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勇者の秘密と世界の終わり

 光の巫女様……?

 風竜の爺さんが言った言葉に、その場の全員がぽかんとする。

 光の巫女といえば、聖光エポルプ教会が崇める光神様の使いである。簡単に拝められるような存在ではない。一般人でその姿を見た者はほとんどいないはずだった。

 それが、こんなところに突然現れるというのが意外すぎて信じられない。

 信じられないが、神々しいオーラは光の巫女の名にふさわしく見えた。流れるような長い黄金色の髪はたなびくように広がり、髪の色と同じ金色の瞳。純白のゆったりとした衣はつま先がかろうじて見えるほど裾が長かった。

 光の巫女でなくて、なんであろう。

「君たちはそう呼ぶね、ピンとこないけど。僕らの間では御使みつかえという呼称で認識している」

 子供の澄んだ声で自己紹介した。

「僕はカミュ。この世界の開闢より続く光神様の1327人目の御使だよ」

 1327人目の御使……これほど多くの光の巫女がこの世に使わされてきたとは……。

「御使様に訊きたいことがあります……」

 コスナーは訊いた。カミュの言葉を信じた。というか、カミュの放つオーラは、疑いをいだくというような、そんな心を捨てさせる雰囲気があった。素直な心でもって対話するのが当然のように思えた。

「なんだろうか?」

 御使カミュはコスナーのほうを向いた。

「なぜボリトールのような悪漢を光の勇者に選んだのですか? おかげで多くの人々が泣いています。意図をお教え願います」

 さきほどつぶやいた疑問である。

「さっきも言ったように、彼は選ばれた勇者じゃない。奪われた勇者なんだ」

「奪われた勇者? それはどういう意味ですか」

「君たちが説明するまでもなく、僕たちはボリトールの所業をすべて把握している。彼がこの世に生を受け、今に至るまでどのような人生を歩んできたのかも」

 そしてカミュは、ボリトールの半生を語り始めた。



 その漁村は、数年に一度高潮の被害で何百人も亡くなる悲劇が定期的に繰り返される呪われたような村だった。

 村人たちはそれを海神様の怒りのためだとして、生贄に赤子か幼子を海の祠に捧げ、海神様の怒りを鎮めようとしていた。高潮被害の後、定期的に生贄をささげることになった村だが、村人の子をそのたびに生贄に捧げていては村が廃れてしまう。故に生贄用の赤子を、高潮が来る前に用意するようになった。

 牢獄に繋がれていた犯罪者に娼婦をあてがわせ、子を産ませる。それを生贄として祠に放擲するのである。実におぞましい風習であったが、村を守るにはやむを得ない選択だと、村人はそうするのが当たり前のように思っていた。

 あるとき、盗賊の父と娼婦の母の間に男の子が生まれた。まつろわぬ子供──それがボリトールだった。祠に放擲しておけば波が勝手に生贄を飲み込んで、あとくされはない……はずだった。

 だが、そこに高波が来た。

 もとより生贄などで自然現象が抑えられる道理はなかった。

 過去にない大規模な高波によって、生贄を捧げたにも関わらず、空しく村は全滅した。

 ところが、どういう運命の気まぐれか、生贄になったボリトールは高波にさらわれたあと、命を失うことなく対岸の島に漂着し、そこの農家の若い夫婦に拾われた。

 子供のいなかった夫婦はたいそうボリトールを可愛がった。ボリトールは夫婦の愛を受けてすくすくと育った。

 けれども運命はまたもボリトールに過酷な仕打ちを与えた。

 数年がたち、夫婦の間に子供ができたのだ。それを境に夫婦のボリトールへの扱いは一変した。虐待と罵詈雑言が幼いボリトールを責め苛んだ。

 成長したボリトールは深い恨みを積み重ね、ある夜、夫婦が寝静まったのを見計らって金品を掠め盗ったのち、家に火を放って夫婦を実子ともども焼き殺した。ボリトールが初めて奪った人の命は、育ての親とその子供だった。

