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なかよしワンダーグラウンド  作者: 森 go太
第一部『邂・逅』
8/25

8話 獣ゆく

 「わたがし美味しー」

 「これも美味しいよ、玲ちゃん一個食べる?」


 千合祭。毎年夏にこの地域で行われる、全国でも有数の規模を誇る花火大会である。

 会場となる広場には多種多様な屋台が立ち並び、中央に設置されたステージでは有名アーティストのライブなども行われるため、例年地域内外問わず多くの見物客で賑わう、この地域の目玉イベントとなっていた。


 勿論、梨乃にとっても毎年楽しみなイベントで、今年も親友の神宮寺玲と、浴衣姿で一緒に回っていたのだがーー


 「何あの子たち、可愛い!」

 「子どもハンター?」

 怪しげな人混みを見つけ、梨乃は立ち止まる。

 玲も気になっている様子なので、人混みをちらりと覗きにいくとーー


 「げ」

 その人混みの中心にいる姿を見て、梨乃は眉を顰める。


 そこにはスーツにサングラスーー何故か「逃◯中」のハンターのような格好をした耕助と小雪ちゃんが、大人達に囲まれて写真を撮られていた。


 小雪ちゃんの方は人混みを怖がっているのか、耕助にぴったりと引っ付いておどおどしており、そしてその耕助は何故かつるっ禿げになっていて…と、とにかくカオスであった。


 「何してんの、耕ちゃん…」

 仕方なく梨乃達は耕助に声をかける。梨乃達は普通に顔を出しているため、同じ画角に入ると流石に撮るのを忍ばれたのか、大人達はぞろぞろと解散していく。


 「あ、梨乃ちゃん。いや、祭りならスーツかと」

 「いや、普通は浴衣なんだけどね。あとサングラスは問答無用でいらないよね」

 「小雪ちゃんが大人の人苦手って言うから、サングラスで見辛くしてみた」

 「対処法なんなの。全然役立ってないじゃん。むしろ逆効果だし」

 耕助の奇言を相変わらず冷静に処理していく梨乃。その手腕にはさながらベテラン漫才師のような風格すら感じられ、玲は少しツボる。


 「ねぇコーちゃん、あれやりたい」

 小雪ちゃんが耕助の裾を引っ張って、とある屋台に指を差した。


 それは所謂くじ引き屋ーー当たりの紐を引くと連動する商品が引っ張られて獲得できるという、祭りにありがちな店だった。


 「うん、やろう」

 そう言うと耕助と小雪ちゃんはすぐさま、その屋台へと一目散に駆け出した。


 「ちょっと、その格好で走ると本当にハンターだから!著作権!」

 梨乃がまたツッコミながら2人を追っていくので、玲も面白がりながら小走りでついていった。




〜〜〜〜〜〜




 「結局、ロン毛カツラだけか…」

 耕助はそう残念そうに呟き、肩を落とす。両親からもらったお小遣いは2人で3000円。その全てを費やし、一等の金インゴットを狙ったのだが…


 結局戦利品は百均の安っぽいカツラのみだった。


 「仕方ないよ。くじなんて全部ぼったくりだから」

 「そうそう。ヒ◯ルも言ってたよ」

 梨乃と玲が耕助を必死に慰めるも、耕助の壊れた心が修復する事は無かった。


 しかし次の小雪ちゃんの一言で、耕助はすぐに活気を取り戻す事となる。


 「コーちゃん、あれ出よう」

 小雪ちゃんが指差すのは中央のステージーーそこには横断幕が掲げられ、現在のイベント名が表示されていた。


 ちびっ子パフォーマンス大会ーー


 耕助はパンフレットを確認する。小6までの子ども達がジャンル問わずパフォーマンスを競うイベント、飛び入り参加OK、優勝商品は金メダルと、副賞ーー


 どの屋台でも使える、無料券30枚。


 「…あれ優勝したら一獲千金か」

 耕助は手に持つ、ロン毛カツラを見やる。


 「よし出よう、梨乃ちゃん」

 「え、出るの…って私!?」

