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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

碧眼の石像

長くなってしまった。

 ある村に、薄情だと噂される男がいた。


 男には父も母も兄弟もいない。村の優しい人間の温情で見合いに勧められた女も、必要ないと追い返した。


 男は出来る限り一人で生きていた。


 ある日の朝、男は小動物の住んでいそうな洞穴に、狩猟具を持って入った。


 空気を消費しないように灯りを持っていなかったことが、原因だった。


 男は足元の白蛇に気付かず、その尻尾を踏んでしまった。

白蛇は怒って足を噛む。


 男は痛い、と足を振ると、白蛇はぽろっと外れて奥へと逃げていった。




 その夜、家に帰った男は熱を出した。


 呼吸がしにくくなって、意識が朦朧とする。


 少しおさまった時には、明け方になっていた。






 「ケン、いないのか」


 戸を叩く音に、ケンは目を覚ました。太陽はもう真上まで上がっている。


 「何かあったのか」と、ドンドンと戸を叩く声がある。


 重い体を動かして、玄関に向かう。


 ドアを開けると、仕事を斡旋してくれるなど普段から優しくしてくれている、村長の息子だった。年齢はケンより上だろう。


 「……どうした、ヨシさん」

 「おおケン、今日はただ遅かっただけか?」


 ケンは黙ったまま頷く。


 「そうか、安心した。仕事の話なんだが……おい、その耳のところはどうした」


 指摘された右耳を触れると、耳たぶが少し固くなっていることに気づいた。


 「アクセサリーではないのか……?」


 ケンは首を横に振って、「どうなっている?」と聞いた。


 「まるで、黒曜石になっているみたいだぞ」


 耳たぶは暗い色の光沢を纏って、触れるとひんやりしていた。


 「何かあったのか」

 「……昨日、洞穴で白蛇に噛まれた」

 「耳たぶを、か?」

 「いや、右足だった」


 ヨシの、医者にかかろうという提案により、ケンは靴を履く。


 「待て、腹は減っていないのか?今起きたのだろう?」

 「ん?ああ、確かに……」


 ケンは言われて気づいたかのように、自分の中に空腹感が無いのに不気味に感じる。


 「ちょっと胃の調子が悪いのかもしれない」

 「そうか、それも含めて診てもらおう」


 ケンの家から村の診療所までは、少し遠い。


 先を行くヨシはケンを心配してかいつもより歩みが遅いので、辿り着くのは少し時間がかかるだろう。


 「そうだヨシさん。仕事の話ってなんだ?」

 「ああ、獲物の解体の仕事なんだがな。出来そうにないなら他のやつに頼むよ」

 「いや、医者にかかったあと行かせてくれ」

 「わかった」


 そんなふうに会話をしていると、前から黒いフード付きのボロボロなローブを纏った、怪しげな老婆が歩いてくる。


 「こんにちは」とヨシが挨拶するや否や、老婆がその身に合わぬすばしっこさでケンに近づいた。

老婆はしばらくケンの顔をジロジロと見る。


 「ふーむ、それは呪いじゃな」

 「……何言ってんだ?婆さん」


 いきなり言われた言葉に、ケンとヨシは少し戸惑う。


 「お婆さん、この村の人か?それとも移り住んできたのか?」


 ヨシの質問に応答することなく、老婆はケンに言う。


 「お主自身の涙が、その呪いの薬だよ。それ以外は何も無え。わしに出来ることもね。それにしても恐ろしい呪いをかけられたね」


 そう一方的に言うと、老婆は歩いて去っていった。


 「なんなんだ?あの婆さん」

 「さあな。一応親父に報告しておこう」




 病院では、「分からない」ということだった。


 「なにしろそんな症状は見たことがないもんですから。もしかしたら大きな病院のある都市の方に行けば何かわかるやもしれません」

 「都市か……」


 ケンは村を出たことが無かった。都市という華やかな場所があるということは、育ての親であった祖母から聞いたことはあったが、その華やかさすらケンには想像がつかなかった。