 その後、彼はある町に出た。だがまともな教育も受けておらず社会規範が育っていないで他人に対する猜疑心に凝り固まっていたため、浮浪児のグループに入り、町をうろついては窃盗・暴行・恐喝を繰り返すようになっていた。幾度か町の治安当局に捕まり感化院に入れられたこともあったが、窃盗と逃走に関しては生まれつき高いスキルもあってか幾度となく脱走した。

 そんな彼を、浮浪児グループの仲間はやがて頼れるリーダーとして尊敬の念を抱くようにもなっていった。

 だが13歳の頃、ボリトールはいら立ちを覚えていた。

「このままでは所詮底辺で這いずり回るだけのお山の大将に過ぎない。圧倒的な力、圧倒的な地位、王すらも平伏する絶対的な権力! 俺はそれを手に入れる。手に入れねばならない!」

 生贄として消される前提で生まれ、その後もことごとく無用の扱いを受け続けた彼には、異常な承認欲求が満たされずにいた。

 だが、そんな圧倒的な力はどうやったら手に入れられるのか。剣の師範や高名な魔導士の弟子になってその道を極められたとしても、そんなちっぽけな頂はボリトールが目指すところではなかった。

 16歳の頃、彼は逃亡の末、さすらっているうちにたどり着いたダルシントン公国の貿易港で、ある噂話を耳にする。

「聖光教会で、近々光の勇者の降臨があるそうだ」

「誰が勇者に選ばれたんだ?」

「なんでも、ナンハー王国の聖騎士らしい。この国の教会に来て、光の巫女の加護を受けるんだってよ」

「勇者が現れるってことは、近々魔王がどこかで生まれるってことか!」

「30年前の魔王はひどかったよなぁ。うちの畑が消し炭になっちまった……」

 そんな話が、聞くともなしに聞こえてきた。

「勇者か……。勇者にはたしかパーティメンバーがつくよな……」

 勇者のパーティメンバー。それは身分職業年齢素性関係なく、勇者が有能と思える人物が任命される。勇者パーティメンバーになれば、それは一国の国王以上の地位と権力と名誉を得る。さらに光の加護を受けることで、桁外れのスキルと力を得られるのだ。

「よし、なんとしても勇者の仲間になってやるぞ!」



 聖光エポルプ教会の支部があるダルシントン公国。その大教会、地下深くの祈念場――。

 勇者の光の降臨は、この誰も入ることの許されぬ場所で秘密裏に行われる。

 30年ぶりに魔王が現れる兆候があった。各地で不穏な魔素がたまってきており、このままでは危険なレベルにまで達する恐れがあったのである。魔素量が限界を超えたとき、魔王は出現してしまう。

