2話 ノイジードラム
小雪ちゃんが東京に帰ってから早1週間が経過した。
今では耕助の僧頭(スキンヘッド)にも少し髪が生え、普通の坊主頭になっている。
耕助は小雪ちゃんと2人で遊ぶのに慣れてしまっていたからか、以前のようにひとりで過ごすのがすっかり寂しく感じるようになってしまいーー
今では殆どの日を、こうして梨乃の家で過ごすようになっていた。
「そっか、まだ小雪ちゃんからお手紙来てないんだ」
梨乃が宿題の広がる机に頬杖をつきながら言う。
その目線の先には耕助の姿があるのだがーー
耕助はなぜか梨乃の部屋の大半を使って、坊主にタンクトップという、たまのような姿でドラムの練習をしていた。
さらにその奏でる音は支離滅裂極まりなくーー下手すればマンションの騒音問題に発展しかねなかった。
「てか何でドラム?いつの間に持って来たのそれ」
「昨日梨乃ちゃんが寝てる間に、3号に運んでもらった」
「うん、私が寝てる間に何かするのやめてね。怖いから」
相変わらず淡々と冷静にツッコミを入れる梨乃。
梨乃はこの1週間を通じて耕助の奇行と対峙し続け、ツッコミの玄人度合いには磨きがかかっていたが…
一方で宿題には全く集中できず、夏休み終盤にも関わらず、まだ半分以上の宿題が残ってしまっていた。
そしてその点では、宿題を序盤で終わらせてしまった耕助がニクいーー
「紅、にそまった、このおれを…」
その耕助はX JAPANの『紅』をぼそぼそと小声で歌いながら、ドラムをでたらめに叩いている。
そのせいで歌は聞こえず、実質ドラムを叩いているだけのようになっていてーーそれを梨乃が思わず指摘するとーー
「いや、マンションで大声出したらダメでしょ」
じゃーん。
耕助は真顔でそう言った矢先、またシンバルを思い切り叩く。そのあまりの道理の通っていなさに、梨乃は脳がバグりそうになったのでーー何とか脳を正常に戻そうと宿題の算数ドリルに向き直り、数式をひたすら解く。
「じゃ、そろそろ帰るね。バイバイ」
そして耕助は突然そう言うと、部屋の窓から出ていってしまった。
ちなみにここはマンションの11階ーー
到底人間が窓から出ていけるような高さではないが、1週間ずっとこの帰宅方法を見てきた梨乃は特に驚く事もなく、ただ一言「気をつけてね」と返して宿題を続けた。