 「……ということだそうだ」

 「なるほどな。悪化する前に都市に向かった方がいいんじゃないか。ここからだと二、三日はかかるだろう」

 「いや、もう良い。特に支障があるわけでもないからな」

 「そうか。なら仕事を頼もうかな」




 ケンは一度家に戻ってから、その解体の仕事へと向かった。


 作業小屋は村に向かう道とは違う方向を行くとある、ケンだけが使う狩猟時期の拠点のようなものだった。

 村の人間に動物の解体を進んでやるものはいなかった。故に、ケンという外れ者の存在は彼らにとって、都合のいい存在であった。


 作業小屋についた。

すると何やら、小屋の中から灯りが漏れ出ているのにケンは気づく。


 中の状況を確認しようと、小屋の扉を開こうとしたが、開かない。


 「誰かいるのか?」


 扉をドンドンと叩いて、呼びかける。


 すると中からガサガサと音がして、扉が開いた。出てきたのは、先ほどの老婆であった。


 「あ、あんた……!」

 「おや?呪われ子じゃねえか」

 「ど、どうしてここに?」


 老婆は眉を寄せて言った。


 「そりゃあ、ここに住んでるからじゃ」

 「いやしかし、ここは村の解体小屋だぞ」

 「なにぃ?解体ぃ?知らんね」

 「道具とか、置いてあったろう?それにここは血の臭いが濃いとか言って、村の人間は嫌がるぞ」

 「そうかい?まあわしに取っちゃあ慣れたもんさ」


 今度はケンは眉を寄せる。


 「慣れたって婆さん、あんた……」

 「そりゃ130才じゃからの、永く生きてりゃあ慣れるもんもあるわい」


 ケンの動きが止まる。


 「……それは、ボケと言うやつか?すまん、あまり人と会話することがなくてな」

 「まだボケとらんわ」

 「……」

 「……スマン。130はほんとじゃぞ?」


 気まずい空気が流れる。


 「……とにかく、ここはわしの小屋じゃ」

 「そうなると、ヨシさんに報告せねばならんな」

 「ヨシさん?誰じゃそいつは」

 「村長代理だ」

 

 老婆はそれを聞いて、少し顔を顰める。


 「くっ……まあええわい。別の街にでも行くとするか」

 「あんた、もう夕暮れだぞ?」

 「余計なお世話じゃ」


 老婆は小屋の中に戻って、荷物をまとめるべく風呂敷を広げた。


 「おい、そのテーブルと上の物ってあんたのだろう。持って行けるのか?」


 小屋の入り口から見えるのは、大きなテーブルと、何やら細々とした怪しげな物だった。


 「ああ?魔女舐めんじゃねえ」


 そういうと老婆はそのローブの下から手を前に出した。


 するとテーブルやら細々としたものやら、入り口からは見えなかった、何かが書いてある紙やらが浮き始めて、老婆が先ほど広げた風呂敷に収まる。


 「うんとこしょ」


 明らかに入りきらぬ大きさの物体が、老婆が風呂敷を閉じた瞬間消えたかのように収まったのを見て、ケンは信じられないものを見ているような気分になる。


 「……」

 「解体の道具はここに置いておくからの」

 「やっぱりあったんじゃねえか」


 老婆は別の小さな風呂敷を取り出して、備え付けの机に置く。


 「さあ、行くとするわい。お互い永い命じゃ、どこかで会うこともあろう。達者でな」

 「お、おい」

 

