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一話「異世界人は地元民に勝てるか」

 俺はリーンティ・マシュア。軍事大国キルリアン王国出身だ。俺にはある秘密がある。そう、俺は「異世界転生」して、この世界に来た。本当の名前は宇治(うじ) 真斗(まなと)。元の世界で重病にかかったことに気付かなかった俺は、あっけなく死んだ。それを憐れんだ女神が、俺を転生させてくれたんだ。転生してからの人生は、順調そのもの。転生の時に受け取った能力「絶対命中」を駆使して銃や魔法の腕を磨き、25歳にして軍の割と重要なとこに就く。そして、今日。俺は出張で行った「賢将王国(けんしょうおうこく)」で、早くもプライドを打ち砕かれそうになっている。


「おい、嘘だろ……」


 俺は目の前の光景を信じることができなかった。夢? いや、感覚はある。鮮明だ。念のため、俺は案内人に聞く。


「あの、彼らは……」

「『国立賢将中学校』の皆様です。今日はお客さんが来るというので、みなさん張り切っていますね」


 そう、彼らは中学生。見た目は中学生なのだ。当たり前だが。しかし、全ての生徒の放つ魔力が、キルリアン王国軍の精鋭に匹敵する。魔力だけではない。パワー、スピード、武器を振る軌道から戦略まで、全てが洗練されている。彼らがキルリアン王国軍と戦ったらどっちが勝つかわからない。


 特に目を引くのは二人。一人は赤い服を着た、派手な少年。パワーでいったらこの中で最強であろう。周りが武器を振る中で、彼だけは素手で戦っている。しかも、互角以上だ。少々単純な戦い方だが、それを圧倒的なパワーでカバーしている。土魔法を使っているが、魔法の性能もかなりのものだ。もう一人は緑髪の、虫の半獣……半虫? 虫人族(ちゅうじんぞく)だっけか。まあ、そいつ。小柄だが、放つオーラは俺にも負けない。体格差を感じさせない槍捌き、虫人族の飛行能力を活かしたトリッキーな動き。パワーとスピードのバランスが良く、一対一ならプロの軍人とも対等に渡り合えるだろう。何者なんだ、こいつらは……。俺が戦慄していると、案内人が口を開いた。


「できれば『三冠(さんかん)』の戦闘訓練も見せたかったんですが、残念ながら今日は用事があるみたいで……」


 三冠。名は知っている。賢将王国の最強三人衆だ。我らキルリアン王国を滅亡寸前にまで追いやった魔王を討ち滅ぼし、賢将王国を飲み込もうとした闇の元凶をいとも簡単に討伐したやつら。しかし、詳しくは知らない。この中学校と何か関係があるのだろうか? そうか、教師か。そんなに強い三冠が教師をやっているのであれば、生徒たちが強いのも納得だ。


「しっかし英雄が教師をやってるなんて、珍しいですね。うちの国じゃ、だいたい隠居するのに」

「教師……? まあ、実質教師みたいなものですかね。ああ、別のクラスの授業も見ていきますか?」

「お願いします」


 待て。実質教師ってなんだ。教師じゃないのか? ……まあ、いいか。俺は案内人についていき、校内に入ろうとする。すると、背後に気配。反射的に振り返る。そこには、コック帽をかぶった少年がいた。中学生。さっきの戦闘訓練していた人たちと同じくらいの年代。……だよな。本当に中学生なんだよな、こいつ。


「戻りました、先生。あれ、隣の方は見学ですか?」


 少年は案内人に話しかける。


「早かったねーお疲れ。うん、キルリアン王国軍の人よ。ああ、紹介します。彼は『三冠』の一人、『風炎舞(ふうえんぶ)の三冠』奥川 (ふう)くんです」

「初めまして。風です」


 ……嫌な予感はしていた。だって放っているオーラが尋常じゃないんだもん。こんな膨大な魔力見たことないんですけど。


「は、はは……こちらこそ」


 俺は引きつった笑顔を浮かべることしかできなかった。なんですかあなた。神か何かですか。いやー、国家最強戦力の一人が中学生かー。やっぱこの国おかしいって。俺がいる意味ないじゃん。せっかく仕事で呼ばれてきたのに、三冠だけで何とかなるじゃん。


「キルリアン王国軍ってことは、捜査協力ですね? じゃあ、一緒になりますね」

「そうなんだ? じゃあ、よろしくね」


 俺は彼に対してタメ口でいいのか? 大丈夫なのか? まあ、そんなこと気にしていても仕方がない。そうだ。俺は学校を見学しに来たわけではない。世界中で活動している犯罪組織の逮捕のために来たのだ。まだ挽回のチャンスはある。俺は何もヘマをしていないが。


「ああ、せっかく風くんも来たし、模擬戦でもしていきますか?」

「ああ、せっかくだから観ていきます……」


 ん、案内人なんて言った? まさかだけど、俺が戦うとかないよな?