 それに対応するべく新たな勇者が必要であった。30年前に光の降臨で誕生した勇者は、もうすでに死亡していた。

 魔王は現れないかもしれないが、備えるに越したことはない。そこで、光の降臨の儀式を行い、勇者を誕生させるのである。

 各地の聖教エポルプ教会の支部は、勇者にふさわしい人物を大急ぎでさがした。数十人の候補の中から選ばれたのは、ナンハー王国の聖騎士であった。

 ナンハー王国から近いダルシントン公国の教会の支部の大教会には地下に祈念場が設けられていたため、そこで儀式が執り行われることとなった。

 選ばれた異国の聖騎士は、名誉なことだと快諾し、ダルシントン公国へと教会の手配した馬車でやってきた。

 支部の大教会でみそぎをすませ、儀式用の装飾のついた鎧をまとった聖騎士は、司教らと長い階段を降りて地下の祈念場へと入った。

 蝋燭の火が灯された祈念場で、聖騎士は数人の司教たちの前で祈る。

 厳かな空気がその場に満ちていた。

 聖騎士が剣を天に突き上げると、祈念場の高い天井が光った。

「おお、巫女様の降臨です。ここは勇者となる者と巫女様の契約の場。皆、退室です」

 大司教が宣言すると、同席していた司教たちはぞろぞろと出て行く。

 雲を裂き、天より虹色の光が地下の天井を通して伸びてきて、聖騎士の身体を包み込む。

 天の声が響いた。

「勇者に選ばれし者……光の御霊にその身を捧げよ」

 光の神であった。

 無数の光の粒が聖騎士に降り注ぐと、その体を光る水晶に変えた。これが勇者のコアクリスタルだった。いったんこの状態になることで、人間ひとの持つ邪な心や感情をさらに浄化させ、献身を常とする勇者へと生まれ変わるのだ。元から聖人として聖騎士の称号を与えられていたが、さらに純度の高い、常人には達することのできない清らかな心へと昇華されていく……のだが!

 祈念場の側壁が崩れた。潜んでいたボリトールが空中に浮かぶコアクリスタルを鷲掴んだ。

「そうか……これが勇者のコアか……」

 虹色に光り輝くそれを見つめた。

「ふふふ……あわよくば勇者の仲間になれればと考えていたが……これならどうだ!」

 ボリトールは、コアクリスタルを自分の鳩尾に押し付けた。それは体内に沈みこみ、途端に体が光り輝きだした。

 そして、本来なら騎士に降り注ぐはずの巫女の加護の光の帯が、コア――つまりボリトールごと包み込んだ。

「おおおおおおおおおお!」

 激しい光が祈念場を包む。

「やった……やったぞぉ。俺は勇者となった。勇者ボリトールの聖誕だぁあっ!」

 祈念場の扉が吹き飛ぶ。扉の外にいた司教と衛兵たちは、何事かと驚いて祈念場へと駆け込んでいった。

 コアクリスタルになっているはずの聖騎士がいなかった。コアクリスタルから勇者へと、サナギがチョウになるが如く進化するはずの聖騎士の代わりにそこにいたのは、身なりの貧しい目つきの悪い青年だった。

 駆け寄った衛兵たちは、

「誰だ、きさまは! 聖騎士様をどうした!」

 槍を向ける。

「我は勇者ボリトールなり!」

 そう叫んだとたん、一瞬で衛兵が光となって消し飛んだ。すさまじい魔力であった。

 その強力な破壊魔法を目にした司教たちは泡を吹いて祈念場の外へと退避する。

「大変です! 祈念場に賊が侵入しました!」

「なんだと! 勇者はどうなった?」

「うっ……なんだこの光は?」

 大教会の中は騒然となった。衛兵と司教、さらに側仕そばつかえたちが右往左往と、なすところ知らずにあわてふためくなか、ボリトールは逃げ惑う者を軽く排除しながら、その場を悠々と脱した。手にした能力は想像以上であった。

 大教会の外へ出たボリトールは、空の高みから町を見下ろしていた。光の巫女の加護を受けて勇者となり、空中を移動することも簡単にできるようになっていた。しかも会得したその能力は、ずっと以前から持っていたかのように体に馴染み、労することなく自然と発動できた。