 老婆はそれだけ言って、年老いた人間とは思えぬほどしっかりとした足取りで夕暮れの向こうへと消えていった。


 すっからかんとなった小屋の入り口で、ケンは一人佇んでいた。






 日に日に、石がケンの体の所々にできていった。


 ケンとヨシは日の高く昇った時間に、ケンの小さな家のリビングで、飾り気のない机を挟んで座っている。


 「都市の病院に行こう。ケン」

 「いや、いいさ。俺は全身が石になろうが構わん」


 時々ケンの様子を見にくるヨシは、真剣な面持ちでケンに話すが、ケンは全く耳を貸さない。


 「俺がいなくなったって、悲しむ人はいないさ」

 「私が悲しむんだよ」

 「あんたもそろそろ嫁を捕まえたらどうだ。もういい年だろう」

 「話を逸らすんじゃ無い」


 ヨシはケンの家に極端に物がないのを見て、ため息をつく。


 「やはりもう腹は減らないのか?」

 「ああ。喉だけが渇くのが難点だ」

 「減らなくても食っておいた方がいい」

 「わざわざそのために働くのも面倒だ」


 ケンは腹が減らなくなったあの日以来、彼自身の遣っていた畑も遣らなくなって、金を稼ぐためにしていたヨシからの仕事までもやらなくなった。

 ケンが外に出るのは近くの川への水汲みだけとなった。


 そんな彼を見てヨシは時々、食べ物を持ってくるようになったのだが、ケンはその事事くを断って生活していた。


 「……あの老婆を、覚えてるか?」

 「あの老婆?」

 「ああ。君のその呪いが発覚した時に見た、老婆だ」

 「ああ……」


 ヨシは続ける。


 「あの老婆が言っていた事だ。涙が、その呪いの薬って」

 「確かに、そんなことも言っていたな」

 「つまり、君が泣けばその呪いが解ける、という事だ」

 「老婆が適当を言っているかもしれないぞ」

 「でも、可能性があるならやってみる価値はある」


 ヨシは質素な椅子を立つ。その顔は真剣だった。


 「明日から、本格的に治療を始めてみよう」

 「……いいよ、分かった」


 ケンは折れるように了承した。






 「……そして、その時に助けてもらったのが、今のお母さんなんです」


 ケンの家に、ヨシと見知らぬ女が来た。これまた、日の高く昇る時間である。


 「……」


 ケンは悲しき女の体験談を聞きながら、今朝汲んだ水をコップに注ぐ。


 「そうか……そんなことが……!」


 ヨシは涙している。頬を伝うとめどない涙は、ケンの家の床を濡らす。


 ケンは全く変わらぬ、いつもの表情だった。


 右の頬にできた大きな石の肌は、向かって座る女とヨシを冷たく写している。


 「どうだった、ケン……!」

 「俺の人生のほうが辛いぞ」


 場が凍りついた。見知らぬ女は口をぽかんと開いて、ヨシはその目を大きく見開いた。


 「……だから嫌だったんですよ!こんな非人の家に来るなんて!」

 「あ、ちょっと!」


 女は怒って席を立って、去っていった。


 「ケン……」

 「実際そうだろう。俺は親がいない。友達と呼べる者も、ヨシさんだけだ」

 「いや、そうかもしれんが……」


 ヨシは頭を抱える。


 「……明日、また来る」

 「ああ、歓迎するよ」






 「……そしてできたのが、今の嫁さんなんです」

 「そう、なんですね……!」


 ヨシが今度連れてきたのは村の若い男であった。


 ヨシはまた涙を流して、男の話を聞いている。

 ケンはまた、その無愛想な顔を引っ提げている。


 最初に見た右耳の石は、もう完全に耳全体を覆っていた。また、机に乗せている右手の指も、黒い光沢を纏っている。


 「どうだ、ケン」

 「……俺には嫁もいなけりゃ、借金もねえ」


 若い男は席を立つ。


 「クソっ、時間の無駄だろ!」


 家を出ていった。


 「ケン……」

 「なんであいつらは来てくれるんだ?」

 「え、な、なんでって、そりゃあみんな、君が心配だからだよ」


