幼馴染とはこれいかに
カイと結婚したカメリアは、日々、充実感と幸福を感じている。
家族の温かみというものはキアラに教えてもらったけれど、愛し愛される幸せはまた違ったものなのだなと実感している。
カメリアにとってキアラは、母のようであり姉のようであり友人のようであり…カイと出逢う前の、カメリアのすべてだった。
そのキアラが、義妹になるなんて!という喜びも当然ながらあり、どこかふわふわした現実味のなさもあったりで。
この幸せが幻ではないかと不安に駆られるも、カイはそんなカメリアの内心ごと包み込んでくれる。
こういうのが幸せなのだと、分かるようになってきた。
ただ、この生活にひとつだけ不満があるとすれば、優しく、頼りがいがあり、カメリアを支えてくれたキアラが、あまり顔を見せなくなったことである。
淋しい。
今まで当たり前のようにあった姿がないことが、淋しい。
カイだけでは不満なのかと、自分の強欲さに呆れつつも、やはり淋しいものは淋しいのだ。
カメリアがキアラに、次はいつ来るの?と聞いても曖昧な返事。
なんだかもやもやして、カイに相談してみると。
あいつはあいつなりに気を遣ってるんだと思うと。
新婚家庭に小姑が頻繁に出入りするなど以ての外!って言ってたと。
そんな…!と軽くない絶望感を本人に話したところ。
『…っ! カメリア様に、そんな思いをさせるなど、一生の不覚…!!』とキアラが謎の猛省の後、1日1回は会えるようになった。なんだかよく分からないが、キアラに会えるようになったのは嬉しい。
そんなある日。
キアラが見知らぬ男の人と一緒に我が家を訪ねて来た。
誰??と警戒しそうになるが、キアラが隣にいることを許容している男性だ。
悪い人間のわけがない。
その男性は、箱にいっぱいの野菜を抱えていた。荷物持ちを知人に頼んだとか?
「カメリア様、領地で採れた野菜を持ってきました。新鮮で美味しいですよ!」
離婚した当初こそ何もできなかったカメリアだが、キアラにばかり負担をかけるのは忍びなく、家事も少しずつ覚えて何とか料理もできるようになった。
とはいえ、カイが器用で、料理も掃除も洗濯も、正直カメリアより手際がいいので、少し悔しい。
そのうち、彼よりできるようになるのがカメリアの目標だ。
カイが領地でお兄様と頑張ってるときに、カメリアも頑張らなくては。
「いつもありがとう、キアラ。ところで…」
ちらりと視線を隣に向けると、キアラが何だか微妙な顔をしている。
「これは、私のげぼk……いえ、幼馴染です」
げぼ…なに?
キアラは何を言いかけたのかしら?
「初めまして、カメリア様。キアラのげ、…幼馴染のジンといいます」
げ…から始まる関係性って何だろう。その単語が出そうになったところで、何やらジンが軽くうめき声を上げた気もするけれど。
「そう、幼馴染…キアラの幼馴染なのね!」
「はい、まあ、そうですね」
「ということは、わたくしが出逢う前のキアラをよく知っているということよね!」
「…ええまあ」
先ほどからキアラの歯切れが悪い気もするけれど、そんな素敵な人がいるなら話を聞きたい。
「キアラ、この後、時間はあるかしら」
「……ないことも、ないですが」
「そちらのジンさん?と一緒にお茶でもいかが?」
「……………はい、喜んで」
久しぶりにキアラとゆっくりお茶ができるのが嬉しくて、若干間が空いたことには気にも留めなかったカメリアである。
「それでね、カイ。キアラってそのジンさんととても仲がいいみたいで」
「あー…ジンと会ったんだ」
「キアラの幼馴染とか、やっぱりお話聞いてみたいじゃない?」
「幼馴染…おさななじみって何だっけ…?」
カイがキアラと同じような微妙な顔で何か呟いてる。
そういえば、キアラの家族って大家族なことを、つい先日ご実家にお邪魔するまで知らなかった。
お父様にお母様、1番目のお姉様と2番目のお姉様は双子、続いてカイのお兄様で長男、3番目のお姉様、次男のカイ、そして4番目のキアラ。末っ子だったのねとこれまた新情報。
1番目のお姉様とキアラは一回りほど違うとのことで、キアラがブルーナ伯爵家に働きに出た頃には既に嫁がれていたらしい。
「小さい頃のキアラの武勇伝をいろいろ聞いて、本当に楽しかったわ!」
「…ぶゆうでん…」
「ジンさんがいじめられてたときに、颯爽と現れたキアラがいじめっ子たちを撃退したお話とか!」
「あー…あれかあ…」
「ジンさんが木登りして下りられなくなったのを、助けたお話とか!!」
「まあいろいろあったよなあ…」
「あ、ごめんなさい。わたくしばかり話してて。…退屈だったかしら…?」
「いいや。カメリアが楽しんだんなら、いいんだ」
何やら慈愛の籠ったような目でわたくしを見ている。
たまにこういう目で見ているのが、大抵キアラ絡みだったりするのだけれど、兄妹間の何かかしら。
カメリアには兄弟姉妹がいなかったから、よく分からない。
「領地の方はどうでした?」
「ああ、今のところ大きな問題はないかな。ここ10年は安定してるし」
「国内でも災害は少ないですものね」
「キアラが9歳のときの天災が一番ひどかったなあ…」
「わたくしも幼い頃だったので、詳細は後から知りました」
伯爵家にも影響があったのだが、カメリアに当時できることはなかった。
あれだけ大規模な災害で人的被害が比較的少なかったとは、不幸中の幸いだった。
「災害に遭ったこと自体は大変なことだと理解していますし、領地回復に努められたお兄様方の苦労を軽んじるわけではないのですけれど」
カメリアがふふっと笑うと、カイが疑問符を浮かべる。
「それで、キアラに出逢うことができたのだと思えば、わたくしにとっては不思議な縁だとしか思えなくて」
それが元で、キアラはブルーナ伯爵家に来たのだから。
もしキアラが来なければ、カイとも出逢えなかった。
それ以前に、きっとカメリアは生きていなかった。
「…やっぱりまだまだ、あいつに敵わないかあ…」
「…? 何か言った?」
「何も。…愛してるよ、カメリア」
「わたくしも、愛してますわ、カイ」
カイの腕の中で、カメリアは幸せそうに微笑んだ。
後日。
キアラがジンと一緒に訪ねて来た。
「…………………ジンと結婚することになりました。……何故か」
え? お祝いしてもいいのよね?
何故かって何?
おめでとうって言っていいのよね?
何故、そんな何とも言えない顔をしているのかしら??




