アティア・ゼン編 三章 赤対青。
同年、六月十日。
二ノ華が最期に行った場所、アーヴァン大発電所に妖皇一派の妖たちが入っていた。
「クソ・・・妖皇様を殺したのは幻想眼持ちの奴か・・・なんて厄介な」
金鞘に納まった刀を担いだ黒地に炎を模した赤い柄、その上から金の粒を散らした裾が短い着物で身を包んだ紅蓮咲羅天ノ煌寵は幻想を見ていると錯覚するほど広い空間を見上げながら言った。
「ただの妖怪が僕に何の用だ?」
右腕を柵に乗せた青眼のリベードリヒは紅蓮咲羅天ノ煌寵たちを見てそう言った。
「妖皇様はどこだ。知らないなんて言わせないぞ」
金鞘に納まった刀の柄を握り込んだ紅蓮咲羅天ノ煌寵はそう言うと、刀を抜いて金鞘を帯締めに刺した。
「知らないね。妖怪になんて興味がない」
リベードリヒはそう言うと、柵を掴み、柵を飛び越えて飛び降りた。
「紅蓮よ・・・華ノ神より銘を受けし地獄の魔剣よ・・・!!その力を以て我らの道を照らせ!!」
降ってくるリベードリヒを見る紅蓮に滾る黒い刀を握った紅蓮咲羅天ノ煌寵は紅蓮に滾る黒い刀を担ぎ、構えながら言った。
「地獄ノ白夜神!!」
紅蓮に滾る黒い刀を握り込んだ紅蓮咲羅天ノ煌寵はそう言うと、リベードリヒに紅蓮に滾る黒い刀を振った。
白い光が辺りを白く照らし、白い猛火がリベードリヒに向かった。
リベードリヒは白い猛火を片手で握り消す。
「クソ!」
紅蓮に滾る黒い刀を握り込んだ紅蓮咲羅天ノ煌寵は降って来るリベードリヒを避けた。
着地したリベードリヒは振られた二本の刀を避け、二体の妖怪に裏拳を当てた。
二体の妖怪は吹き飛ばされ、発電缶に激突して弾け飛び、霧のように飛び散った墨汁のような液体が細かな結晶になった。
リベードリヒは紅蓮に滾る黒い刀を握り込んだ紅蓮咲羅天ノ煌寵の所まで瞬間移動し、紅蓮咲羅天ノ煌寵に拳を振った。
紅蓮咲羅天ノ煌寵は紅蓮に滾る黒い刀で拳を防ぐも、途轍もない速度で吹き飛ばされて壁に激突した。
(か、体が動かない・・・なんて力だ・・・)
目を見開く紅蓮咲羅天ノ煌寵はリベードリヒを見て唖然とした。
拳に神気を纏わせたリベードリヒは躊躇なく紅蓮咲羅天ノ煌寵に拳を振る。
(し、死ぬッ!!)
目を見開いた紅蓮咲羅天ノ煌寵はリベードリヒの拳を見て冷や汗をかいた。
紅蓮咲羅天ノ煌寵が死を覚悟したその時、リベードリヒの拳が止まった。
「・・・」
冷や汗をかいたリベードリヒはゆっくりと振り返った。
その瞬間、天井が粉々に破壊され、瓦礫と共に背から赤紫色がかった黒い龍翼を生やしたヴェルベサが降って来た。
「クソ・・・これが目的だったか・・・」
リベードリヒは紅蓮咲羅天ノ煌寵を見てそう言うと、穴が開いた天井に向かって飛び上がった。
「・・・」
飛び去ったリベードリヒを見たヴェルベサは赤紫色がかった黒い龍翼を羽ばたかせ、リベードリヒを追って飛び去った。
「グエッ・・・」
紅蓮咲羅天ノ煌寵は神気風を受けて気を失って倒れた。
同年、六月十二日。
部隊長級昇進試験に合格したオレンジとミッケが昇進・昇格式に出ていた。
「新任部隊長級組織員柄、オレンジ・ヴァロン・ドリェシェパノ」
カスミは試験を受けた者たちを見てそう言った。
「はい!」
オレンジは返事すると、立ち上がってカスミの所へ向かった。
「・・・」
ミッケは緊張しながらカスミを見ていた。
今回、部隊長級昇格試験に合格した者は二名、部隊長級昇進試験に合格した者は七名だ。
「新任部隊長級組織員柄、ミッケ・ローゼ・カーリン」
カスミは試験を受けた者たちを見てそう言った。
「は、はい!」
ミッケは緊張しながら立ち上がった。
ミッケはカスミの前まで行き、カスミを見た。
「はい、頑張ってくださいね」
ミッケの制服に部隊長級組織員柄のバッチを着けるカスミは笑みながら言った。
昇進・昇格発表は無事に終わり、各々解散した。
「お姉ちゃん!・・・その・・・」
ミッケは資料を片付けるカスミを見てそう言った。
「・・・よく頑張ったね。お姉ちゃん、誇らしいよ」
資料を持ったカスミはミッケを見て笑みながらそう言うと、ミッケの頭を撫でた。
「お姉ちゃん・・・」
ミッケはカスミを見て嬉しそうに笑みながら言った。
「ホコン」
カスミは咳払いすると、真面目な顔でミッケを見た。
「ミッケ・カーリン部隊長級柄。陛下はあなたに絶大な期待を寄せている。日々、精進するように」
カスミはミッケを見てそう言った。
「は、はい!」
姿勢を正したミッケはカスミを見てそう言った。
「ミッケは出来る子だよ。頑張れ」
カスミはミッケを見て笑みながらそう言うと、出入り口に向かって歩いていった。
「・・・良かった・・・」
ミッケは笑みながらそう呟いた。
(頑張ろう!!明日のために!!)