 ケンは、大凡金でも積んでいるのだろうと勘繰って苦笑いをする。


 「あんまり無理しなくとも、俺は平気だ」

 「いや、そんなわけに行かない。いつか動けなくなったとき、きっと辛い」

 「……」






 そうして、月日が流れていった。


 ヨシは随分と老けて、白髪が増えた。村長の座を父から譲り受けて、忙しくなった。彼の子供は、大学に行くために都市へと旅立った。

 村はどんどんと若い人が減っていった。

 都市が成長していっているというのを聞くようになった。


 ケンは、老ける様子が全くなかった。

 石が発現したその日から、その髪色はずっと変わっていなかった。


 変わったのは、石化した肌が増えたことだ。


 もう右の手首は動かなくなって、左目は閉じることができなかった。しかし、視界はずっと開いている。目だけはなぜか、石化しなかった。

 目は乾くので、定期的に水を流していた。




 「おう、久しぶりだな、ケン」

 「ヨシさん……」


 昼時、ケンの家の戸を叩いたのはヨシだった。


 「最近来れなくてすまないな」

 「いいさ。もう村長なんだから。それに、じきに俺は喋ることもできなくなる。そうなったら来なくてもいい」

 「……結局、私は何もできなかったな」


 感動話、悲しい話、涙を誘う話をいろいろと聞いたが、結局涙は流れず、ケンの石化は一向に治らなかった。


 「こんなに俺を想ってくれるのはあんただけだよ、ヨシさん。ありがとう」

 「……」


 ヨシのシワの増えた顔を写す黒い光沢は、多分この先もずっと、冷たい。


 「俺がヨシさんにしてあげられることは、何も無い。それが、本当に悔しいよ」

 「そんな……私は君と話をするのが好きだったんだよ」

 「いつもそれを言うな、あんた」


 判然と思い出せぬほどの昔、ヨシがケンに話しかけた数十年前から、彼らは友達であった。




 「……ケン」


 髪が真っ白になったヨシは、玄関の前に胡座をかいて座り込む、その石像を見て、涙した。






 御堂ができた。それは素朴で小さく、町からも離れているので、町の人々の大半は知らなかった。


 その御堂に祀られているのは、坐像である。


 玄武岩のような黒味を持ったその像の、不気味な碧い目は、御堂を知る者を不気味がらせ、嫌われていた。


 最初は杖をつく白い髪の老人と、その息子であろうか、若い男が供物をもって御堂の手入れを時々しにきていた。

 そのため、御堂が作られて5年ほどは、その素朴ながら少し身綺麗な建造物は保たれていた。


 坐像の碧い目は、老人が来るたびに優しくなったような気がする。


 しかしある日、彼らは終に来なくなってしまった。


 それ故に、御堂は雨に打たれ、蔦を被り、戦火の擦り傷を負おうとも、誰にも手入れはされなかった。




 ある晴れた日の朝。


 一匹の猫が、その重たそうな体を引きずって、坐像の前に包まった。


 その碧い目は、猫を見ているようで不気味だった。


 猫は苦しそうである。ただ悶えて、でも声も上げずに踏ん張っているようである。


 そして、次の瞬間。


 ビャービャーと高い産声を上げる、三匹の仔猫が生まれた。




 親猫は、坐像の近くに寝転がって、三匹に乳を与え続ける。

 そして仔猫が寝ては御堂を出て、口元にネズミやら何やらを提げては戻ってくる。

それを食いながら、起きた仔猫に乳を与える。


 そうやって彼女は、忘れ去られた御堂に4匹家族で暮らしていた。




 ある夜であった。

 雨が降っていて、仔猫は甲高い声をキリキリとあげて、母猫を待っている。


 すると、壁に空いた穴から影が入ってくる。


 歩みの遅い四足が、三匹の子猫の元へと寄っていく。

 母猫は血を流して、御堂へと戻ってきた。


 どうやら、何かに噛まれたようだ。その綺麗な毛並みを血で汚してしまっている。


 仔猫は母のニオイが違ったものであったゆえ、乳を飲まずに必死にその母猫の毛を繕ってやっているようである。


