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アティア・ゼン編 十二章 黒点へ

同年、八月二十一日。

アイリアはペテゼとレグダダの国境付近に居た。

「食料が減って来たな・・・」

アイリアは袋に入った小石のような乾燥パンを見てそう言った。

「・・・」

アイリアは袋の口を閉めると、小石のような換装パンを水に入れた。

アイリアは黒鞘に納まった刀を握ると、鞘をずらして金色の鎺を見た。


最上大業物日炎。

七陽の勇者の一角、天道の勇者だけが使える天理照赫の加護。

華道(かどう) (みやび)華矢(かや) 典正(のりまさ)華松(かまつ) 三郎(さぶろう)立華(たちばな) 梨音(りおん)という豪傑たちが振り、数々の邪悪を斬って来た。


「・・・」

鞘を元に戻し、黒鞘に納まった刀を置いたアイリアはナイフを持って塩豚をナイフで削った。

削った塩豚が乗った木の板を持ったアイリアは小さな鉄鍋に削った塩豚を入れ、焼き始めた。

「梨々香も黒点に居るんだよね。大丈夫だよね」

アイリアは柔らかくなったパンを食べながら言った。


一方、梨々香はアマテラス神護国として復興したアーヴァン跡地の自宅に居た。

「陛下。神気異常が予想以上に力を奪っているようで、かなり苦戦しているようです」

ゆかりは梨々香を見てそう言った。

「そうか・・・」

梨々香はゆかりを見てそう言った。

「陛下、第五魔塊は陛下が警戒するほどの存在なんですか?」

「魔甘は強力な能力を持ち、勝率を考えて動くほどには賢い」

「奴の蜜は生物の心根を刺激するため、どれだけ鍛えていても、心根が弱い限り抗うことができない。だから、勝率があると考えさせてはいけない」

梨々香はゆかりを据わった目で見てそう言った。

「クソゲーじゃないですか」

「宿幼以外はほぼクソゲーだよ。魅惑、統制(とうせい)安楽(あんらく)永遠(とわ)。それぞれ異常な能力を持っている」

梨々香はゆかりを見てそう言った。

「曙陽のローラ様に任せるしかないんですか?」

「もう少し時が経てば天道の勇者が到着する。少しは楽になるだろう」

梨々香はゆかりを見て笑みながら言った。


一方、ミッケは資料を並べて一人で情報をまとめていた。

(黒点・・・神気異常発生が起きた場所・・・ラバログ)

ミッケは資料を見つめた。

資料一 宿幼片と月浜残党軍と協力者について。

宿幼片である高咲 重海と月浜残党軍がラバログを占領。

月浜残党軍の戦力からして、物資を提供している者がいると見た方が自然だ。

資料二 グラディスからの報告書。

黒点は強力な神気融合によって創り出された界創空間である。

黒点で確認された神気濃度はアーヴァン残地の約五十倍。

黒点域に上位神以下の存在が入れば瞬時に形を失い、気化する。

曙陽によって空間の拡大が食い止められているが、縮小させることは不可能と言える。

資料三 南方に入った神軍組織員へ状況説明と注意喚起。

黒点、および、神気異常・常夜化を引き起こしたのは高咲 重海と月浜残党軍である。

神気異常・常夜化で魔塊眷属、及び、闇化生物が常時強化状態になっている。

油断せず戦闘するように。

(黒点に行けばアイリアに会えるのか・・・)

