ラジオに応募しよう【任侠兄弟盃編】お弁当
傷害でお弁当持ち、いわゆる執行猶予の私 (ワシ) やけど
ベランダに隠したチャカが見つかって実刑ですわ
「新入りの兄ちゃん、よろしゅう頼むで」
豚箱のルームメイトが挨拶して来た
前科4犯、投資詐欺のペテン師や
未公開の株券を買わせて大金をプールしとったらしいが
お縄になって株も暴落、有価証券も紙飛行機や
「シャバに出たら、こんな稼業も卒業や」
ペテン師のオッサンはこんな寝言いいよるが
どうせまた繰り返してここに帰ってくるんやろ
刑務所の生活は退屈で
わずかな自由時間で散歩と
軽いトレーニングしかすることあらへん
後はひたすら刑務作業や
「兄ちゃん、わいも後二か月で出所や」
相部屋の壁に貼られたカレンダーを指でなぞり
ペテン師のオッサンがぬかしよる
私の知ったことやないが、一応返事はした
「……さよか、せいぜい頑張れや」
「兄ちゃん、わいな、娘がおるねん」
「……さよか」
「ほら見てえな、かわいい子やろ」
ペテン師のオッサンは写真を私に見せた
観覧車の前で小さい子どもと
笑顔のオバハンが写っとった
二か月後、オッサンは出所した
新たなルームメイトは私と同じチンピラで
揉め事起こして独居房から出てきたばかり
私より先に入所して
私より出所が遅い筋金入りや
「兄ちゃん、ペテンの写真見たか」
「……見たで」
「おもろいやろ」
「……何がや」
「知らんのか、あれインチキや」
「……何やて? 」
「あいつに家族はおらん、嘘の写真や」
人を雇ったか、親戚を使ったか
ようは詐欺で使うために
金で作った写真らしい
あのオッサンは騙す相手を間違えた
愛でるように
すがるように
オッサンは刑務所で
あの写真を大事にしとった
気付いたんや
まずは自分を騙すべきやったと
◇◇◇
神の存在証明など不要である
必要な者がいて、信じる者がいる
ただ、それだけのこと……