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なかよしワンダーグラウンド  作者: 森 go太
第一部『邂・逅』
9/25

9話 タコに願いを

 楽しく幸せな時間に限って、どうしてこんなにも儚く過ぎ去ってしまうのだろうーー。


 小雪ちゃんは祭り会場から少し離れた公園できこきことブランコを揺らしながら、そんな事を考えていた。


 パフォーマンス大会の後、梨乃・玲ペアと別れーーその後は耕助が副賞で獲得した無料券を使い切って、思う存分祭りを楽しみ尽くしーー


 そして辺りも少し薄暗くなってきたタイミングで、こうしてしばし休憩をとっていた所であった。


 祭りが終わりに向かっていくにつれ、小雪ちゃんは耕助との別れを意識し始めーー最後の花火を見るのが、憂鬱に感じるようになっていた。


 「コーちゃん」

 「ん?」

 小雪ちゃんは横で立ち漕ぎをする耕助の日に焼けた顔を、おもむろに見上げる。耕助は相変わらず平然とした様子で、小雪ちゃんを見下ろしていたがーー


 そんな耕助の姿を見るのもこれが最後だと思うと、小雪ちゃんの目からは大粒の涙が溢れそうになる。


 「東京帰ったら、お手紙かくね」

 小雪ちゃんはその涙を隠すように言って、にこりと笑った。


 最初は正直億劫だった、この田舎町での3日間の小旅行。


 しかしそれは耕助がいてくれたおかげで、とてもかけがえのない思い出となった。


 宿題の絵日記も、この3日間だけは枠からはみ出るくらいに描いた。


 「うん」

 耕助も小雪ちゃんにそう言って、にこりと笑い返す。

 すると次の瞬間ーー


 どーーん。

 夜空に満開の花火が美麗に咲き誇る。


 いつの間にか辺りはすっかり暗くなり、既に花火大会が始まる時間となっていた。


 「やば、花火始まった」

 耕助は慌ててブランコから降りて走り出そうとするがーー小雪ちゃんはスーツの裾をぎゅっと掴み、耕助を引き止める。


 「ここで見よ」

 それは走るのが面倒だという事ではなくーー最後くらいはこの静かな公園で、耕助と2人きりで花火を見たかったのだ。


 「そだね」

 耕助は小雪ちゃんのその落ち着いた表情を見てーー特に反論する事もなく同調し、ブランコに座った。


 どーん。ぱらぱらぱら。

 ぽん。

 ぽんぽんぽん。


 雲一つない夜空に、色とりどりの花火が乱れ咲く。


 会場から少し離れたこの公園からでも充分すぎる程の大絶景に、2人は恍惚としながら酔いしれていた。


 嗚呼。

 こんな時間がずっと続けばいいのにーー


 小雪ちゃんがふとそう思った瞬間。


 「綺麗だな」

 頭上から声が聞こえ、2人は顔を見上げる。


 「やはり地球の文化は、美しい」

 そのブランコの上では、紅蓮の長髪を真夏の夜風に靡かせながら、1人の女性が座っていた。そしてその姿を認識するとーー耕助と小雪ちゃんはその女性の名前を呼ぶ。


 「1号」

 それは紛れもなく1号の人間の姿ーーしかしこうして喋る姿を見るのは2人とも初めてであった。1号は「よっ」と声をあげながら、べちゃりと音を立てて2人の目の前に降り立つ。


