9、宿へ
「では冒険者カードを発行してくるのでしばらくお待ちください」
そう言って受付の人は扉の奥へ入っていった。
ガチャ
「お待たせしました。こちらがあなたのギルドカードとなります」
「これがですか」
5分くらい待った後に渡されたのは銀色のギルドカードだった。そこには大きく9級冒険者、リクと書かれていた。
「このカードは身分証になるので紛失に注意してください。最後に、ここにあなたの魔力をこめてください」
「魔力ですか?」
「はい。それによって他人が使うことができなくなります。魔法使い、とのことですので補助器具は必要ありませんね?」
魔力か。いまいち流し込み方がわからないが魔術を使った時に体から抜けてく感覚を再現すれば.........できた!
【スキル[魔力操作]を獲得しました】
カードが光った。これで完了なのかな? なにやらスキルもゲットした。
「これで大丈夫ですか?」
「はい。先ほどの光が完了の合図となります。何か質問はございますか?」
「先程、素材売却と言ってましたが素材売却とはなんですか?」
「素材売却は主に討伐した魔獣の買取をしています。また、貴重な鉱石なども当てはまります」
じゃあ今[武器庫]にあるのも売り払えるか。ちょうど今日の宿代とかほしいし。
「今売却することも可能ですか?」
「可能ですが.........何かあるので?」
しまった。今なにも荷物がないんだ。流石にスキルだとバレたくないし、かといって容量を拡大したような袋とかがあるのかわからない。
(そんなアイテムある?)
〈あります。街の入り口から冒険者ギルドまでの道で、小さな箱から、そこには絶対に入らない大きな剣を取り出していた人がいました〉
(それの名称わかる?)
〈使用者は『空間箱』と呼んでいました〉
まじか。[遇ノ智庫]を手に入れてから祝福を常時発動しておいてよかった。しかし音を拾う機能はなかったはず。ってことは自分で聞いて、右から左に流してたのか。
〈使用者はあなたの左側にいたので、どちらかと言うと左から右です〉
どっちでもいいわ。
「空間箱を持っているのでそこに魔獣の素材があります」
「く、空間箱! それはまた高価なものをお持ちですね。素材はこの机にお願いします」
「はい」
服の中に手を入れて取るふりをしつつ鳥を机に置く。
「ああ、シンバードですか。これはまあまあ珍しい............随分鋭い鉤爪ですね」
「普通は違うんですか?」
「シンバードは影が薄く、あまり位置がわからないことで有名です。そして主な攻撃手段はこの鉤爪ですが普通はこんな鎌のようなものではなくもっと小さいです」
「ん?」
なんて言った今。影が『薄い』って言ったのか? あの鳥は影が薄いどころか全く見えない上に、[儚幻の大鎌]なんて称号まであった。冒険者の実力なんて知らないが普通影が薄い程度でいかにもやばそうな称号つくか?
「どうしました?」
「いえ、影が薄いどころか全く見えなかったので」
「全く見えない? じゃあどうやって討伐したんですか?」
「試しに森で魔法を打ったらいきなりなにもないところから落ちてきまして」
馬鹿正直に祝福のことを話すつもりはないし、ついでに言えば俺に使える魔法は無い。
「..........それは運がよかったですね。しかし全く見えないシンバード? 妙ですね。シンバードといえば少し位置がわかりずらい程度で初心者でも注意すればわかるのに............見えない? そういえばどこかで.........」
「どうしました?」
「全く見えない上に鉤爪が非常に鋭いシンバードとは変わってるなと.............まさか!?」
いきなりなんだ?
