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なかよしワンダーグラウンド  作者: 森 go太
第二部『変・貌』
12/25

3話 中・毒

 壁の小さな出っ張りを指で掴みながらマンションを上手く降りた後、耕助は周囲の好奇の視線をよそにどこかで見た『トラボルタカスタム』のR-指定の真似をしながら、ついでにその時の何かを摘んでいるような指の形を生かして、剥けてきていた日焼け跡を取りつつ歩き出す。


 そして先程、梨乃には帰ると言ったもののーー耕助は自宅ではなく、近くの雑木林へと向かっていた。


 そして雑木林に到着して中に入りひたすら進んで行くとーー突如としてネオンの煌びやかな光が耕助の網膜を突き、耕助は思わず目を瞑る。


 そして再び目を開けた時にはーー

 その眼前に、妖しく光る近未来的な建物が聳え立っていた。


 この雑木林には元々、何も無かった筈ーー

 しかし昨日梨乃の家から帰る際、一度避暑をしようとこの雑木林に立ち寄って適当に散策していたところーー


 この異様な建物を発見したのだった。


 その時にはもう辺りも暗くかなり不気味だったため、耕助は中に入る事なく帰宅したのだがーー


 帰宅後もその不思議な雰囲気がどうしても頭にこびり付いて離れず、こうして翌日の昼間に出向く事を決めたのだった。


 うぃん

 と自動ドアを通って中に入る。


 するとそこには、TVのCMでしか見た事ないようなパチンコ台が無数に並んでいたがーー見たところ耕助以外に客はおらず、薄暗い店内でただ電子音を無機質に鳴らすのみであった。


 そして耕助がどうして良いか分からず、うろうろと店内を徘徊しているとーー


 「いらっしゃいまセ」

 突如として店員に声をかけられ、耕助は立ち止まる。


 見るとそこには、黒いスーツと赤の蝶ネクタイを身に付けたーーウミウシのような異形の容貌をした宇宙人が立っていた。


 「こちらヘ」

 耕助はその宇宙人に言われるがまま案内され、一台のパチンコ台に座る。


 そして宇宙人は台の横にある隙間を虹彩色の手で指し示して耕助に料金を要求するが、生憎耕助はお札を持っていないーー


 しかしその事を正直に伝えると、宇宙人は首を横に振る。


 そして宇宙人は次にーー耕助の右肩辺りの日焼け跡を指し示した。


 「そちらが料金となりマス」

 耕助はその宇宙人店員の言葉にぽかんとしながら、自分の日焼け跡を見る。


 それは先程少しほじくったおかげでめくり易くなっていて…爪を入れるとぺろりと一枚綺麗に剥がれてしまった。

 そして取れた皮を困惑しながら台の横の隙間に入れるとーー


 「わ」

 じゃらじゃらじゃら、という小気味良い音を立てて、台の上皿に銀色の玉が勢いよく溜まっていく。


 耕助はパチンコの事はよく分からないが、どうやら本当にこれでいけるらしいーーという事は何となく理解した。


 「右打ちして下さイ」

 宇宙人が台の右下にあるハンドルをお手本で回し、やり方を教えてくれた。


 そして耕助はそれに倣いーーそこから小一時間、ひたすら銀色の玉を打ち込み続けた。

 

 ぱしゅん。

 ぱしゅん。

 ぱしゅん。


 耕助は欠伸をしながら玉が飛んでいく様子をぼぅと眺める。


 真ん中のモニターには何か変な映像が流れているがーー言語も分からず、映像の意味も全く分からないため、耕助にとってはただ退屈で空虚な時間だけが流れていた。


 「ごめん、飽きたし帰るね」

 「畏まりましタ」

 そして耕助はとうとう本格的に嫌気がさし、未だ後ろで見守り続ける宇宙人にそう告げて席を立ったーー


 その時だった。



 ぴりぱりぽりぷりぱりぽぽぽぽぽぽーーーーー



 突如としてその台から今までとは違う独特な電子音が流れ、耕助は思わず台のモニターを見る。


 するとそのモニター上ではーーこの世のものとは思えぬほど禍々しい色の渦巻きが、耕助を吸い込まんかのようにぐるぐると回る光景が映し出されていた。


 そして耕助はそれを見た瞬間ーー取り憑かれたように目の色が変わって、再び台に座る。


 「おめでとう御座いマス。当たりでス」


 宇宙人の言葉は、もはや耕助の耳には入っていなかった。

 耕助はその渦巻きを食い入るようにしばし眺める。そしてーー

 快楽の極致へと誘われた。


 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁぁーーーー」

 耕助は全身をびくびくと陸に揚げられた魚のように震わせーーそして何も考えられなくなった。


 その間もなお、快楽中枢を無限に揺さぶるように電子音が脳内を巡り続けーー

 耕助は無意識に白目を剥き、ビクビクと身体を震わせる。


 まるで最高級の脳内マッサージーー


 今までに感じてきたあらゆるものとはレベルの違うその至高の快楽を、耕助は本能で堪能し続けていた。


 ぴ、ぽぽぽ、ぽぽ、ぱ、ぱぱぱぱぱーーーーー


 「うぁぁ、はぁ、あぁ、はぁぁーーーーー」


 ーーぱ。


 「……はぇ」

 電子音が終わって少しした後、耕助は我に帰った。

 そして緩み切った顔で振り向き、宇宙人の顔を見る。


 「先程の当たりは終了でス。まだ続けられまスカ」

 そんな耕助の物欲しげな顔を見て、宇宙人が感情の分からぬ声で言う。


 そして耕助はーー

 また日焼け跡を台の横の隙間に投入し、ハンドルを握った。



〜〜〜〜〜〜



 その後も何回か当たりを繰り返しながら、耕助はどんどん沼にのめり込んでいきーー


 最初の当たりから述べ6時間、門限をゆうに超える夜7時まで打ち続けーー


 ついに耕助の身体からは全く日焼け跡が無くなり、病的なまでに色白の肌になってしまった。


 「日焼け跡が無くなったため、今回は完全に終了となりマス。お帰り下さイ」

 そう宇宙人に言われ、耕助は抜け殻のようになりながら外へつまみ出されるとーー名残惜しそうに雑木林を後にし、とぼとぼと自宅までの帰路につく。


 するとーーまた先程の快楽を思い出して脳が疼き、耕助は身を翻して雑木林へと戻る。


 そしてあのパチンコ屋があった場所に向かうとーー


 「あれ…」

 耕助は絶望した。


 そこにはどこを探しても大きな建物などなく…小さな廃小屋がただ一つぽつんと佇むのみだったのだ。


 そしてその廃小屋の中を見ても、ただ砂に塗れた掃除用具がごちゃごちゃと置かれているだけで何も無いーー


 つまりあれは、宇宙人が自分に見せた幻想郷だったのだ。


 その事実に気付いた時、耕助はどうしようもない不安に駆られた。


 「やばいな…」

 耕助はそう呟くとおもむろに快足を飛ばす。


 その向かった先はーー雑木林から少し離れた所にある商店街だった。

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