7話 セッション
小雪ちゃんが東京に帰ってから、2週間が経とうとしていた。
耕助は人生初の号泣をした後、石焼きジャガイモをたらふく食べて少し元気が戻り、またいつも通りの日常を送り始めたのだがーー
何をしていても、胸に蔓延り続ける喪失感と、そこから来る痛みは消える事はなかった。
「君のいない、世界など、夏休みのない8月のよう。君のいない、世界など…」
おぉぉぉぉぉぉぉ。
耕助はRADWINPSの「なんでもないや」を熱唱しながらーー
梨乃の部屋でギターをでたらめに弾く。
「いや、だから何でウチでやるの。もうそろそろお隣さんから本格的なクレーム来そうなんだけど。ほらやっぱ来た、壁ドン…あれ」
梨乃は塞いでいた耳を開き、部屋中に響く音に耳を澄ます。
すると…
じゃらじゃらじゃらじゃーん。
これは耕助のギターの音。そして…
どんどん、どんどん、どんどん…
よく聞くとお隣さんが、そのギターの音色に合わせるようにーー壁ドンでリズムを刻んでいた。
そしてその壁ドンドラムが良いアクセントになり…いつの間にか耕助のめちゃくちゃなギターと、心地よいハーモニーを奏でていた。
「いや、何これ。セッション?てかお隣さんは何…」
梨乃が困惑していると、演奏パートが終わり、耕助がまた歌い出す。
「僕らーたーいむふらいやー」
「ハモってる!お隣さん…壁の音の吸収を生かして、ちょうど良い音量で…てか何これ、前衛的すぎない?」
梨乃が頻りに仕切り越しのセッションにツッコミを入れるも、2人の演奏は士気を下げることを知らない。
「うれしくてなくのは、かなしくてわらうのは…」
「もうやめて、頭おかしくなるぅぅぅ」
遂に梨乃はツッコミをやめて、悲痛な声を上げたーー
その時だった。
「僕を追い越したんだよ」
梨乃のすぐ後ろで耕助ではない誰かの声が聞こえーー
梨乃はその恐怖に飛び上がり、ホラー映画のように絶叫する。
「ぎゃあああああああああああ!!!」
「うるせぇ!」
その瞬間、初めてもう一方の壁から普通のクレームが入りーー
梨乃は思わず反射的に、今まで使った事のない荒々しい口調でツッコんだ。
いや遅ぇだろーーー。
〜〜〜〜〜〜〜
「3号、ありがとう。最高だったよ」
全てが終わり、梨乃の部屋には耕助と梨乃ーーそしてもう一人、先程梨乃の後ろで『なんでもないや』の最後の歌詞を歌った、緑色のショートヘアーの女性がいて…その女性は耕助に無言で頷くと、そのまま特に何も言わずに帰っていった。
「じゃ、僕も帰るね。ありがとう梨乃ちゃん。これお礼」
そしてまだ放心状態にある梨乃にアクエリアスを手渡し、耕助も窓から帰って行った。
「はぁ、はぁ…いや、確かにRADWINPS、アクエリアスのCMの曲やってたけど…」
梨乃は息を荒くしながら最後にそうツッコみーー続けて言葉を漏らした。
「今度絶対、ドラムとギター持って帰ってもらお…」




