった。それ以来着ていなかった。

 ふと、後ろに気配を感じた。

「ムロ」

「行くんだ?」

 ムロはそう聞きながら、ヤナに一歩近寄る。ヤナは頷くと、ドアに手を掛ける。

「行く」

 ヤナのその言葉に、ムロは安心した顔になる。良かった。それだけだった。

「覚悟、決めたから。決心つけたから」

 ムロはその言葉にヤナの顔を見る。

 ヤナも、ムロを見ていた。

「っ?!」

 ヤナがムロの手を握っていた。思わず顔が赤くなるムロだが、そんなムロにヤナは言った。そして行ってしまった。

 ムロは閉じられたドアを見つめていた。

 どうゆう意味だろう?なんで、なんで………

“ありがとう”なの?


 初めて来た時と同じだった。部屋は暗くて、そして友が一人ベッドで寝ていた。

 ヤナはゆっくりと近寄る。そして、そっと友に手を伸ばした。その時、

「遅かったね、死神さん」

 友が言った。そして、ヤナと目が合う。

「知ってたんだ………」

 ヤナが聞くと、友は頷く。

 よく考えれば当然のことだった。友は小さい頃から入院をしている。そして死神が見えていたのなら、他の死神のことを見たことがあってもおかしくはない。そして死神が何をするのかを知っていても。

 友は知っていて自分を受け入れていたんだ。

 死ぬことを知っていて、昨日あんな事をしたんだ。

「ごめん」

 あんな事を言っておいて、生きていて欲しいと言っておいて………あの時の友はきっと本気で死のうとしていた。ソレを死神の自分が止めた。意味のないことだった。

 自分の身勝手な理由で友を止めたんだ。

「ごめん………」

 唇を噛み締める。

 そんなヤナに、友は笑いかける。

「そんなこと無い。私、とっても嬉しかったよ。ヤナにああやって言ってもらえて………」

「でも、友にそんなことを言う資格は無かった」

 ヤナの言葉に、友は首を振る。

「違う。死神だからって関係ない。ヤナがああ言ってくれたから、私は今日まで生きていこうと決めた。死ぬ、その瞬間まで今を生きようって。二度と訪れない今を生きるって」

 そして、ヤナの目を見る。

「ヤナ、死神は魂を取ったらどうするの?」

「………自分に取り込む」

「じゃあ、いいよ」

「え?」

「ヤナに取り込まれるのなら、死ぬことも怖くない。ね、ヤナ………」

 友はそう言いながら、ゆっくりと目を閉じていく。

 その時、友の体調に異変が起こった。

 赤い電機がつく。アラームが鳴る。電気器具に移っていた数字が下がっていく。

 友が死ぬ瞬間が来た。発作だ。

「っ!あっ!!」

 友は苦しそうに顔をゆがめた。が、ヤナを見ると――――笑った。最後の力を振り絞るかのように、笑いかけた。

 ヤナはそっと友に手を差し伸べる。

 友は、意識が遠くなっていく。大丈夫。ヤナがいる。その思いだけがある。

 ヤナの手は友の顔をそっと持ち上げた。

 うっすらとヤナの顔が見える。その顔がだんだんと近づいていく。何で?

 その時、自分の唇に何かが触れたのを友は感じた。

 

あれ?ヤナ………泣いてるの?


暗闇が、友に訪れた。


光が、感じられる。

ここが天国なんだ。そっか、本当にあったんだね?お母さんも、お父さんもこんな良いところにいたのなら安心だよ。きっと寂しくなかったよね。大丈夫。私も………

ゆっくりと目を開ける。

見えるのは見慣れた天井。白い壁。白いカーテン。

体を起こす。

ここは何処?どうして?

次第に頭がはっきりしてくる。

立ち上がって、ドアを開けた。その時、一人の白い服を着た女性に止められた。

「友ちゃん!まだ寝てなきゃ駄目よ」

 看護士さん。ここは病院。天国じゃない。自分は………

「あれ?私………死んでない?」

「もう、そんなこと言っちゃ駄目よ。確かに昨日の夜は危険だったけど、私たちが着た頃にはすっかりと落ち着いた様子だったんだから」

 看護士さんに連れられて、友は再びベッドに戻された。そして看護士さんは出て行った。

 言っている意味が分からなかった。

 生きている。死んでいない。どうして?