 上空からの景色を見渡せば、まるで天下を手中に収めたかのように心が踊った。しかしすべてを見下すようなその瞳には冷酷な光が宿っていた。

「ここで起きた証拠はすべて消しさるべきだな――」

 右手に丸く光が膨らむ。勇者だけが持つ聖光魔法「滅光球ヴァニソフィア」だった。

「灰も残らぬほど消えてしまえ……」

 放たれた光の固まりは地上に衝突すると、巨大なパワーを産みだして、太陽のような灼熱が野も山も町も人も、あらゆるものをいっぺんに飲み込んでいった。

 そして、その光が消えたあとには荒涼とした大地だけが風に吹かれるばかりだった。

 ダルシントン公国は、世界の地図から消滅した。不正に勇者の力を得たボリトールの犯罪の事実を知る者は消え、後にはボリトールだけが残った。

 やがて世間は、誰言うとなく、彼は光の巫女に選ばれた勇者なのだという間違いを定説化してしまった。



「……これが、彼の歩んできた事実だよ」

 御使みつかいカミュは語り終えた。

「その後の彼のすべての行いはしっかり調査している。ハヤカ村にも僕は行ったからね……」

 廃墟となったハヤカ村でのボリトールの悪行を目にしたカミュは、またも光神様側の失態を確認することになったのだった。

 ボリトールの半生には確かに同情する面はあった。それが彼の性格を捻じ曲げてしまい、その後の行いにつながったのだろうというのは理解できた。

 だがそうであっても、世の中のすべてを恨んで凶行に及ぶのはどう考えてもやりすぎである。人間、そこまで外道に成り下がるものなのだろうか。

「明らかに間違った勇者なら、その力を奪うなり止めるなりできないのですか?」

 コスナーが当然の意見を述べた。カミュの話を聞いて、コスナーならずともそう思った。

 しかしカミュは、残念ながら……と、かぶりを振った。

「一度光の加護を認めた以上、それを取り上げたり止めたりすることはできない。光の加護を受ける者は神と同じ扱いになるからね。神に神は殺せない」

 そんな……!

 一同は絶望にかられる。

 ところで……と風竜の爺さんは、

「御使様がここに降りてきたということは、なにかするおつもりで……?」

 そこには、どこか期待する心があった。

 そんな万策尽きたような状況を光神様が放置するわけがない。なんらかの対応をここにきて実行なさるのだろうと思いたかった。

 カミュはうなずいた。

「さっきも言ったように、光の加護を持つものに僕らはなにも手出しできない。そのうえ、ボリトールは鏡面倍化ダブルトレースなる力も手に入れた。あれを奪われたのはマズかったね。あの力は、下手をすれば光神様にも届く刃。ボリトールがスキル獲得のために、各地で魔物を使役し、使い潰していたため、結果的に魔素のレベルは下がって魔王の出現は食い止められていたから、これまで見逃してきたという面があったんだけど、こうなってはさすがに無視できない。ゆえに光神様は決断を下し、僕を向かわせ――この世界そのものを消し去る……そう決められた」

「えっ?」

 いま、カミュはなんと言った?

「世界を消す?」

 実にあっさりと言ってのけたカミュの言葉を、地竜の姐さんは確認する。

「――それはどういう意味ですかな?」

「言葉どおりの意味だよ。世界を消滅させる。跡形もなく」

「そんな! ひどいです!」

 ケートが声をあげた。ウイルスを死滅させるために、病人を殺してしまう、という理屈だ。

「わしらも皆、消えるという事ですか?」

 風竜の爺さんも耳を疑った。

「もちろん。勇者ボリトールは、もう光神様をしても手の付けられない危険物となり果ててしまった。ボリトールに手出しができないのなら、世界を無に帰してリセットする。詰んでしまった世界である以上こうするしかないと光神様はおっしゃった。おかげで僕はその使命を果たさなくちゃならなくなった……」

 カミュのその言いようは、少しばかり恨めしげでもあった。

「バカな!」

 思わずコスナーが立ち上がった。

「――巫女様を前にこういうのは不敬でしょうが……勝手ではないですか!」

「コスナー……」

 御使の前であるにもかかわらず声を荒げるコスナーの気持ちは、風竜の爺さんもよくわかる。あれだけ一生懸命ボリトールを倒そうと努力してきたのだから。

「あやまちが正せないからなかったことにする? 一から世界を作り直す? 神様にすればそれでイイでしょうが、ではおれたちが生きてきたのはなんなんですか!」

「言いたいことはわかるけれど――」

 カミュは冷静である。

「――しかしこのまま放置しても人間界はボリトールの恐怖支配が続く地獄絵図にしかなりえない。その間、何万人、何百万人という人が苦しみ、悲しみ、殺されるか……君は、これから生まれる子らにその苦しみを享受せよと?」