ミッケは笑みながら前を向いた。
「ミッケ!!よくやったぞ!!」
ミッケに推薦状を出した部隊長級組織員たちは嬉しそうに言いながらミッケを抱きしめた。
「く、苦しいにゃ」
ミッケは部隊長級組織員たちを見て笑みながら言った。
「・・・」
オレンジはミッケを見た。
「どうしたの?」
中野 綾乃上位組織員はオレンジを見てそう言った。
「・・・なんでもないよ・・・」
オレンジは綾乃を見て笑みながらそう言うと、ミッケを見た。
同年、六月十三日。
ミッケが不正をしたという話がいつの間にか広まり、報道陣が押し寄せる事態になった。
「ミッケ・ローゼ・カーリン!神軍関係者から告発があった!」
記者1はミッケを見て怒鳴った。
「神軍組織員として許される行為ではない!」
記者2はミッケを見て怒鳴った。
「・・・」
ミッケは報道陣を見ていた。
一方、カスミはローラに呼ばれて拠点管理室に来ていた。
「・・・カスミ・カーリン、お前に知らせなければいけないことがある」
ティーカップを持ったローラはカスミを見てそう言うと、ティーカップを置いた。
「は、はい・・・」
カスミは険しい顔のローラを見てそう言った。
「リヴァが死んだ」
ローラがそう言うと、カスミから力が抜けた。
「し・・・し、師匠・・・ッ!!」
カスミは大粒の涙を零しながらそう言った。
「リヴァによって天星への道が開かれ、天星が覚醒に至った。陛下は最後まで自分が行くと言ってリヴァの出撃に反対しておられた。しかし、死星がどこから現れるかわからない以上、これができるのは自分だけだと言って折れなかった」
ローラはカスミを見てそう言った。
「・・・師匠・・・師匠は・・・ずっと・・・天星のことを言っていました・・・古い世界でケンカ別れをしてしまった陛下と天星を絶対に会わせるんだって・・・」
涙を拭くカスミは泣きながらそう言った。
「リヴァは友である矢田 鈴子とケンカ別れをしたことをずっと後悔していたからな・・・」
ローラはお茶を淹れながらそう言った。
「疑惑の信憑性は?どこでどういう不正をしたんですか?」
ミッケは記者団を見てそう言った。
「信憑性など今はどうでも良い!」
「そうだ!話をそらそうとするな!」
記者たちはミッケを見て怒鳴った。
「信憑性もどういう不正かも説明できないのに騒いだんですか?バカバカしい・・・」
ミッケは記者たちを嘲笑いながら言った。
「こ、この!!」
怒筋を浮かべた記者3はミッケを見て怒鳴ると、本を投げた。
ミッケは片手で本を弾き飛ばし、記者3たちを見た。
「信憑性をどうでも良いと言ってしまったら記者として終わりでしょう?実に恥ずかしい言葉です」
背もたれにもたれたミッケは記者たちを見て笑みながら言った。
「・・・」
記者たちはミッケを見て嫌な顔をした。
「まぁ、このまま終わっても納得できないでしょう」
ミッケは姿勢を正してそう言った。
「ここはひとつ、陛下にお願いしてみましょう。陛下なら公平に裁いてくれますから」
ミッケは記者たちを見てそう言った。
「・・・」
記者たちはミッケから目をそらして黙り込み、冷や汗をかいた。
「すぐに返事しなよ。やましいことがあるわけじゃあるまい」
ミッケは記者たちを見て笑みながらそう言った。
記者たちは返事をせず、静寂に包まれる。
「終わり!」
ミッケは記者たちを見て大声でそう言うと、立ち上がって部屋から出た。
ミッケが部屋から出ると、ウェンディが待っていた。
「神軍幹部第七位様・・・」
ミッケはウェンディを見てそう言った。
「ウェンディで良いよ。君とはとても仲良く出来そうだから」
ウェンディはミッケを見て笑みながら言った。
「そ、そうですか・・・」
ミッケは少し動揺しながら言った。
「君の度胸はとても素晴らしい。とは言っても、粗削りな剣技も変な優しさも嫌いだ」
「褒めと貶しの比率があってないにゃ・・・」
ミッケは少し落ち込みながら言った。
「でも、君はそれで良い!!」
ウェンディはミッケを見て大声でそう言った。
すると、記者たちがざわつき、部屋の出入り口からミッケとウェンディを恐る恐る見始めた。
「び、びっくりしたにゃ・・・」
驚くミッケはウェンディを見てそう言った。
「君らしく頑張れ。犯人を生かすも殺すも君の自由だ」
ウェンディは笑みながらそう言うと、振り向いて立ち去った。