 昨夜のことを思い出す。

 そう。ヤナが来た。ヤナは私に近づいて、そして私は発作を起こした。その時………ヤナは………

「ヤナ………ヤナ!!!ヤナ、どこ?!」

 友はベッドから出る。そして部屋中を歩き回る。

「ヤナ、ヤナ………!!!」

「ヤナはいない」

「っ………!?」

 突然の声に、友は振り返る。ソコに立っていたのは黒いマントをした女性だった。

「ヤナがいないって?どうゆう事?」

「ヤナは、あなたが死ぬ瞬間に自分の持っていた魂を全てあなたにあげたの。覚えてないよね?」

 女性の声に友はびくりと体を震わせる。

「ヤナは………ヤナは何処なの?」

「死神はね。死ぬ予定じゃない人がなるの。その人に与えられたチャンスなの。魂がたまったら、その人はその魂と自分の元々あった魂を使って生き返れる。でも、ヤナはその魂を全てあなたにあげた」

「え………?」

「魂の亡くなった死神は、自分の魂だけで彷徨うものになる。ソレはやがて闇に飲まれて消えてしまうの。ヤナもじき消えるわ」

 友は何を言われているのかが理解できなかった。

 ただ分かることは、ヤナが友に命をくれたこと。そしてヤナが消えてしまうこと。

「ヤナが………消える?」

「そう」

「やだよ!そんなの………そんなのやだ!!!」

 友はその女性に飛びつく。が、女性はソレを避けて友を見る。

「いや?そんなのいやなの?」

「いやだよ!ヤナ………ヤナに会いたい!」

「どうして?」

「どうしてって………ヤナに会いたいから………お礼、言わなきゃ………」

「それだけ?」

「え?」

 友は女性の顔を見る。女性の顔には怒りが浮かんでいた。

「ヤナが、どうしてソコまでしてあんたなんかを助けたのか………!分からないの?あんたは何とも思わなかったの?」

「っ………!!」

 友は顔をゆがめる。

 何とも思わなかったはずがない。

 何にも感じなかったはずがない。

 ヤナと出会って、友は一人ではなくなった。生きていく希望をくれたヤナ。生きていて欲しいと言ってくれたヤナ。命をくれたヤナ。

 目が覚めた時、一番に会いたかった相手。それはヤナだった。ヤナに伝えたくって、ヤナに言いたくって。何を?

「私…………ヤナのこと好き………好きだから!!!会いたい、会いたいです!」

 そう言った瞬間、友の身体がふわりと浮いた。

 顔を上げると、ソコにはさっきの表情とはうってかわって優しい顔をした女性が立っていた。女性は友の手を握ると、そっと下におろす。

「聞いて。あなたが必要なの」

 女性は言った。

「ヤナを、闇から連れ戻すのに必要なの。あなたが。ついてきて」

 女性が友の手を引っ張る。

 抵抗する理由は、何処にもなかった。


 その扉を開けた時、全く同じ病室に来てしまったのかと思った。しかし、違った。その部屋には窓がない。狭い部屋の真ん中にベッドがあり、たくさんのコードがのびている。

 友はそのベッドに近づく。

 寝ているのは紛れもなく、“ヤナ”だった。

「ヤナ………!」

「今は生きているけど、もうすぐ魂が闇に飲まれて………ヤナは本当に死んでしまう」

 女性はそう言うと、友の背中を押した。

「いい?ヤナは今………とても暗いところにいるの。闇の中よ。ソコにいたらヤナは消えてしまう。あなたは、そんなところからヤナを連れ戻せる?」

 女性の言葉が病室に響く。

「私、行きます」

 友が言った。

「ヤナは私を助けてくれた。暗闇で一人きりだった私を、生きていけないぐらい悲しかった私を助けてくれた。次は私がヤナを助ける」

 友は言い終わると、女性を見る。女性は頷くと、言った。

「分かった。でも、これだけは聞いて。あなたと出会う前のヤナはね………生き返ることにも、死ぬことにも、死神になることにも興味はなかったと思う。何も考えていなかった。でもね、あなたがヤナと出会って変わったように、ヤナもあなたと出会って変わった。聞いて。闇は深い。道も分からない。死んだものが通る道。でも、ヤナには行くべき道を示してくれる光がないの」