 「うん、無料券ちょっとあげるから」

 「絶対無理!てか小雪ちゃんと出なよ!」

 「小雪ちゃんはスーツだからダメ、浴衣じゃないと」

 「何それ、ちょ、玲ちゃん助けてぇぇぇぇぇ」

 梨乃はその叫び声も虚しく、耕助に引っ張られステージへと消えていった。


 「がんばってー、小雪ちゃんは私が見てるからねー」

 玲は梨乃を気の毒に思いながらも、自分でなくて良かったと心底安心したように、笑顔で2人を見送った。


 「では、ちびっ子パフォーマンス大会も、いよいよ最後のグループになりました!何と先程飛び入り参加してくれた、幼馴染ズのおふたりです!さぁお二人さんステージにどうぞー!」


 南海キャ◯ディーズの山ちゃんに似た司会の男性が、声高にそう呼び込みをかける。


 するとステージ裏から、どういう訳かロン毛カツラを被り、サングラスを外した耕助が全く緊張する様子も無く堂々と、一方の梨乃はまだ状況を飲み込めずに顔を引き攣らせながら出てきて、ステージの中央に立った。


 「さぁ、まずはお名前と学年を教えてくれるかなー?」

 「宮◯浩次、小学6年生です!」

 「し、椎◯林檎…小6です…」

 堂々と嘘をつく2人に司会は少し困惑しながらも、無難に進行を進める。


 「お、おぉ、大分キャラに入り込んでるねぇ、良いねぇ!それじゃあスタンバイお願いしまーす!」

 その司会の声と同時に、2人は背中を合わせて立つ。


 「それではよーい、スタート!」

 そして司会が合図をした瞬間ーー。


 でれれれれれーん。

 「このよはむーじょぉー、みんな分かってるのさぁぁ」

 「だ、誰もが移ろふ….」

 イントロが流れた瞬間、会場がざわつく。


 なんと2人は宮◯浩次と椎◯林檎のデュエット曲「獣◯く細道」のLIVEバージョンを完コピで歌い始めたのだ。


 梨乃が昔から椎◯林檎を好きで、会うたびにLIVE映像を2人で鑑賞していた時期があったのだが… 人前でこういったパフォーマンスをするのはこれが初めてだった。


 「いーつもーどおり、おきまりーのー」

 しかし曲が進むにつれ、観客は徐々に不思議な魅力に引き込まれていき、会場は熱気を増していく。そしてサビに差し掛かるとーー


 「かりもののぉおー」

 耕助は歌いながら、さながら本家宮◯浩次のごとく、ステージ上でロン毛カツラを振り乱し、縦横無尽に暴れ回る。

 梨乃もこの終盤になると何やかんやでノッてきて、椎◯林檎のように澄ました表情を作りながら気持ちよく熱唱し始めた。


 「さぁ貪れー、笑ひ飛ばすのさー」

 小学生にしてはあまりにも渋すぎる選曲とパフォーマンスーーそのギャップに会場は爆笑の渦に包まれ、大盛況を見せる。


 「だれもとおれぬほーどー」

 そしてラストで客の盛り上がりは最高潮となり、2人はそれに呼応するようにーー


 「せまきみちをーゆけー(狭き道を行ーけー)

 てれれーん。てれれーん。


 ラストフレーズのハモりをしっかりと決め、最後の演奏パートで耕助は猛獣のごとく全身全霊を込めて暴れ回る。するとそのあまりの勢いにロン毛カツラが吹き飛んで耕助の禿げ頭が顕になり、会場は更に爆笑の渦を大きくする。


 飛び入り参加の少年少女が見せる熱狂的かつユーモア溢れるパフォーマンスに、観客はすっかり虜になっていた。



 てれれれー、てれれれれれれ、てーれーれー、


 てーーーーん……


 曲が終わると同時に、2人が背中を合わせてキメ顔をするとーー観客から「うぉー!ヒュー!ブラボー!」という賛辞の声と、惜しみない万雷の拍手が注がれた。


 そしてノータイムで山ちゃん似の司会からその言葉が告げられた。 


 「優勝、幼馴染ズ!!」

 耕助はピースサインを、天に掲げた。

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