ミッケは資料を見つめると、資料をまとめてファイルに挟んだ。


同年、八月二十三日。

アイリアがレグダダ国の町についた。

レグダダの歴史は長く、五千年以上と言われている。

しかし、その大半は苦しい歴史だ。

戦争、崩壊、差別、迫害、奴隷化。

そのどれもアーヴァンやノースドラゴニアに対抗しようとしたサウスドラゴニア王国が原因と言える。

「・・・」

アイリアは寂れてボロボロになった住宅街を見ながら歩く。

戦後、サウスドラゴニアは銀月華の都からただの緑地に変わったレグダダの民から生殖能力を奪い、財産を取り上げて迫害した。

サウスドラゴニア王族の横暴は自国の民すら顔を顰めるほどだったらしい。

しかし、そんなサウスドラゴニア王族の横暴はサウスドラゴニア国軍将軍、メアリー・ロイ・ヒートリーと王族軍大臣、マウ・ローゼ・カーリンとリベートリヒ・ド・イオネスコ姫たちによる反乱によって終わった。

「・・・出て来たか」

アイリアは周りを見ながらそう言った。

「グゲゲ」

建物から闇化生物がわらわらと出てきた。

「君たちの主は誰かな~?」

アイリアは周りを見て笑みながら言った。

「あぁ、話せないか」

アイリアは笑みながらそう言うと、飛びかかって来た闇化生物を最上大業物日炎で斬った。

斬られた闇化生物は吹き飛ばされ、結晶化して地面に落ちて砕けた。

「ブゲバゥ・・・」

闇化生物たちは最上大業物日炎を見ると、逃げ始めた。

「逃がすかッ!」

最上大業物日炎を握ったアイリアは目を見開いてそう言うと、体を少し捻り、最上大業物日炎を下段で構えた。

「天道。隼炎獄道(しゅんえんごくどう)!!」

最上大業物日炎を構えたアイリアはそう言うと、一歩踏み出した。

次の瞬間、光の尾を引いた炎が住宅を壊し、道を創りながら進んだ。

「ダギギャァァァァ!!!!」

闇化生物たちは燃え、崩れながら斬れた。

広がる炎と共に聖陽水晶片が宙を昇った。

「・・・流石に気力が足りないか・・・」

最上大業物日炎を握ったアイリアは息を挙げながらそう言った。

「狙い通りだ!!」

闇の剣を握った邪眼、金髪ツインテール。黄色と銀色が基調のスカートタイプの戦闘服で身を包んだ生者の肌だとは言い難い肌の少女のような女性、イーディス・スコット・ミッチェルはアイリアを見て笑みながら言った。