同年、六月二十日。
アマテラス共栄圏第三十一番国フィンドに魔塊眷属が襲来。
魔塊眷属は強力な神技を使ってフィンド防衛部隊を壊滅させ、神気生成炉を損傷させた。
第二十一魔塊眷属討伐からの要請を受け、第四十魔塊眷属討伐隊が対処に当たるも発見に至らず。
発見方法が決まらない中、下位組織員として魔塊眷属討伐に参加していたクロウゼウが夜に町中で探すという途轍もないことを考案して発表した。
「クロウゼウ・ワーリントン!君は学術の成績も良かったはずだ!夜の行動がどれだけ危険かわかっているだろう!?」
第四十大魔塊眷属討伐隊部隊長、ドーフ(ヴェルベサ系中位眷属神)はクロウゼウを見て大声でそう言った。
「魔塊とその眷属の力が増す。ですよね」
青眼、根本が薄赤い白い深紅髪にツインテール。黒カッターシャツを着て黒いミニスカートを穿いた色白な肌の少女のような女性、クロウゼウ・マクドナルド・ワーリントンはドーフを見てそう言った。
「わかっていてその案を出したのか!?君という人間は!」
ドーフはクロウゼウを見て怒鳴った。
「奴のことは私が一番わかっています。奴は勝機がない戦いを避ける」
「・・・」
ドーフはクロウゼウを見て黙り、考えた。
「しかし、相手は強力な神技を使える魔塊眷属だ。あまりに危険すぎる。どれだけの犠牲が出るか・・・」
眉を顰めたドーフはクロウゼウを見てそう言った。
「前線に出るのは私一人です」
クロウゼウがドーフを見てそう言うと、ざわつき始めた。
「き、君一人が・・・」
目を見開いたドーフはクロウゼウを見て驚きながらそう言った。
「犠牲者は少なく済むでしょう」
クロウゼウはドーフを見てそう言った。
「属性剣技・炎は天陽剣技から派生した剣技。私たちが的確に後方支援すれば、奴らが不利な状況を生み出せるかもしれません」
上位組織員1はドーフを見てそう言った。
「そうか・・・天陽の炎を周りに灯せれば!」
ドーフは上位組織員1を見て笑みながら言った。
「では、後方支援を任せても良いですか?」
クロウゼウはドーフたちを見てそう言った。
「あぁ、任せてくれ」
ドーフがそう言うと、部隊員たちがクロウゼウを見てうなずいた。
午後八時。
作戦が開始され、クロウゼウが夜の町に出た。
(すごい・・・ここまでわからないのか・・・)
歩みを進めるクロウゼウは周りを見た。
「・・・来た」
瞬時に剣を抜いたクロウゼウは圧倒的速度で迫る拳を斬ってそう言った。
炎が半円を描き、火の粉が散り、火の粉がバチバチと火花を散らした。
「・・・」
宿幼魔塊二十一番眷属、エミリアは軽く地面に着地した。
「お前とは縁が切れないな」
赤熱した神剣・零式翼龍を握ったクロウゼウはそう言うと、赤熱した剣、零式翼龍を力強く一振りした。
「お前は本当に・・・目障りで仕方がない奴だ・・・」
エミリアはクロウゼウを見て笑みながらそう言うと、拳の傷を再生させた。
(月が出る時間は能力が四倍になる)
赤熱した零式翼龍を握ったクロウゼウはそう考えると、向かってきたエミリアの拳を避け、赤熱した零式翼龍を振った。
放たれた炎を避けるようにエミリアは飛び跳ね、地面に着地した。
(教本が正しいなら、治癒回数が限られている攻撃特化か)
零式翼龍を握ったクロウゼウはエミリアに向かって走った。
赤熱した零式翼龍を握ったクロウゼウはエミリアの極僅かな動作、癖から次の行動を読み、赤熱した零式翼龍を縦に振った。
(こいつ・・・縦に・・・)
エミリアは縦に振られた炎を放つ零式翼龍を見て下がった。
しかし、これが致命打になる。
聖陽水晶と名付けられた淡い橙色の水晶から造られた透明な特殊可燃シートが属性剣技・炎から放たれた炎を吸って途轍もない速度で広がり、エミリアに炎が到達した。
「グアァァァァァァァァ!!!!」
エミリアは体の至る所に付着した炎を見て悲鳴を上げた。
「属性剣技・炎。天炎尊舞!!」
赤熱した零式翼龍を握ったクロウゼウはそう言うと、エミリアに赤熱した零式翼龍を振った。
零式翼龍は炎を放ながらエミリアの首を捉えた。
しかし、エミリアの首を斬れず、刃が止まった。
エミリアはあまりの熱さから墨汁のような液体を口から吐きながらもクロウゼウを蹴り飛ばした。
(ふ、不快ッ・・・こいつを生かしてなるものか!!)