「じゃあ、グラウンド行きましょ。負けませんよ!」


 終わったかもしれない。


 グラウンド。俺と風が対峙している。5メートルほど離れているが、それでもとんでもない迫力だ。ここの生徒たちはいつもこれに耐えてるのか? こんなつもりじゃなかったのに。合図役に選ばれた一人の生徒が手を上げる。


「それでは、キルリアン王国軍人『リーンティ・マシュア』さんと、風炎舞の三冠『奥川 風』の模擬戦を始めます!」


 あー、今からでもやり直すことはできないかなー。


「よーい、はじめ!」

「ストーップ!!!!!!」


 俺が意を決して叫ぶ。ここで尊厳を失うわけにはいかない。風がピタッと止まる。……めっちゃ近い。この一瞬でこの距離を詰めてきたのですか? この時点で勝てるわけないんですが。俺はできるだけ冷静に言った。


「いやー! さ、ささ、さすがにこの俺が英雄と戦うのはちょおっっっっと恐れ多いと言いますかぁ! じゃ、じゃあ、風くんの代わりにそこの……赤い服の子と戦わせてもらえません?」


 うん、どこが冷静なんだ。でも、ここで中学生にボコされるよりはましだ。俺は恐る恐る周囲を見てみる。厳しい訓練を受けてきた軍人だから、みんなが何を考えているかは目を見れば何となくわかる。『こいつ、賢明な判断をしたな』だ。風が微妙な顔をして何か言う。不満でもあるのだろうか。言っちゃあれだが、お前のこの場での勝利より俺の尊厳の方が大事だ。


「えー、アールですか? 彼、キルリアン王国の人ですよ。だからわざわざ戦う珍しさもないし、それに」

「そうか、俺と戦いたいのか!」


 風を遮ってやたら元気な声がグラウンドに響く。立っていたのは赤い服の子、アールと呼ばれていた子だ。


「でも、いいのか? 俺は風より強いぞ? 風に怖気づいて逃げたお前に、俺が倒せるのかぁ!?」


 人選ミス。てかなんだよこいつ失礼すぎるだろ。軍人に向かって? というか外国のゲストに向かって? 世が世なら撃たれてたぞ。


「すみません、うちのアールが……」


 よかった。風くんは常識がある。アールの態度がデフォルトというわけではなさそうだ。というか、アールが風より強いのはありえない。放つオーラもそうだが、なんか人生経験に差があるような感じがする。


「じゃ、じゃあ、別の人にしようかな。そこの緑髪の虫人族の君!」

「おい、俺じゃねーのかよ!」


 アールが何か言っているが無視だ。こういうのは調子にのらせないのが一番。


「こんにちは、リーンティさん。俺は木々(きぎ) (かなで)です」

「じゃあ、奏とリーンティさんの模擬戦ね」


 風が合図役となり、模擬戦の位置につく。奏のオーラも相当なものだが、風ほどではない。まだ勝てる。というか、さっきまでとんでもないオーラを出していた風が落ち着いている。今の彼のオーラは平均的なキルリアン人くらいだ。オーラの調整ができるのか? 英雄のできることはよくわからない。いや、今は戦いに集中だ。難易度を下げて負けたら恥ずかしすぎる。


「それでは、はじめ!」


 奏が飛び出す。確かに速い。だが、反応できる。さっきの風に比べたら余裕だ!


「大人なめんな!」


 俺は魔法拳銃を取り出し、槍を弾く。重い一撃。だが、さすがにまだ中学生。槍に集中して、足元が疎かになっている。こいつ相手に手加減はいらない。


「『メガアクア』」


 奏に水の弾をぶつける。奏は弾き飛ばされる。そこそこ力は入れた。もろに食らったし、普通の人なら立ってられない。しかし、奏はふわりと着地すると、槍を構えなおした。まあ、予想通り。周りが盛り上がっている。ここまで見られちゃ、本当に負けるわけにはいかない。俺は銃を構え、能力を発動する。


「『絶対命中:アクアバレット』」


 奏は避けようとする。しかし、ここは俺の能力。水の弾丸が奏を追い回す。


「な、なんだよこれ!」


 俺は追い打ちをかけるように二発目、三発目と撃つ。多方向から奏に迫る弾丸。慌てて動きを止めた奏に一発目がヒットする。


「よし」


 しかし、奏もただではやられない。槍を振り払って残りの二発を弾き飛ばす。『絶対命中』を受けた弾丸は衝撃を受ければ、その時点で命中した判定になり能力を失う。考えたな。しかし、俺が使っているのは魔法銃。弾は無尽蔵に出てくる。バン、バン、バン!


