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なかよしワンダーグラウンド  作者: 森 go太
第三部 『構・文』
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8話 ゲスト

 Boule-D(ブール・ディー)。学校までの道から少し外れた所にある、小さなケーキ屋である。ショーケースにはショートケーキ、チーズケーキ、フルーツタルトなど色とりどりのケーキが並んでいるが…この店で特に人気を博しているのが、この掌サイズのシュークリームであった。芳醇な小麦とカラメルの香りに鼻腔をくすぐられながら、サクサクとした軽い生地に歯を入れると…中から濃厚なクリームが一瞬にして口内へと流れ込み、全身を甘々とした至福が包み込む。訪れた地元客を虜にする、最上級のスイーツーー無論のこと耕助も、このシュークリームは大好物で…たまにこうしてデザート、若しくはおやつの時間に食べるのが人生における楽しみの一つだった。


 「そういえば5号はなんで、あんな所で倒れてたの?」

 耕助、小雪ちゃん、5号の3人はboule-Dの喫茶スペースに座ってゆったりと会話を交わしながら、シュークリームとミルクティーに舌鼓を打つ。先程オムライスと白ご飯をたらふく食べた後ではあるが、このシュークリームは別腹ーー耕助と比べて少食の小雪ちゃんでも、既に12個目を平らげていた。


 「地元でちょいとやらかしてもうてな、禊の断食中やったんや。けどあまりに辛くて逃げ出してもうてなぁ。ほんで宇宙を彷徨っとる内にこの地球(ほし)に不時着してもうたねんけど、その頃には腹減りすぎて動けんくなっててのぉ。このまま死ぬんか思うてた時に、ししょーがあのオレンジの果実をくれて生き延びる事ができて…そのお礼にワシは、命の恩人であるししょーに弟子入りを決めたっちゅうわけよ。きぃ」

 5号は何故かシュークリームには一切手をつけず、ミルクティーだけをぺろぺろと舐めながらそう説明する。そしてその残っているシュークリームを、小雪ちゃんは獲物を狙う狼の如くギラついた瞳で狙っていた。


 「それにしてもここには変な食い物ばかりあるのぉ。しゅーくりーむ、言うたか?こればっかりはいくら美味でも、同族の脳みそのようでよう食えんわい。きぃ」

 「じゃあもらうね」

 5号のその言葉を聞くやいなや、小雪ちゃんはすぐに手を伸ばし、5号のシュークリームを口に運ぶ。これで述べ13個目ーーただでさえ高カロリーのシュークリームを大量に摂取したせいで、今ではTシャツから腹が飛び出そうな程に太ってしまっており…そんな小雪ちゃんのぼてっとした頬をぷにぷにしながら耕助が言う。


 「この短時間で大分太ったねぇ、小雪ちゃん」

 「だいじょーぶ。比喩表現だから」

 そう言って小雪ちゃんが「ふんっ」と小さな鼻息を上げると、一瞬にして体型が元の痩せ型に戻る。その超人的な特技に、5号は思わず苦笑しながらツッコむ。


 「小説やからって何でもアリやな、自分ら。きぃ」

 「あら、耕ちゃん、小雪ちゃん」

 5号の声に被せるように、聞き馴染みのある声がした。見るとそこには梨乃がケーキの箱を抱えながら立っていて、3人に好奇の視線を向けていた。


 「もしかしてその子、新しいツッコミ担当?」

 梨乃が5号に手を差して言う。


 「うん、そう」

 「ちゃうわ。いつからワシがツッコミ専門になってん」

 そう言いつつ、それがツッコミになっている5号。そしてそのツッコミを聞いた瞬間…梨乃はほっとしたように表情を綻ばせながら、5号に近づいていく。


 「良かったぁ。やっと私のツッコミ無限地獄が終わるんだ…ね、きみ、これから2人をよろしくねぇ」

 「無限地獄て…姉ちゃん、そんな苦労しとったんかいな」

 「それはもう。なんせこの悪童が…」

 「悪童って、失礼だなぁ」

 耕助は梨乃にそう軽くツッコむ。しかしそれがまた、梨乃には感無量だったようで…梨乃は感極まり涙ぐみ始める。


 「耕ちゃんまで、私の発言にツッコミを…!あぁ、ほんとに終わったんだ…これで…うぅ…」

 「そんな追い込まれてたんだ。なんかごめんね、梨乃ちゃん」

 そんなやり取りを交わす梨乃、耕助、5号。しかしその3人を他所に、小雪ちゃんは20個目のシュークリームに手を伸ばし、黙々と包み紙を積み上げていく。


 「小雪ちゃん、何個シュークリーム食べてんの。お腹壊すよ」

 その小雪ちゃんの様子に気付いた瞬間…梨乃はつい普段の癖で反射的にツッコんでしまう。そしてツッコんだ直後、梨乃ははっとしながら両手で口をつぐむ。


 「違う違う、私もうツッコミ担当じゃないんだった。危ない危ない」

 「大変やな、姉ちゃん。もう病気やでそれ」

 しかし5号のツッコミを聞くと、梨乃はまた安心したように胸を撫で下ろす。そうだ。もうツッコまなくて良いんだ。こんなにも良いツッコミ担当がいるんだから…大丈夫。私は自由。


 自由なんだーー


 「ところで、姉ちゃん」

 梨乃が自分に言い聞かせるようにそう心の中で呟いているとーーおもむろに5号が口を開いた。


 「あの、喜んでるとこ悪いんやけど…」

 そう言って5号は、申し訳なさそうに太い眉毛を顰めながら…

 梨乃に衝撃の一言を放った。


 「ワシ、ゲストキャラやから」

 ゲストキャラやから。

 ゲストキャラやから…

 げすときゃらやから…


 「…え」

 ゲストキャラやから。その言葉がゲシュタルト崩壊を起こすくらいに何度も響き、梨乃はその場に立ち尽くす。そしてまだその意味を飲み込めない梨乃を尻目に、耕助、小雪ちゃん、5号は立ち上がりBoule-Dを後にした。


 「じゃね、梨乃ちゃん。また通常回ではツッコミよろしくねぇ」

 「じゃーねー」

 そう梨乃の背中に言葉をかけて立ち去る耕助達を、梨乃は振り返る事もできず…シュークリームの包み紙が山積みにされた机をただしばらく1人で眺めていた。

 すると梨乃の背後から、誰かの声。


 「あの…」

 梨乃が空っぽの頭で振り返ると、そこにはBoule-Dのバイトのお姉さんが不安げな顔をしながら立っていて…その手に握る一枚の紙切れを梨乃に見せて言った。


 「大丈夫?これ…さっきの子達が君にって…」

 その紙切れの正体。それはレシートーーそしてそこには小雪ちゃんが食べた20個のシュークリーム代含む金額ーー

 述べ9320円。


 「…………。」

 梨乃はその金額を見た瞬間ーー我に返り、腹から叫び声を上げる。


 ーーーオイぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…

 梨乃のシンプルなツッコミが、Boule-Dの店内を盛大に揺らした。

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