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Act.3 初めての友達



 ステラの腕に抱かれたまま別の部屋に連れて行かれた。

 部屋の中で黒いブチがたくさんある白い? 犬が床に伏せて泣いてる。

 バディを解くなら先に言ってくれればいいのにって、すごく嘆いてる。

 ステラは苦笑して言った。

「安心おし、リザ。この子とは仮契約、お前を捨てたりはしないさ」

 伝わったみたいだけど、気のせいか、向けられる視線が痛い。

「リザ、いいかい? この子にはへたに触っちゃダメだよ? 危ないから」

 はっきりと危険物扱いされた。

 僕は爆弾じゃないよ。

「もちろん信用してるさ。長年のバディだからね」

 ちょっと落ち着いたらしい。

『僕はルイ。これからよろしくね』

『リザよ。たぶんもうすぐ引退だから、そこでお別れだけど』

『引退すると家を出るの?』

『引退したバディを全部家に置いたら大変よ』

『増える?』

『寿命が長いバディだと2匹飼わなきゃならないでしょ』

『そうか、ふたり魔術師がいたら4匹になるよね』

『そう。引退した魔獣専用の施設があってね、そこで余生を過ごすわけ』

『いいところ?』

『金額によって待遇が違うけど、この家は魔獣に出し惜しみしないわ』

『みんな優しいもんね』

『そうよ。だから老後の憂いなし。あなたもね』

『僕は仮契約だよ、リザ』

『あたしが引た——ちょっと待ってよ、あなたコールサルトじゃないの?!』

『そう言われてる。でも自分じゃわからない。背中とか見えないもん』

『純黒なら伝説レベルのレアよ。どこから来たのよ』

『んっと……違う世界から。……信じてくれる?』

『その方がリアリティあるわ。同じ世界で生まれたら不平等だもの』

「おや、お前たちもう仲良くなったのかい?」

 そう言ってステラは僕を床に置いた。

 うわあ、並んでみると大きいな、リザ。

 踏まれたら僕なんて潰されそうだ。

『あなた目が青いのね。綺麗」

『リザはすごいね。大きくて強そう』

『あたしはダルメシアン、本来は戦闘系魔獣なの』

『戦うの?』

『ええ。でもケガで戦闘魔獣はできなくなった』

『でもステラは危ないことしないから大丈夫だね』

『それにあたしは嗅覚がずば抜けてるから、捜し物に向いてるのよ』

 魔獣にも得意分野があるんだ。

『薬草を採りに行ってステラがボアに襲われた時、久しぶりに戦ったわ』

『ボアって大きい?』

『あたしの倍くらい』

『そんなに大きな相手に勝っちゃうんだ。すごいねリザは』

『まあね』

 リザはちょっとすましてる。

 気持ちが落ち着いたみたいだ。

 ステラは小さな椅子に座って、僕たちを見守ってる。

『リザはどんな仕事をしているの?』

『ステラを守る、それが一番』

 即答。誇らしそう。これがバディなんだ。

『そして薬草を探す。珍しい薬草を見つけた時なんて最高よ』

『僕にもできるかな?』

『大丈夫よ、ステラがちゃんと導いてくれるから。彼女は素晴らしい魔術師よ』

『僕は何もわからないけど、頑張ってみる』

『あたしが引退したらステラをよろしくね』

『引退しちゃうの?』

 リザはちょっと遠くを見るような目をした。

『そうね……本当のこと言うとね、あたしもずいぶん衰えたわ』

 衰えたって、年を取ったっていうこと?

『もうステラを守れないかもしれない』

『そんな弱気なこと言わないでよリザ』

『あなたがちゃんと働けるようになったら、安心して引退できそう』

『僕はもっといろんなことをリザに教えてほしいよ』

『ステラが教えてくれるわ』

『僕がどんな仕事をすればいいのか、一番知ってるのはリザじゃないかな?』

 リザは少し驚いた顔をして僕を見て、それから前足で床をとらえて体を起こした。

『仕方ないわね、老体に鞭を打って教えてあげるわよ』

『ありがとう! 僕頑張るよ!』

『子猫だからって手加減しないから覚悟してね』

 この世界に来て初めてできた友達。

 師匠でもあるけど。

 ステラがゆっくり立ち上がった。

「さて、そろそろ行くよ、お前たち。ついておいで」

 リザはステラと話せないみたいだけど、言葉の意味はわかってる。

 僕はステラに抱きかかえられて、リザはステラの脚に寄り添って、部屋を出た。

 裏口から家を出ると森があった。

 小径を通って中に入ると拓けたところがあって、僕はそこで地面に下ろされた。

 横にした丸太を積んで大きな坂があったり。

 杭がまっすぐにたくさん建ててあったり。

 大きな木から何かぶら下がっていたり。

 そして何か大きな建物。平屋の。でも高さはある。

 1階しかない広い建物なんて初めて見たよ。

 僕が住んでた町はもっと高い建物でゴチャゴチャに混んでたもん。

「木登りやってみたい」

「猫は降りるのが苦手じゃないか」

「やったことがないから、わからないもん」

「登ってもいいけど、ちゃあんと自分で降りておいで」

「登ってみるよ」

「落っこちても、あたしは手を出さないよ」

 大きな木に飛びついた。

 頑張って登って下を見たら、思ったより高かった。

 降りられるかな……落ちたらどうしよう、ちゃんと着地できるかな?

 そのまま降りられるか試してみたけど無理。

 爪が木の皮に引っかかって、うまく降りられない。

 体勢を変えて下に向いてみたけど、さっきより怖い。

 今度は爪がちゃんと引っかからない。

 どうしよう、後のことを考えずに登ってしまった。

 少しずつ、少しずつ、ゆっくり降りるしかない。

 半歩前足をずらすだけでも、肉球に汗をかいてしまう。

 まずい、滑る。滑ったら落ちてしまう。

 怖くなって止まってしまった。

 そうしたらもう動けなくなって、足も疲れてきて——やっぱり落ちた。

 ちゃんと立ちきれなくて横向きに落ちてしまったけど、痛くはなかった。

「言わんこっちゃない、意外とやんちゃだね、お前は」

 反省する……。

「結界がなかったらケガをするところだよ」

『驚いたわルイ、あなた結界があるのね!』

『すごいこと?』

『人間だって結界術士はとても少ないのよ』

『そうなんだ……僕は女神様からいただいたから、わからないんだけど』

『ご加護があるの!?』

『うん、フレイヤ様。すごく優しくて綺麗な女神様なんだ』

『やっぱりすごいわ。この目で見ても信じられないわよ』

「さてと、リザ、今日は宝探しだよ」

 ってステラが言ったら、リザの耳が動いた。

「あたしが森に隠したピリカ草の種を探しておくれ」

『ピリカ草? 大好き! ありがとうステラ!』

 リザはしっぽをブンブン振って喜んでる。

「さて、夕方までに見つかるかねえ」

『ピリカ草って何?』

『薬草よ。煎じて飲むと咳止めになるけど、そう簡単にはいかないのよ』

『難しい?』

『優れた犬がいなければ見つからないし、優れた回復術士でないと薬にできないの』

『そんなのを見つけるんだ。やっぱりリザはすごいね』

 歩き出したリザを追いかけたけど無理。

 そしたらステラが僕を両手で持ってリザの背中に乗せた。

「いいねえ、似合うよお前たち」

『やだ、爪を立てないでね、ルイ』

『リザも僕を落とさないでね』

 ひとりと1匹のバディと、仮契約の僕。

 僕はこの世界で幸せになれるのかなあ。


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