「なるほどねッ!!」

最上大業物日炎を握ったアイリアは闇の剣を弾き返してそう言った。

「クソ!まだ抵抗する力があったか!」

闇の剣を握ったイーディスはそう言いながら逃げ始めた。

「逃がすかバカが!!」

最上大業物日炎を握ったアイリアはそう言うと、落ちている聖陽水晶を握り、イーディスに投げた。

綺麗な弾道で飛ぶ聖陽水晶はイーディスに当たり、背中を貫いて腹部を破壊した。

「ブアァァ!!!!」

目を見開いたイーディスは悲鳴を上げながら落下し、地面に落ちた。

「・・・ば、バカな・・・」

イーディスはゆっくりと顔を上げながら言った。

その瞬間、イーディスの胸に最上大業物日炎が突き刺さった。

「ブアァァァ!!!!」

イーディスは目を見開き、悲鳴を上げた。

「私を甘く見過ぎだ。疲れてたってお前みたいな雑魚は相手じゃない」

最上大業物日炎を握ったアイリアはイーディスを見てそう言うと、最上大業物日炎を抜いてイーディスの首を刎ねた。

首を刎ねられたイーディスは聖陽水晶と化した。


午後七時五十分。

パン屋などを物色したアイリアが火を焚いて晩ご飯を作り始めた。

黒点まで数日はかかる。保存が効く食料は使い過ぎない方が良い。

今回は運が良いことに腐ってない食料を手に入れることができた。

「・・・」

アイリアは沸騰したお湯を見ると、スープの素を入れた。

「そんな食べてないし、結構動いてるのになんで太り気味なんだろう」

巨大なパンを持ったアイリアは巨大なパンを食べながら言った。

このペースで行けば明日にはレグダダを抜けてハーゼンド山岳国に着く。

ハーゼンドを抜ければラバログだ。その頃には黒点が見えているだろう。


同年、八月二十四日。

単身、黒点へ向かっているミッケがレグダダに到着した。

「一人だと楽でいいにゃ」

大きな荷物を背負ったミッケはそう言いながら屋根を飛び移り、移動した。

「わお」

屋根の上に着地したミッケはアイリアの天道剣技によって創られた焼け焦げた道を見て驚いた。

ミッケは地面に着地して少し周りを歩き、生活の痕跡を見つけた。

(少し時間が経ってる。でも、追いつけそうだ)

ミッケは焚火の跡を見ると、太陽すら隠しそうなハーゼンド山を見た。


午後一時九分。

アイリアは道中、数々の闇化生物と戦って力を消費して疲弊していた。

レグダダで手に入った食料はもう底をつき、自分で持ってきた食料も少ししかない。

「・・・はぁ・・・」

アイリアは小石のような乾燥パン二つを見てため息をついた。

アイリアは袋の口を閉めて袋を最上大業物日炎の柄に結び付ける。

アイリアは立ち上がると、再び歩き始めた。

「・・・」

アイリアは草木を分けながら前に進む。

ハーゼンド山では一部の神気異常・常夜化が九年ほど前から起きていたようだ。

「・・・」

アイリアは進むにつれて赤紫色の水晶と化す木々や生物の残骸を見た。

六合の予期せぬ回帰がもたらした影響は語られているより多く大きい。

軽率な行動が多くの生命を奪い、多くの種を絶滅に追いやった。

「・・・」

アイリアは方向感覚すら失うような超高濃度神気地帯を進み始めた。

全身が浮かぶような感覚。だが、足は進むことが困難だと感じるほど重たい。

超高濃度神気に覆われ、変色した空も相まって方向感覚が激しく狂う。


意識が朦朧とする中、アイリアが超高濃度神気地帯を抜けた。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

冷や汗を垂らし、息を上げるアイリアはゆっくりと起き上がった。

アイリアは黙って周りを見る。

ハーゼンド山岳国はもう滅んでいた。

きっと、アーヴァン王国が崩壊した日に。

「六合の眷属はこれが世界中で起こることを危惧し、レグダダにあった六合の残留神気を消したのか・・・」

アイリアはハーゼンド山岳国を見てそう言うと、少し上を見た。

「・・・見えた・・・奴が潜む場所」


黒点。

強力な神気が融合して強烈な神気の乱れが発生した界創(かいそう)空間。

この黒点の真下に第三の神具があると考えた神軍幹部が集結している。


「・・・」

アイリアは崩れるように座った。

アイリアに残された力はもう僅かだ。

今は立つことすら難しい。

闇化生物がいないというのが幸いだ。


一方、ミッケは立ち止まり、超高濃度神気地帯を見ていた。

「これはヤバそうだにゃ・・・」

ミッケはそう言うと、曙陽を纏って超高濃度神気地帯を走り始めた。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃぁぁぁぁ!!」

曙陽を纏ったミッケは叫びながら超高濃度神気地帯を走り抜け、ハーゼンド山岳国に出た。

「・・・は?」

アイリアは目を見開き、驚きながら上を飛んでいくミッケを見た。

「よっと!」

ミッケは少し滑りながら着地した。

「ど、どうやってここに・・・」

驚くアイリアはミッケを見てそう言った。

「曙陽の力を使って強行突破したにゃ」

ミッケはアイリアを見て笑みながらそう言うと、大きな荷物を下ろして食材を取り出した。

(バカだ・・・いや、狂ってるんだ。このグローニアキャットはマジで狂ってる)

アイリアはミッケを見てドン引きする。

「・・・はぁ・・・」

アイリアは荷物を置くミッケを見てため息をつくと、ゆっくりと起き上がった。

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