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Act.11 魔獣に関する決まり事


 ファイアーブレスがかなり上がってきた。

「乾燥したものや毛につけないように注意おし」

「キースとか要注意だね」

「フクロウは食べるところがあまりないだろうね」

「ひどいよ、マリスが泣くよ」

「食べるどころか消し炭だね」

 って、ステラは人の悪い笑い声。

「ね、キースはどんな仕事をしてるの?」

「バディの仕事の基本は契約者と自分を守ること」

「自分も?」

「当たり前じゃないか。自分が潰れたらバディを守れないだろ」

 確かにそうだ。足手まといになったら大変。

「そして手伝いだ。あの子はいろいろな魔法が使える」

「どんな魔法を使うの?」

「物理攻撃に特化した補助魔法が特に強い」

「戦いやすくなるんだね」

「そうさ。小さな相手なら両足の爪で仕留められる。とても役に立つ子だ」

「ずっと一緒にいるの?」

「マリスは18才で魔術師になった。それからずっとさ」

「ずっとってどれくらい?」

「そうだね、もう15年以上だ。あの種のフクロウは長生きなんだ」

 15年ってすごい!

「でも、戦闘魔獣の引退は他の子たちより早いんだよ」

「どうして?」

「老いた子を連れて出ると危ない、死んでしまうかもしれないからね」

「そうだね……弱くなるかもしれないよね……」

「だからほどよいところで引退させて、あとはゆっくり過ごさせるんだ」

「リザはまだ大丈夫なんでしょ、ステラ?」

「薬草採るだけだから、あの子が続けたければまだまだやれるよ」

 よかった。まだリザと過ごせる。

「ねえステラ」

「なんだい?」

「もしキースが引退してしまったら、僕がマリスのバディになるの?」

 ステラは僕の頭をなでて優しく言った。

「お前はフレイヤ様から自由を約束された子だよ」

「うん」

「一番やりたいことをやるんだ。遠慮も気遣いもいらない」

「でもステラ、僕、自由ってちょっとよくわからない」

「もう少し大人になったらわかるよ」

 リザにも訊いたけど「大人になったらわかるわよ」って言われてしまった。

 薬草採りに行かない日は治療、それ以外はほとんど訓練をして過ごしてる。

 久しぶりに市場に来て、ステラは買い物やおしゃべりをしてて、僕はステラの足下にいて、リザは果物を食べてた。

 誰かが僕の横にかがんで、体にすぅっと手のひらを向けた。

 瞬間、ビシって衝撃があって、僕は大丈夫だったけど、手のひらを向けた人が後ろに倒れ込んだ。

 ステラはおしゃべりをやめて、転んだ人を見た。

「誰かと思えばトムじゃないか。嫌だねえ、強制契約する気だったかい?」

 きょうせいけいやく?

「よその子を盗ろうなんてバカなこと考えるもんじゃないよ」

 起き上がったのは頭が白髪交じりでボサボサのおじさんだった。

 ああ、勝手に契約することもできるんだ。

 僕は小さいから大丈夫だって思ったのかも。

 露店の番をしてたお店の人たちやお客さんが集まってきて、おじさんを捕まえた。

「強制契約は魔獣保護法違反だってわかってるよな?」

「いや、あの、で、出来心なんだ、悪気はないんだ、黒猫が可愛かったから」

「黒猫の子猫を盗ろうなんて、とんでもない重罪だぞ」

「その子が欲しい、鍛えて強くすれば、私はこれ以上ランクを下がらずにすむ」

「今警官呼びに行ったから、みんなそのまま押さえといてくれ」

 ステラの話だと、ランクって魔術師や冒険者の階級なんだって。

 階級によって選べる仕事や依頼の内容が違うみたい。

 もちろん収入も。

 ちゃんと仕事してないと下がっちゃうって。

 ステラは1番上でマリスは2番目のランク。ものすごく強いみたいだ。

 騒ぎが落ち着いて、チーズ屋のおじさんが体を小さくして僕をのぞき込んだ。

「いや、しかし、とんでもないなルイ」

 なあに?