「リクさん、あなたが討伐したのは、シンバードではありません。おそらく..........デスリーバードです」
deathly birdってことか? 直訳すると死の鳥。こっわ。名前からして絶対やばいやつじゃん。
「あなたは『森』と言いましたがどこの森ですか?」
「あっちの方の門を出て少し言ったところです」
「やはりそうですか。あそこの森はごくたまに上位種が出るんです」
上位種? またまた知らない単語だ。
「上位種ってなんですか?」
「上位種とはある魔獣のレベルが一定値に達した時に進化する特殊な魔獣です。デスリーバードはスキル[迷彩]を持っていて全く見ることができません。討伐依頼で言うと3級に相当します」
「3級?」
「先程冒険者のランクは1から9と言いましたが1、2級の冒険者なんてほぼいません。1級が必要な依頼討伐とは失敗すれば街が、下手すれば国が壊滅するレベルです。つまりその手前、小さな村が壊滅するレベルが2級や3級です。適当に打ったら倒せたのはおそらく格下だと油断していたからですね」
うっわ、本気でまずいやつだった。でもさすが[下級天使の祝福]。そんな相手もしっかり発見してくれた。
「あの、結局の買取はどうなんでしょう?」
「買取ですか。このデスリーバードはかなり大きく傷ついているので小銀貨2枚程度ですね」
確か大鉄貨一枚が通行量で、円にすると大体1万円だったはず。小銀貨はその10倍で100000円。それが2枚。
「高くないですか!?」
「それだけ危険ということです。どうしますか? 全て現金でお支払いするか、一部をギルドに預けるか選べますが」
「一部を預けるなんてできるんですか?」
「はい。ギルドの支部のどこでも手数料なしで引き出せます」
じゃあ一部は預けておこうか? いや[武器庫]に全部突っ込んじゃえばいいか。もはや武器庫ではない。しかし便利なものは使うべきだ。
「全て現金でお願いします」
「わかりました。しかし、ここでギルドカードを発行したということは通行税がかかりませんでしたか? まだ払ってないならギルドから街へ税を払っておけますが」
「じゃあお願いします」
「わかりました。差し引いて合計大鉄貨9枚と小銀貨1枚です。ご確認ください」
「1、2、.......9枚と小銀貨1枚確かに」
正直どの形の硬貨が小鉄貨でどれが小銀貨なのかわからないと思ったが硬貨にしっかりと書いてあった。服の内側にしまうふりをして[武器庫]へいれた。
これで無事登録と、不安だった税金支払いが終わった。
「ありがとうございました」
立ち去ろうとしたが、
「あ、ちょっと待ってください」
「ん? どうしました?」
なんだろう。
「丁度明日、新人講習がありますので、あさここにまた来てください」
「新人講習?」
「はい。登録したての新人に先輩冒険が基本を教える、と言ったものです」
確かにそういうバックアップがないとすぐ死ぬ人が出てきそうだな。
「わかりました。そうだ、この周辺に宿ってありますか?」
「宿でしたらここから出てしばらく右にまっすぐ進んだところに『草月の宿』というのがありますよ」
よかった、ここで宿がないとか言われたら野宿になるとこだった。まあ、冒険者というものがある世界で街に宿がないってことはなさそうだが。
「ここか」
外観はいかにもファンタジーものに出てくる宿って感じで看板には『草月の宿』と書いてある。
「すみませーん」
中に入ると受付カウンターがあったがあいにく人はいなかった。全体的に清潔感のある感じだった。
「はーい。ようこそいらっしゃいましたお客さま」
奥の方から人が出てきた。ここで何か特筆すべき人だったら物語っぽいのだがどこにでもいそうな女性だった。
「しばらくここに泊まりたいんですが部屋はありますか?」
「はい、ありますよ。素泊まりですと一泊小鉄貨2枚、朝食付きは小鉄貨3枚になります」
安い。非常に安い気がする。通行税が1万円なのにここは朝食付きで3000円か。
「そんなに安いですか?」
しまった、口から漏れてたみたいだ。
「この街にはきたばかりなんですが通行税に比べて安いなぁと思いまして」
「ここは主に新人冒険者向けの宿ですから」
「そうなんですか。とりあえず10泊朝食付きでお願いします」
「かしこまりました。大鉄貨3枚となります」
「はい、これです」
今回もまた服から取り出すふりをしておいた。これで今の所持金は大鉄貨6枚に小銀貨1枚。
「こちらが部屋の鍵です。何かありましたら気軽にお声かけください」
「あの、朝食はどこで食べるんですか?」
「右側の食堂で、先ほどの部屋の鍵を見せていただければ食べれます」
「わかりました」