第2話 正ヒロインにも私は屈しません!
異世界に転生してから数日が経った。
いまだに私が推しの親友ポジションに転生したのかは分からないし、それが事実だとしても信じられないが私は毎日が夢のような気分だ。
だって、今!目の前には私の推し、リリアがいるのだから!
「エリー、今日もありがとう!一緒に散歩するの、楽しいわ!」
リリアがにっこりと微笑む。その笑顔だけで私の心はホカホカになる。ああ、私の推しは何てかわいいんだろう…。最高だ。
毎朝その姿を拝めるなんて、わざわざ車に轢かれて転生してきた甲斐があったというものだ。まぁそんなことはさておき。
ここ数日過ごしてみてわかったことがある。
それはやはりリリアの性格は相変わらず少し控えめで、時折自信なさげに見えるのが気になるというところだ。
──これじゃいけない。私が彼女を絶対に幸せにしてみせると決めたんだ!
私は昨日の商店街での出来事をもう一度掘り返すことにした。
「ねえ、リリア。昨日のあの商店街でのこと、すごく良かったよね!」
「え?何が?」
「ほら、あの迷子の子供を助けてたじゃない!泣いてる子を優しく慰めて、最後には笑顔にしてあげてたよね。リリアの優しさ、すごく素敵だったよ!」
リリアの顔が少し赤くなる。
──そう、これだ!推しを褒めて褒めて褒めまくる作戦!彼女の魅力を彼女自身にも気づかせるために、毎日少しずつでもいいから言葉で伝え続けるんだ!
「そんな…私はただ…」
「いやいや、もっと自信を持って!リリアのそういう優しいところ、すごく好きだよ!」
私の言葉に、リリアは驚いたような表情を見せた。
彼女の驚きが徐々に笑顔に変わっていくのを見て、私は心の中でガッツポーズを決める。
よし、今日も推しの自己肯定感アップに成功だ!
******
その日の午後、私たちは王都の広場を歩いていた。
リリアは少し恥ずかしそうに私の横を歩いている。ああ、この距離感がたまらない。親友ポジションって最高だな…。
推しと肩を並べて歩けるなんて、神様に感謝しないと。南無阿弥陀仏……。
「エリー、今日はどこに行くの?」
「うーん、そうだな…せっかくだから、お城の庭園に行ってみない?きれいな花がいっぱい咲いてるらしいよ」
「わあ、それいいね!行ってみたい!」
リリアの目が輝いた。
こういう些細な私の提案に大して彼女が楽しそうにしてくれるのを見るのが、私の最近の生きがいだ。
私たちはウキウキしながら二人で庭園へと向かった。
だが、広場に到着した瞬間、その場の空気が一変した。
「ん?あれは…?」
美しい金髪をなびかせながら、華やかなドレスをまとった少女が私たちに向かって歩いてくる。
その姿を見た瞬間、私はピンときた。
正ヒロイン、セシリアだ。
セシリアは完璧な美貌と優雅な物腰で、いつもリリアを圧倒してきた存在だ。
そして彼女はリリアが自信を失う原因の一つでもある。
原作では彼女と自分の色々な出来を比べてしまい落ち込んでしまうのだ。
だが、私はセシリアには負けない!ここで推しを守るために親友エリーとしての役割を果たすのだ!
「リリア、こんにちは。あなたもここに来ていたのね」
セシリアは上品な笑顔を浮かべながら、リリアに声をかける。
その笑顔の裏には、どこか冷たいものが感じられる。私の心の中で、警戒レベルが急上昇する。
「う、うん、エリーと一緒に散歩してたの……」
リリアが少し怯えたような声で答えるのを見て、私は思わず一歩前に出る。ここは私が何とかしないと!
「こんにちは、セシリアさん。私たちもここで楽しく散歩してるんだ。リリアが今日も素敵な一日を過ごしてくれるようにってね!」
セシリアは少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻す。
「そ、そう……エリーさん、リリアのことをよくサポートしているのね。」
「もちろんです!だって、リリアは本当に素晴らしい友達だから」
ちょっと出しゃばりすぎたか……?まぁいい。
リリアが目を見開いて私を見つめる。その視線が少しだけ不安そうに揺れているのを感じ、私は再び心の中で誓った。
リリアがどんな状況でも自信を持てるように、私は彼女のそばで全力で支える!
「さあ、リリア。行こう、お城の庭園に!」
「うん、ありがとう、エリー……」
セシリアに別れを告げ、私たちは庭園に向かって歩き始めた。
彼女が背後で何か言いたげにこちらを見ているのを感じながらも、私はそれを無視してリリアの手を引く。今は、私たちの時間だ。
推しのためなら、私はどんなことでもする覚悟だ。どんなに大きな壁が立ちはだかろうと、絶対に彼女を正ヒロインにしてみせる!