「いくら黒猫だって魔法反射なんか持たないぞ」

 あ、そうなんだ。僕、無意識に弾いちゃった。

 結界があると本当に助かる。

「目が青いし……まさかコールサルトとか?」

「実はそうなのさ」

「マジか!!」

「んなわけないだろう、ありゃ幻獣みたいなもんだよ、こんなところにいるもんか」

「人が悪いなあ、相変わらず」

「これが長生きの秘訣なんだよ」

 ステラ嘘ついた。

 僕が純黒なのは誰にも知られてない。

 知ってるのはヴァルターシュタイン家の人たちだけ。

 他の人から見れば、変わった目をした黒い子猫。

 黒猫は魔力が強いからって羨まれるくらい。

 魔法8つ持ってるなんて思いもしない。

 しっかり使いこなせるようになりたいな。

 せっかくフレイヤ様がくださった力なんだから。

 帰り道、僕はリザの背中に乗って馬車に向かう。

「ねえ、強制契約ってどうなるの?」

「指示に従わないと体が痛くなるって聞いてる。魔獣虐待だよ」

 そんなことして何とも思わないなんて頭がおかしい、あの人。

「トムはね、仕事でバディに無茶をさせて死なせちまったのさ」

「それって悪いことなの?」

「そりゃ、討伐中に死ぬ魔獣は少なくない」

「魔物と戦うんだもんね」

「でもね、この国には魔獣を守る決まりがある。無茶をさせちゃダメなんだ」

「大事にしなきゃダメってこと?」

「そうだよ。牢屋に繋がれることもあるんだ」

「重い罪なんだね、隠しても訴えられる?」

「もちろんだ。もし知らんぷりがバレたら大変だよ」

「どうなるの?

「ブリーダーもショップも取り引きしない。魔獣を買えなくなって商売あがったりさ」

「ブリーダー? ショップ?」

「魔獣を産ませて増やすところと、売ってるところ」

 ああ、魔獣って売ってるんだ。

 自分が野良猫だったから考えたことがなかった。

「法律で決まっててね、ブリーダーもショップも国の許可がいるんだよ」

 何だかよくわからないけど、すごいみたい。

「あたしら魔術師や冒険者は足を向けて寝られないところさ」

 冒険者は知ってるよ。マリスの友達におおぜいいるもん。

「だからお前が欲しかったんだよ。子猫なら盗れると思ったんだろう」

「じゃああのおじさんは仕事ができないの?」

「バディなしの仕事ならできるよ」

「じゃあどうしておじさんは僕を捕まえようとしたの?」

「バディなしでなんて食っていけないよ。あたしらは魔獣に養われてるんだ」

 僕は仕事してないからわからなかった。

 みんな魔獣がいないと大変なんだ。

「あの年で廃業は大変だろうが、その方が食えるよ」

「魔術師を辞めるとどうなるの?」

「普通に働くよ。畑を耕したり、商売をしたり、荷物を運んだりね」

「でも魔法は使えるよ?」

「廃業すると司祭様が魔力を封じる。悪事を働かないようにね。だから地道に働く」

「封じられたくなくて隠す人はいないの?」

「まあ、牢獄なら雨露しのげて飯も出るけど、強制労働は辛いよ」

 魔獣を使う人って、実はものすごく大変なんだな。

 決まり事がいっぱい。

「魔術師は専門の学校を出た国家資格なんだ」

「こっかしかく?」

「この仕事をしてもいいって国が認めたってことだ」

「冒険者は自由になれるけど、魔術師は違うんだね」

「資格を認められるためには聖堂に行って、司祭様の前で天主様にお誓いしなくちゃいけない。神様の御名を辱めるような魔術の使い方はいたしません、とね」

「だから罪も重いんだね。大変なんだね魔術師は」

「好きでやってるんだから文句は言えないね。誰でもなれるもんでもないし」

「決まり?」

「魔力自体はだいたいみんな持ってるけど、一定の強さを備えてる者だけが魔術学校に入れるんだ。生まれついての才能だよ」

「ロランも魔術師になれるんだよね?」

「八百屋を継ぎたいって言うかもよ?」

「果物を売るの?」

 思わず笑っちゃった。

「そういやお前、例のあれはどうなったんだい」

 家に帰ったらマリスがいて、ステラが訊いた。

「ああ……パーティが集まらないらしい」

 って、マリスは右手で頭を押さえた。

 パーティっていうのは、戦う人や魔術師が何人も集まったグループ。

 レイドっていうのはパーティがいくつも集まって協力する仕事。

 リザに教わった。

「参加表明してるパーティと、私を合わせて45人、魔術師は15人」

「魔術師多いねえ」

「ランクが上がって間もなくて、不安要素があるから。あとひとつパーティが欲しい」

「Aランクのお前が失敗する相手だからね……情報のミスはあったにせよ」

「ほんとにやめてほしいよ、今まで見てきた中で、突出した大惨事だった」

「気の弱いこと言うんじゃないよ、次はもっと死ぬよ、レイドだ」

「早い話が寄せ集め……連携が鍵だ」

 僕は見てるしかないや。

 契約者は回復術士のステラだからね。


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