推しに捧げる唱
お久しぶりの物書きだったので、温かい目で見ていただけると幸いです。
ごくごく平凡なありふれた毎日。
会社と家を往復。それを毎日続けている。
会社では誰でもできる仕事をこなして、忙しいわけでもなく、少し暇な仕事。給料だって高いわけではなく、平均値だ。
自分に向いている仕事がわからなくて、ただ生きるために入った会社に愛着など湧くはずもない。
何がしたいのだろう。わからないけれど、何かがしたい。
そんな漠然とした思いを抱えながら日々を過ごしている。
こんな生活をいったいいつまで続ければよいのだろう。
定年まで続けるつもりだろうか。
20代後半にさしかかり、未来を考える時が増えた。
この先どうなりたいのか、どうしたいのかどうなるのか。
不確かな未来は不安しか襲ってこない。
決断する勇気も持てず、いつも通り一人暮らしのアパートへと帰路に着いた。
会社からの帰り道、考えるのは未来のことばかり。
ぐるぐると考えては不安になり、でもどうすることもできない現状に嫌気がさす。
ふっと息を吐いて靴を脱ぎ、荷物を置いて手を洗う。
誰もいない部屋はこじんまりとしているが、自分だけのお城だった。
食欲もなく、食べる気も起きないのでとりあえず座ってテレビをつける。賑やかな笑い声のする画面の向こうは楽しそうできらきらと輝いているように見えた。
楽しそうでいいな、と心の奥底にもやがかかる。
楽しいだけでは成り立たない仕事なのはわかっているのに、羨む気持ちがむくむくと湧き上がってしまう。
テレビから視線を外して右の棚に顔を向ける。その一角は好きを詰め込んだ空間。少しずつ買い溜めて、少しずつ増やしていった私の宝物。
ぬいぐるみやブロマイドを飾り、小さなアクリルスタンドがちょこんと立っている。その周りにはモチーフの小物を並べて統一感を出した。
俗にいう推しである。
「今度のイベント何着て行こうかなぁ。グッズは通販でも買うけど、会場限定のグッズ買いたいしトートバッグ持っていかなきゃ」
画面の向こうにいる推しはいつだって輝いていて、私に力をくれる。生きる意味をくれた。
なんの変哲もない日々だって、推しのグッズを買うため、イベントに行くためなら頑張れる。
辛い日だってあるだろう。けれどそれを表には出さず、いつも笑顔でいてくれる推しには、心配な反面、助けられているのも事実。
「私、推しを支える仕事がしたい」
ぽろりと口から溢れた言葉。
自然と、けれど本心から出た言葉だった。
自分の選択が間違っているかもしれない。後になって後悔するかもしれない。
「推しを、頑張る誰かを支える仕事がしたい。その中で私ができることを探して、決まったらーー今の会社を辞める」
そう口にして、すとんと心の中に落ちた。
やりたかったことが見つかった気がした。まだ漠然としたものだけれど、何かを変えたくて心がもがいていた時に比べれば大きな一歩だ。
「推しの笑顔のために」
願わくば、いつの日も笑顔で楽しくいられる日々でいてほしい。ただ願うことしかできないけれど。ありがとうと直接伝えることはできないけれど。
何かのきっかけで、あなたを応援する人たちの声が届くといいなと思う。
自分の進む未来が見えた気がして、握った拳にぐっと力を込めた。
あなたが幸せな日々を送れますように。
推しに捧げる唱を、今日も心の中で呟いている。