「私が………私が光になる!!!」

 友が言った。

 女性は微笑む。

 そう。その言葉が聞きたかったのだ。

 死んでも、生きてもいないヤナ。何処へ行けばいいのかが分からず、苦しんでいた。そんなヤナの前に現れたのが友。ヤナにとっての光は、友だった。

「ありがとう………ヤナをお願い」

 女性がそういて瞬間、友の周りが真っ暗になった。


 暗い、暗い場所。

 何も見えない。上も下も分からない。道がない。

 こんな場所から見つけることが出来るのだろうか?いや、出来る。友には自信があった。女性が言っていた。

 ヤナにとっての光。そして道を指し示してあげる。

 大丈夫。見つけられる。だって………

「あ………!」

 友は駆けだした。そして止まる。

 淡い光だった。そう、友でなければ見つけられないような淡い光。

 でも、友にはしっかり見えた。

 なぜか。

 友にとっても光はヤナだから。

 友は光を、ヤナを抱きしめる。しかし、その腕にはあまり感触がない。魂が消えかけている。

「ヤナ………私だよ、友だよ。ヤナに会いたくてここまで来たの」

 友の声に気づいたのか、ヤナが振り向いた。が、それ以外に何の反応も示さなかった。

 友はよりいっそうヤナを抱きしめる。

「ヤナっ………!!!消えないで!一緒に行こう!お願い!」

「でも俺………」

 ヤナが口を開いた。

「生きている意味が分からない。未来が見えない。待っている現実が、怖い」

 ヤナの言葉に、友は唇をかんだ。

 辛いけれど、悲しいけれどソレが一週間まえの友そのものだったから。

 何で世界は自分ばかりをこんな目に遭わすのか。みんな幸せなのに自分ばかり不幸なのか。ずっとずっと思ってた。

 

 でも違った。


「ヤナ、私言ったよね、未来って何って。聞いて。未来はいつも見えないんだよ。だって、私たちは今を生きてるんだもん。一瞬でも、儚い今を。ヤナと出会う前の私も、いつか死んじゃう未来に怯えて、見えない今を怖がっていた。でもヤナ。それって私たちだけ?違うよね。未来は誰にも見えない。誰も知らないんだよ」

 友はさらに抱く力を強める。お願い、届いて。

「だからだと思うの。だから私たちは生きているのだと。未来は分からないものだから。だから今を生きなきゃならないんだって。だって………今があるから未来があるんだよ。今って、今って二度と訪れないの。だから今を大切に生きてるんだって」

 気づくと、ヤナが友を見ていた。

 その顔に友はそっと顔を近づけ、ヤナの唇の自分の唇を重ねた。

「ヤナ、大好きだよ。一緒に帰ろう。そして一緒に生きていこう」

 その時、友を何かが抱きしめる。

 ヤナだった。

「ヤナ………!!」

「友………、ありがとう。帰ろう」

 その言葉に、友は頷く。力強く。

 その瞬間、あたりが光に包まれる。


 ムロはヤナの手を握った。

 ヤナの手は力がない。しかし、ムロはずっと握っていた。

「ねぇ、ヤナ。気づいてた?私ヤナが好きだったって………」

 一人きりの病室。

 ヤナを迎えに行ったムロ。

 ヤナを死神にしたのはムロ。

「気づいてないよね………。ヤナ、私のこと嫌いだったもんね………。でも、ヤナ」

 ムロは涙を流す。

「私だって………、ヤナが消えるのいやだよ………」

 だから力を使います。

 やっぱり生き返るのには魂が必要だから。

 死神になったのに難しい理由はありません。

 本当はこんな仕事いやでした。

 でも、でもね、ヤナ。

 あなたと一緒にいられたから。それだけが死神になることを選んだ理由なんだよ。

 あなたなら死神を選ぶと思った。そしてずっと居られると思った。

 でも、違うね。

 だから私は願います。

 あなたがずっと幸せでいられるように。

「ヤナ………。私のこと、忘れないでね………」

 出来ることならずっと…………

 あなたの隣にいたかった。

 あなたの光になりたかった。


 そっと目を開くと、白い天井が見えた。

ゆっくりと顔を横に向けると、一人の少女が眠っている。

「友………」

 名前を呼ぶと、少女はぴくりと体を動かして、こちらを見た。

 そして顔を上げると、暖かい笑顔を見せた。

 少女は体を起こすと、そっと抱きしめる。だから、抱きしめ返した。

 光が二人を包み込む。


「おはよう」

 少女が言った。

「おはよう、友」


*おわり*


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