「単調だな!」


 俺の能力を見抜いた奏が弾を一つずつ弾き飛ばす。やはり拳銃じゃ連射能力に欠ける。マシンガンが欲しい。でも、中学生相手なら、これで勝たなければ。


「絶対命中は銃だけじゃない。『スパイラルウォーター』」


 螺旋状の水がすごい角度で奏を襲う。これはちょっと衝撃を受けるくらいでは消えない。さあ、槍でどうさばく? すると、奏は俺を追いかけまわし始める。傍から見たらやけになっているようかもしれない。しかし、この動きは『スパイラルウォーター』を俺にぶつけようとしている。やはり賢い。


「だが、お見通しだよ」


 俺はスパイラルウォーターの『絶対命中』を解除する。能力が切れたおかげで、追ってくると思っている人にとっては非常に避けづらい軌道になった。


「えっ」

「じゃあ、勝たせてもらうよ。『イグアス』」


 水魔法の上位、滝を落とす。上からはイグアス。横からはスパイラルウォーター。これは勝ったか。念のため『アクアバレット』を数発撃っておく。


「勝ったつもりか? 必殺『バタフライエフェクト』!」


 奏を中心にすごい竜巻が巻き起こる。水を弾き飛ばすだけではない。竜巻で勢いに乗った水が波動のように迫ってくる。まずい。俺は相殺を試みる。


「『メガアクア』」


 竜巻に乗った水はその程度で収まらない。俺は少しでも衝撃を減らすために、防御魔法を展開。それでも突き抜けてきた水魔法にぶっ飛ばされる。


「ぐはぁっ!!」


 俺の魔法って、結構強いな。一瞬意識が飛んだ気がするが、空中で体勢を立て直し、着地する。そして、銃を構えなおそうとする。……ない。落としている。少し遠い。これは素の魔法で攻めた方がいいか?


「さあ、形勢逆転だ、行くぞ!」


 ここで来られるとまずい。今槍を弾くことはできない。難易度を下げて負ける? 俺が? ああ、明日から笑いものだな。……いや、まだわからない。念のために撃った『アクアバレット』。何とかしてくれよ、俺の能力。俺の願い通り、竜巻に巻き込まれただけで消えていなかった弾丸が急角度で奏に突っ込んでいく。


「なっ!?」


 全弾命中。弾丸が炸裂する。約五発。もう勝っただろう。骨は折れていないはずだが、激痛は感じているはずだ。奏はそれでも槍を杖代わりにして立ち上がろうとする。まだやるか? 少し落ち着いたし、俺は再び魔法を構える。銃がなくたって戦える。すると、風が口を開いた。


「はい、終了! 今回の模擬戦は、リーンティさんの勝ち!」


 ああ、勝ったんだな。気を抜くとどっと疲れが来た。俺はその場に座り込む。さあて、尊厳は守られた。できれば圧勝したかったが、贅沢は言ってられない。


「止めるなよ、風。まだ戦えたのに」

「あのままいってたら大けがしてたでしょ?」


 俺は息を整え、立ち上がる。奏の健闘を称えなくては。彼はすごい。中学生がプロの軍人に一発攻撃を当てたのだ。しかも結構危なかった。


「君、すごいな。誇っていいぞ」


 奏は満更でもなさそうだ。しかし、奏でこれ、か。じゃあ、風はいったいどんだけ強いんだ?


 その日の夕方。俺は賢将王城に招かれる。本題『犯罪組織の捜査』の会議をするためだ。俺の他にも来ていた上司、同期。賢将王国の王子。風、そして、二人の風と同じくらいの年代の女子。一人は黒髪で、氷の髪飾りを付けている。もう一人はピンクのジャケットを羽織った、全体的にピンクっぽい子だ。俺は薄々感じていた。風とこの二人の女子が『三冠』なのだろうと。


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