 「花火に見惚れていた所、邪魔をしてすまないな」

 今日は口も尖らせず、ただ凛々しい女性の姿で、ハスキーな声で堂々と喋る1号はーーさながら宝塚女優のようであった。


 「今日はお前達に別れの言葉を伝えにきたのだ」

 1号の突然の言葉に、2人は目を丸くする。そして「帰っちゃうの」と耕助が寂しそうに言うとーー1号は頷いて続けた。


 「私は火星の王ーーマーズ。元々この地球を支配するつもりでやって来たのだが…お前達と出会い考えが変わった。私は何もする事なく火星に帰る事にした」

 「マーズ…支配…」

 耕助と小雪ちゃんは訳が分からず、顔を見合わせる。


 「しかしその前に…実は私には『誰かの願いを叶える力』があるのだ。使える回数は2回…それを使わずに帰るのは勿体ないーー」

 1号ーー改めマーズはそう言った後、にやりと笑った。


 「なのでそれを今から、お前達に使ってもらおうと思う」

 「えぇ」


 どーん。

 花火は未だに夜空を轟音と共に彩り続けていた。


 しかし花火など今は見る余裕もなく、耕助と小雪ちゃんはマーズの、眉目秀麗な顔を見上げる。


 「元々この力は、世界征服を企む誰かに使う予定だったがーーお前達に使わせて欲しい。特に耕助。お前の毎日のマッサージには感謝してもしきれないからな。あれほど幸せな日々は、生まれて始めてだった」


 毎日のマッサージーーそれがマーズをつつく日課の事だと気付き、耕助は思わず少し吹き出す。そして正直に、遊びでやっていただけだと伝えたのだがーーそれでもマーズの耕助に対する恩義は変わらぬようだった。


 「そして小雪ーーお前にも昨日、良いものを見せてもらった。是非使ってくれ」

 マーズはそう言うとーー昨日と同じ、ドラ◯もんの「温かい目」のような笑顔をした。そこで小雪ちゃんはふと思い出す。そう言えばドラ◯もんのひみつ道具には、タコのような姿をした「ラジコン火星人」という道具があったと。


 「さぁ、何でも良い。好きな願いを言ってくれ」

 「うーん…じゃあ…」

 耕助は少し迷った後ーー願いをマーズに述べた。


 「SAS◯KE完全制覇かな」

 「なるほど、分かった」

 マーズは耕助のその願いを二つ返事で了承し、小雪ちゃんの方へ身体を向ける。


 「小雪、お前はもう決まっているか」

 「うん」

 小雪ちゃんは耕助と違って悩む様子もなく、願いをマーズに述べた。


 「ボクの願いはーー」



 「お前達の願い、改めて承った。しかし最後に言っておくが、願いを叶えた後の事までは私は保証できない。それでも良いか?」

 「うん」

 「わかった」

 2人が頷くのを確認すると、マーズも頷きーーそして人間の姿から、いつものタコのような姿に変身する。


 「では私は火星に帰るとする。願いはその後すぐに叶うだろうーー」

 「待って、1号」

 別れの瞬間、耕助と小雪ちゃんはマーズーーもとい1号を呼び止め、思い切りその柔軟な身体に抱きつく。


 どーーーーーーん。

 夜空には花火大会のトリを飾る大花火が、晴れ晴れと咲き誇っていた。


 「また地球に帰ってきてね」

 轟音の中、2人が弾ける笑顔でそう言うとーー1号は少し寂しそうに「ああ」と笑った。


 「ではお前達ーー」

 1号は2人を自分の身体から離すと、次の瞬間、勢いよく天に向かって飛び立つ。そしてーー


 ひゅるるるるるるる。

 「何だあれ!」

 「おい、花火はさっきので終わりじゃないのか!?」


 花火師達の困惑の声と、観客達の興奮の声を切り裂くようにーー


 ーー達者でな。


 ぽぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんん。


 夜空を覆い尽くす程に巨大な、タコ型の花火を打ち上げた。


 耕助と小雪ちゃんはその花火に思わず歓声をあげ、心から感動しながら、しばしその余韻に浸りーー


 そして意識を失った。



〜〜〜〜〜〜



 「ゼッケンナンバー21番、小学6年生、犬飼(いぬき)耕助11才!!」

 「なんと史上最年少の、1stステージクリアぁぁぁぁ!!」

 「歴史の申し子となるかぁぁ!!行ったぁぁーーーー」

 「登れ!犬飼耕助、登れぇぇーーーー」


 ーー登り切ったぁぁぁぁぁ…



〜〜〜〜〜〜



 「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ…」

 「良かった…涼子…よく頑張ったね…」

 「うん…ちょっとあなた、泣きすぎぃ…ぐす」

 「おめでとうございます!奥様、旦那様ーー」


 ーー元気な、女の子ですよ。




 《第一部 『邂・逅』 終》

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