11、新人講習
朝、とは言われたがどれくらいの時間なのかも不明なので朝ごはんを食べてギルドへ向かった。
「おはようございますリクさん」
「新人講習はどこでするんですか?」
「ここの裏手の訓練所です。あと1つパーティーが来たら始まります」
「わかりました」
訓練場には既に1人冒険者らしき男性がいた。あと、明らかに新人ではなさそうな人が1人。ものすごくごっつい。
「お前がリクか」
「はい」
「今回の新人講習の担当で3級冒険者のグラードだ」
3級! かなり高いな。確かあのデスリーバードが3級討伐対象だからアレを正攻法で倒せるのか。
「すみません。送れました!」
3人組の女性がやってくる。受付の人が言ってたもう一つのパーティーかな。
「よし、揃ったな。まずは自己紹介だ。俺は3級冒険者のグラードだ。獲物はこの剣だ」
「え! あの有名なグラードですか!」
「あの、がどのかは知らんが俺はグラードだ」
キャーとかいう声がさっきの3人組から上がってるから有名なのかな?
「早速新人講習を始めるぞ。まず初めに、冒険者が依頼を受けるときに一番気にしなければいけないことはなんだ」
「......報酬とか?」
「いや、以来の達成条件だろ」
「敵の数じゃない?」
「移動距離だ!」
皆口々に言っている。しかし、どれも重要そうに聞こえる。
「正解は、自分が生きて帰れる依頼、であることだ」
なるほど、たしかに今まで出た報酬も、冒険者のランクも命あっての物種だからな。
「そのためにも、自分の実力を正確に把握しろ。過大評価するな、そして過小評価するな。」
「過小評価ですか?」
「ああ、自分が倒せる魔獣も倒せないと思い込むとパーティーメンバーに負担がかかる。下手すりゃあ全員死ぬ、それが冒険だ」
..........そうだな。この言葉も実感してきた人の重みがある。ここは天使も言ってたようにゲームの世界じゃないんだ。
「お前ら、パーティーの一般的な編成は知っているか?」
「物理の近距離攻撃、物理の遠距離攻撃、魔法使い、索敵です」
「その通り。魔法は非常に強力で万能に思えるが『詠唱』に時間がかかる。そこをフォローするのが重要になる」
詠唱? そんなものしてないぞ。ただ魔術の名前を言うだけだ。いや、魔法は必要なのか?
「たとえば俺は炎の魔法を使えるが火球を使うとすると、『火よ、球となりて一つとし、眼前の敵を炭とせよ』という詠唱がいる」
マジで? それは戦闘で使おうと思ったら時間稼ぎ役が必要だ。
「ただし、魔法使いであっても最前線で戦うことはできる」
「でも、詠唱してる間にやられるんじゃ............」
「その詠唱が鍵だ。熟練の魔法使いの中には[詠唱破棄]や[無言ノ魔]と言ったスキルを持つものがいる」
詠唱破棄はなんとなくわかる。おそらく『火よ〜』の部分を言わないんだろう。
「[詠唱破棄]は詠唱部分、つまり『火よ、球となりて一つとし、眼前の敵を炭とせよ』の部分を言わず、〈火球〉の一言で発動させるスキルだ。[無言ノ魔]はその名の通り無言で魔法を行使できる。いわば[詠唱破棄]の上位互換だ」
「グラードさんは持っているんですか?」
「[詠唱破棄]ならば持っている。しかし[無言ノ魔]を持っているのは1級冒険者くらいだろう。難易度が恐ろしく高く、そんな能力を持っているやつがいたらまずそれは上位の冒険者と思え」
つまり俺は[詠唱破棄]を持っている魔法使いだというふうに偽ればいいのか。できれば今後[無言ノ魔]を手に入れたい。
「自分が生き残りたければ結局のところ相手の実力を把握する必要がある。魔獣と動物の違いがわかる奴はいるか?」
「動物より力が強いのが魔獣!」
魔術を使うかが区別するポイントって天使は言ってたけど?
「魔術を使うのが魔獣ですよね?」
「そうだ。よく知ってるな」
え? ものすごく明確な差な気がするんだが知られてないのか? 他の4人も初めて知ったという顔をしている。
「よく覚えておけ。多くの魔獣は身体強化の魔術を使う。だから動物よりも身体能力が高く脅威になるんだ」
「どれくらいの魔物が使ってるんですか?」
「9割9分は使っていると思え。そして多くの弱い魔物はそれしか魔術を使わない。逆にいうとお前らがそれ以外の魔術を使うような魔獣に出逢ったら、即撤退しろ。目に見えてわかる〈火球〉みたいなのを使ってたら9級冒険者の手に負えない」
身体強化をする魔術は〈火球〉とかと違って分かりにくそうだ。取り敢えず〈火球〉とかを使ってたら逃げ............ってことは、あのウサギやばい奴じゃないか。逃げてよかった。それ以外できないけど。
「ちなみに魔術を使う人間っていないんですか?」
是非とも俺のようなことができる人間がいるなら聞いてみたい。
「いるわけないだろ」
まずい、本当にやばいやつを見る目で見られてる気がする。これはなんとかしないと.......
「ただし、」
なんだ? 明らかにさっきと声が違う。何かこう真剣な........