 坐像の碧い目が、揺れ動いたような気がした。




 その日以来、母猫は倒れきりになってしまった。


 仔猫たちは何を思ったのか、御堂を出た。


 しばらく時間が経って戻ってきた時には、口元にその仔猫たちと比べれば相当大きなネズミを咥えて戻ってきて、母猫に差し上げるように置いた。


 母猫は三匹を静かに見つめて、ゆっくりとその獲物を咀嚼し始めた。


 仔猫が、咀嚼を終えた母猫の乳を飲むことはもうなかった。


 坐像の目が、また揺れ動いた気がした。






 夕暮れ時、三匹の仔猫がいつも通りネズミを咥えて、少し元気を取り戻した母猫の元へと寄ろうとした。


 その時であった。


 シャーッと鋭い音がなるや否や、素早い物体が三匹の中の一番後ろを歩いていた仔猫に噛みついた。


 ギャウと声をあげた仔猫が、その物体を引っ掻こうとするが、避けられる。

 そして次の瞬間には、仔猫がパタリと倒れ込んだ。


 二匹の仔猫は咥えていた獲物をパッと離すと、体をできるだけ大きく見せて、その物体をキツく睨む。


 それは白く、長い体を持って、鋭い牙と細いチロチロとした舌を見せている。


 おそらく仔猫の足跡を尾けて来たのだろう、白蛇は獲物を見る目を向けている。


 闘いが始まった。


 仔猫の素早さや、そのコンビネーションを持ってしても、その白蛇には敵わなかった。

 仔猫は、どうして自分たちが負けるのか分からなかった。この形のモノと戦って、反応で負けたことはなかったからである。


 しかし、敵わない。短い時間で、二匹の仔猫の体はドンドンと傷を負う。


 一匹の仔猫が、よろける。


 蛇の牙はそちらを向いた。


 シャーと音が鳴る。牙が迫った。


 白蛇が仔猫に噛み付くその時。


 大きな体が、その攻撃を守った。


 それは、母猫であった。

雷の落ちる速さよりも速く、その白蛇の攻撃を、我が子を守るべく受けに走った。


 母猫は倒れ込んだ。何度嗅いだか分からぬ土の匂い。


 二匹の仔猫は動揺する。4匹家族のうち、2匹が倒れた。


 しかし二匹はその動揺をすぐに振り切って、今度は怒り心頭の眼を、その忌々しき白蛇にキッと向けた。



 そのとき、ボロボロ、ゴトゴトと御堂の奥で音が鳴った。



 一瞬、白蛇と猫の時が止まる。新しい敵の現れかと思ったからである。



 それは、殺さんとする碧い目を白蛇に向け、涙を流した人間の男の姿であった。



 「それでこそ、家族だ」



 何百年流さなかった涙は、その黒き石を打ち砕いた。


 男は地を蹴った。


 ぐわっと白蛇の腹を掴む。


 白蛇はあまりの出来事に反応が遅れたが、その瞬間我に帰って、その身を掴む人間の手を噛む。


 「痛え!」


 そして男は、意趣返しとばかりに、その手にした白蛇の首を、ガリッと噛んだ。


 キシャァと大きな音を立てて、白蛇はその人間の手から口を離して首を動かす。



 男は白蛇から流れる血を、さらに多くすべく顎に力を入れた。



 ガチン。



 歯のぶつかる音がなって、その白蛇の首は御堂の床に落ちた。




 仔猫は一匹は母猫を、もう一匹は兄弟の片割れを守るように、口を赤く染めた男の方に向いていた。


 「すまん。驚かせたな」


 男はそう言うと、白蛇の体を床に落として、猫の家族に背を向けた後、御堂の入り口へと向かった。




 白蛇に噛まれた母猫と三匹の仔猫は、石になった。


 しかし彼らは寄り添いあって、幸せなように見えた。


 男はどこに行ったのか分からない。腹が減ったから食い物でも探しに行ったのやもしれない。


 御堂は全てを忘れ去るように、伽藍堂となった。

 穴の空いた屋根から差し込む光が、その古びた床を照らしていた。

猫が好きですから、かけてよかった。

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