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宿幼決戦編 九章 リヴァの記憶

同年、三月二十四日。

一柱の魔塊眷属がミリア国にある森の中を駆ける。

何かから逃げているのか、慌てた様子で。

「・・・」

宿幼魔塊五番眷属、Mは滑り、止まりながら方向を変える。

冷や汗をかいたMは素早く木の枝を伝って向かってくる剣士に拳を向けた。

「・・・」

青眼、黒髪ツインテール。黒いカッターシャツを着て黒い長ズボンを穿いた褐色肌の乙女、カスミ・ローゼ・カーリンは音もなく迫る衝撃波を軽く避けた。

カスミはMから目線を外すことなく黒鞘に納まった刀に手をかける。

「忌々しい・・・忌々しいッ!!」

Mは冷や汗を垂らしながら怒りが籠った声でそう言うと、両拳を振って衝撃波を飛ばした。

カスミは衝撃波をするりと避けると、黒鞘から刀を抜いた。

金色の(はばき)、鈍く光る黄金色の刀身と乱反射するように煌く白金色の刃が姿を見せる。

この刀は落陽の勇者だけが扱える一振り、最上大業物落陽淵崩(らくようえんほう)である。

「・・・」

最上大業物落陽淵崩を握ったカスミは衝撃波を平然と斬りながらMに向かった。

(落陽大聖ッ!!)

Mは振られた最上大業物落陽淵崩を避けて飛び退く。

しかし、最上大業物落陽淵崩は飛び退くMを捉えて斬った。

Mは液状闇をまき散らしながら転がり、木に激突して止まった。

「忌々しい・・・イマイマ・・・シイッ!!」

Mが最上大業物落陽淵崩に手を伸ばしながらそう言うと、聖陽水晶(せいようすいしょう)になった。

「ふぅ・・・」

カスミは一息ついてから最上大業物落陽淵崩を黒鞘に納めた。

カスミは小刀を握った聖陽水晶に触れる。

「・・・」

小刀を握ったカスミは聖陽水晶を見て少し驚いた。


「・・・」

砂漠に空いた大穴、"大戦(たいせん)淵地(えんち)"を見つめるリヴァはゆっくりと顔を上げて空に渦巻く黒雲を見る。


陛下は過去を見たがっていた。

妻たちの活躍を見たい・・・と。

だが、私にはあの戦いを見せる勇気がない。

きっと、今の六合様は陛下が知る六合様ではない。

だから、見せられない。


「・・・」

リヴァは脚元に広がる集落を見た。

リヴァは軽い段差を降りるように一歩踏み出し、長い巨岩から飛び降りた。


この集落には宿幼が居る。

だから、陛下はこの集落へ行こうとしていた。

だが、陛下に過去を見せたくなかった私は陛下を説得した。

そして、私がこの集落へ行き、宿幼を討伐することになった。


「・・・」

降下するリヴァは黒鞘に納まった刀に手をかける。


宿幼はその容姿とその奇妙な力から集落の神になっていた。

宿幼の姿は白狐(びゃっこ) 真白(ましろ)を模して創られた。

神々しさと人知を越えた力が人を魅了したのだ。


「落陽大聖めッ!」

社に籠る宿幼がそう言いながら聖陽水晶と魔陰水晶(まいんすいしょう)を打ち付けると、神気異常(しんきいじょう)常夜化(とこよか)が起きて周りが夜になった。

「あぁ・・・あぁ・・・」

次々と闇化生物に変わる集落の人を見て腰を抜かしたソニアは苦しむ母親を見た。

「どうして・・・どうして・・・」

目を見開いたソニアは闇化する母親に手を伸ばしながら苦しそうに、悲しそうに言った。

「・・・」

最上大業物落陽淵崩を握ったリヴァは闇化生物に変わったソニアの母親の首を斬り、ソニアに近づく闇化生物たちを斬った。

「出て来い、宿幼!」

闇化生物を全て倒したリヴァは社を見てそう言った。

「出るわけないだろ・・・僕は永遠みたいにバカじゃないんだ」

宿幼はそう言いながら地下道に入った。


宿幼は逃げた。

私がそう思ったのは、神気異常・常夜化が解けてからだ。

残された子はいつも同じような行動を取る。

親しかった者であろう水晶に触れ、泣き叫ぶ。

私は陛下の様に優しくないし、説明が得意というわけでもない。

矢田のように、人を巻き込む勇気もない。


「どうして!どうして!返してよ!私のママを!集落の人を!!」

ソニアはリヴァを睨みながら泣き叫んだ。

「奴は宿幼という魔塊だ。幼子に寄生し、成長し、世界を滅ぼそうとする邪悪だ」

最上大業物落陽淵崩を黒鞘に納めたリヴァはソニアを見てそう言った。

「みんな!みんな幸せだったんだ!」

涙を流すソニアは食い気味にそう叫んだ。

「・・・」

リヴァはソニアを見て黙った。

「お前が来なければこんなことにはならなかった!私の世界を壊したのはお前だ!!」

涙を流すソニアはリヴァに聖陽水晶片を投げた。


宿幼が力をつければこの俗世が消える。

この事実を説明したところでこの子は信じない。

私はこの子にとっての世界を滅ぼした悪者なのだから。


「・・・師匠・・・」

聖陽水晶を握ったカスミを見て悲しそうに言った。

「カスミ!」

草をかき分けて来たアイリアはカスミを見てそう言った。

「アイリア、どうしてここに?」

カスミは聖陽水晶をポーチにしまいながらそう言った。

「宿幼の匂いがしたから」

アイリアはカスミを見てそう言った。

「って、魔塊眷属か・・・」

アイリアは聖陽水晶を見てそう言った。

「基地に戻りな。私も拠点艦に戻るから」

カスミはそう言うと、木を見た。

「ねぇ、カスミ。少し聞きたいことがある」

アイリアはカスミを見てそう言った。

「なに?」

カスミはアイリアを見てそう言った。

「どうして梨々香はこんなに結界が薄い場所にみんなを集めてるの?魔塊眷属も入ってくるし、あまりに愚策だと思う」

「集めてるんじゃない、集まったんだよ。都市部が大きくなるのと同じ」

「人が集まって、商人が集まって、そこに宗教が絡んでまた人が多くなる」

木の枝を持ったカスミは木の枝を見ながらそう言った。

「人が増えるにつれて商人が商品を売るため、聖職者たちが信者を集めるために噂を流し、それを信じてまた人が集まる。これが三年間繰り返されこうなった」

カスミはアイリアを見てそう言った。

「・・・止められないの?」

「止められるよ。自由を奪ってしまえば簡単に」

カスミはアイリアを見て笑みながらそう言った。

「・・・バカなこと言うなよ・・・」

「そうだよ、バカなことを言ったんだ。バカなことを言ったんだ」

カスミはそう言うと、木に飛び乗った。

カスミは木々を伝って去っていく。

アイリアはバカなことを考えていたと少し後悔をする。


午前六時半。

オレンジたちが起床し始めた頃、アイリアは二度寝していた。

「こいつ寝すぎだろ・・・」

呆れ顔のアージヴァイズはアイリアを見てそう言った。

「まぁ、別にこの時間に起きなきゃってわけじゃないし、良いよ」

オレンジはお茶を淹れながら言った。


午前六時四十分。

アイリアが起床した。

「寝起き良いね」

エコーはアイリアを見て笑みながら言った。

「まぁね」

アイリアはエコーを見て笑みながら言った。

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