「誰もそんなことは言っていません!」

「それに、世界が消えると言っても魂を消すのではない。いったん世界ごと魂の器も消し去って、魂を天に回収し、新たに作った世界に魂を再分配するんだ。これは死ではない。安心なさい」

「それでも結局今のおれたちが消えることに変わりはないでしょう!」

「生まれ変わって、木や花に転生する可能性もあるってことですか……」

 ケートがカミュの言う意味を推し量ってつぶやいた。

「わしらも虫や魚に生まれ変わるかもな……」

 風竜じーさんもそんな想像をしてしまう。

「そもそも勇者ボリトールに苦しめられて死ぬか、世界ごと消えるか、どちらかを選べなんて、そんなバカげた二者択一しかないなんてわけがない!」

 コスナーはカミュに食い下がった。

「――おれに時間をください、御使様。ヤツを倒せば宜しいのでしょう?」

「気持ちはわかるけれど、やつはもはや人間の敵う相手ではない」

「では、取るに足らない人間の最後のあがき……その機会を一度だけお与えください。それでダメなら御使様のご意思に従います」

 いいでしょう、とカミュはうなずいた。

「世界を消滅させるのは、非常に労力のかかる仕事ということもあって、できれば、そういうことはしたくないからね」

 そう言って、初めて表情らしいものがその顔に現れた。

「僕がわざわざココに来てすべてを話したのは、ボリトールのことを知っている君たちなら、なんらかの対策を出してくれるかもしれない、と思ってのことなんだ」

 カミュにしてみれば、最初から世界を消滅するつもりであるなら、コスナーたちになにもかも話す必要などなかった。問答無用で実行しても職務上問題はないはずで、にもかかわらずここへ現れたのには、わずかながらの目算があってのことだったのだ。

 もっとも、それは単に大変な仕事に骨を折りたくない……という、ただそれだけの気持ちであり、世界や人間のことに気遣う考えはない。そこは打算的な神の目線であった。

「しかし、ボリトールに気取られるワケにはいかない。君が敗れたと判断した瞬間、間髪入れず世界を消去するよ。いいかい?」

 奮起を期待するように言った。

「了解です……!」

 コスナーは、ソーシャルディスタンスの琥珀のついたてを振り返った。

毒竜ぶすりゅう!」

「わ、びっくり! いきなりなに?」

 いまのやりとりも当然毒竜にも聞こえていたが、口を差し挟めるような雰囲気ではなかった。

「頼みがある。……おまえが欲しい!」

「え? イヤー! 告られたー! いややわあ! こんなガチなモーション、久し振りよおねえさん! でもいきなりはダメよ。何度かお店に通ってもらって、せめてドンペリタワー――」

「頼む! おれをおかしてくれ!」

「えーっ!」

「きゃー!」

 地竜の姐さんもさすがにひっくり返り、ケートも顔を手で覆った。

「おほーほほお! スゴイこと言い出したわこの子っ! でもあたし、暗黒竜勢だけにアンコなの。掘ってほしいなら、知り合いのカッパ竜が……」

「馬鹿者、そういう意味ではないとわからんのか!」

 誤解を招くようなコスナーの発言だったが、そこには別の意味があると、風竜は察していた。

「――コスナー、なにか策があるようじゃな」

「ああ……。もう次はない。世界ごと消されるからな。おれがたとえ死んでも、この策さえはまれば、あるいは……」

「じゃあ、いよいよ……」

 地竜の姐さんには、絶望の淵から見えた日の光のように、コスナーの決意が強く感じられた。

「すべての決着が付く、最終決戦……ですか」

 まだどんな策かも聞いていなかったが、どちらに転んでも最後の闘いになるこの大一番に世界の命運がかかるのだと、ケートは身が震えた。

「期待しているよ――」

 カミュの金色の瞳が光った。世界を消滅させるという、面倒な労働を回避できるかもしれない、と思って。



【第13話につづく】

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