「魔術を使っている人間がいるとすれば、それは人型になれる高位の魔獣だ。はるか昔、人型になった魔獣が街へ入り、街が滅んだことがある。絶対に近寄るな。即1級案件だ」
ゴクリ、と唾を飲む音が聞こえた気がする。
「人型になる魔獣はそれだけの武力に加えて長い年月を生きている。もう一度言うが、絶対に近寄るな。」
1級依頼。昨日聴いた通りならまさしく街が、国が滅びる最悪で最上級の依頼。それだけ脅威なのか。
「ほぼあり得ないが万が一出会ったとき、第一にするのは逃げること。ダメだったら話しかけて命乞いをしろ。人型になれるなら話も通じるはずだ。絶対に戦おうと思うな」
そうか、世間からは『魔術を使う人型の生物』はそう認識されてるのか。俺が魔術師だということを、魔術を使えることを明かしたらダメだ。バレたら魔獣だと思われて、世界中から追われてしまう。
「でも、どうやって魔術か魔法か区別するんですか?」
「鑑定の魔道具を使う。この国最高の鑑定の魔道具はレベル9のスキルと同じ働きをする」
そんなものがあるのか。レベル9のスキルと同等、これが最高なのか。俺の[儚幻]に隠蔽があったはずだ。しかしあのスキルはレベルがない。レベル9の鑑定を防げるのか?
いや、種族に人間って書いてあるから大丈夫か? しかし絶対に面倒なことになる。下手したら魔女狩りならぬ魔術師狩りに合う可能性がある。
「ちなみに冒険者ギルドからも鑑定の魔道具を貸し出している。どのレベルの鑑定かはものによるから、上位の魔獣には[隠蔽]で弾かれる」
鑑定の魔道具、そんなものもあるのか。ますます不安になってくる。
「いい機会だからステータスの見方を説明する。魔道具があっても読み取れなかったら無意味だからな。ステータスの項目は【魔法スキル】以外は皆同じだ。魔法の使えないやつに【魔法スキル】の欄はない。魔獣には必ず【魔術スキル】の項目がある」
俺の【魔術スキル】の項目は魔術を使える人にはあるんだろう。そして俺に魔法は使えないので【魔法スキル】の枠はない。【特殊スキル】もデフォルトではないだろう。
「ちなみにごく稀に【祝福】を持っている奴がいるがほぼいないし、普通はそんな項目はない」
つまり俺の持ってる祝福は特殊、と。
「鑑定の魔道具を貸し出されて勘違いしやすいが、レベルが上なら強い、というわけではないからな。種族の問題もあるし、レベルが同じでも人によって【生命力】も【魔力】も違う。当然だがレベル20のゴブリンよりレベル5のオークの方が強い」
当然と言われても知りません。ゴブリン<オークなのか?
「そしてレベルが同じでも【スキル】で大きく変わってくる。強力なスキルがあればかなりの格上も倒すことができる」
「どうやって強力なスキルを見分けるんですか?」
「一番単純なのはスキルレベルを見ることだ。普通の【スキル】のレベルは9までで、10になった瞬間新たなスキルへと進化する。つまり上位のスキルを持ってたら要注意だな。ただし【魔法スキル】はレベル10以上が存在する。どこが最高値なのかは分かっていない」
だから[情報整理]がレベル10っていうのが聞こえた後[遇ノ智庫]になったのか。それに【魔法スキル】はレベル10以上があるなら【魔術スキル】だってレベル10以上があるのかもしれない。
「上位のスキルって例えばなんですか?」
パーティーらしい3人組が質問している。
「わかりやすいので言うと[聖剣術]だな。[剣術]がレベル10に達すると[豪剣術]になり、それが[覇剣術]、さらに[聖剣術]に進化する。あとはレベルゼロ、と呼ばれるスキルだ」
「レベルゼロ、ですか?」
「レベルゼロは[ステータス閲覧]以外のレベルの存在しないスキルのことだ。レベルが1でも2でも10でもなく存在しない、そこからレベル0と呼ばれるようになった。これは複数のスキルをレベル9まで鍛えてそれを集め強化したものか、一つのスキルを極め抜いたもので、最上位のスキルだ」
ということは[遇ノ智庫]は[情報整理]を極めたものなのか。異世界にきて1日でレベルゼロのスキル。わー祝福(の負担)すごーい!
そして[儚幻]はいろんなスキルをまとめたもの。それもレベル9の。[隠蔽]の効果は『同等以下』の鑑定を弾くものだからこの国最高の魔道具を使われても大丈夫だ。本当によかった。自分が魔術師狩り(無いと信じる)の対象とか、異端者とかなったら笑えない。
「後は最も簡単な強さの判別方法として【称号】を見る、というのがある。まあ持ってるやつなんてお前ら新人にはまずいないだろうがな」
「いないんですか?」
俺は[異世界からの旅人]と[唯一の魔術師]二つの称号があるぞ?
「いないな。上位の冒険者はよく『二つ名』で呼ばれるがが、それは称号を持つ実力があるからだ」
「例えばグラードさんの『始まりの魔法剣』とかですよね!」
「そうだ。その称号は俺が『魔法剣』という剣術を確立した時につけられた」
一種の発明家みたいな感じかな? しかしようやく新人講習の始まりで騒がれてた理由がわかった。『魔法剣』というのはとても気になる。
「とにかく、称号ってのはよっぽどの特徴があるやつしかつかない。例えば『殺人鬼』っていう称号があるとすれば、それの持ち主は一人二人殺したとかではなく大量虐殺の犯人だろう」
なるほどな。確かに『異世界人』というのも『唯一の魔術師』というのも大きな特徴だ。[儚幻の大鎌]という称号もレベルゼロのスキルと大きな鉤爪という大きな特徴があったからだろう。
それに、だったら新人にはいないというのも頷ける。