エミリアは地面に落ちた零式翼龍を見るクロウゼウを見て目を見開くと、瞬間移動とも言えるような速度でクロウゼウに向かった。
クロウゼウはエミリアの拳を回避するも、蹴り飛ばされた。
「お前に強さはない。剣技が強いんだ。剣が無ければ剣技など使えない」
目を見開いたエミリアはクロウゼウを見て笑みながら言った。
(クソ・・・一発で致命傷かよ・・・)
地面を転がり、滑ったクロウゼウはエミリアを見て血を吐いた。
「お前は素晴らしいライバルだった。だから・・・」
エミリアは笑いながらそう言うと、拳を握り込んだ。
「肉塊になるまで玩具にしてやる」
拳を構えたエミリアはクロウゼウを見て笑みながらそう言うと、再び瞬間移動とも言えるような速度でクロウゼウに向かった。
クロウゼウに拳が迫ったその瞬間、エミリアの拳が刀に受け止められた。
「グハッ・・・!」
エミリアの拳を受け止める神刀グレブヴィンを握り込んだドーフは血を吐いた。
「部隊長・・・」
目を見開いたクロウゼウはドーフを見てそう言った。
「早く・・・剣をッ!」
エミリアの拳を受け止める神刀グレブヴィンを握り込んだドーフは苦しそうにそう言った。
クロウゼウが零式翼龍に向かって走り出すと、エミリアはドーフの首を手刀で斬り落とした。
ドーフの首を斬り落とした瞬間、ドーフから出てきた体液が強粘着性の半固形物に変化し、体までもが強粘着性の半固形物になった。
「バカめ!!私が何の策もなしに来たとでも思ったか!」
頭だけになったドーフはエミリアを見て笑みながらそう言うと、エミリアに唾を吐いた。
「ッ・・・!!」
唾を顔に吐かれたエミリアは怒筋を浮かべた。
「このクソゴミがぁぁぁぁ!!!!」
怒筋を浮かべたエミリアはそう怒鳴ると、ドーフの頭を殴り潰した。
「し、しまったッ!」
エミリアが気付いた時にはもう遅い。
ドーフは頭も強粘着性の半固形物に変化し、エミリアの拳を地面に張り付けた。
「今だ!!このチャンスを逃がすな!!ライトを当てて力を抑制するんだ!!」
部隊員たちは一斉に聖陽水晶で造ったレンズがはめられたサーチライトを稼働させ、エミリアに光を当てた。
(神技が・・・!神技が使えんッ!!)
弱弱しくはあるが、陽光に近い光を受けて悲鳴を上げるエミリアは必死にもがいた。
しかし、ドーフは少しも離れようとしない。
「属性剣技・炎。炎打散輝!!」
赤熱した零式翼龍を握ったクロウゼウは飛び上がり、エミリアを見てそう言った。
(な、何て恐怖感だ・・・!何とか・・・何とか逃げなければッ!!)
強粘着性の半固形物に捕まったエミリアは目を見開き、炎を放つ零式翼龍を見つめた。
次の瞬間、炎を放つ零式翼龍がエミリアの首を捉え、炎が広がった。
「うわぁぁぁぁ!!!!まだ死にたくなぁぁぁぁい!!!!」
首を少しずつ確実に斬り進める炎を放つ零式翼龍を見るエミリアは泣きながら悲鳴を上げた。
「お前の!!負けだぁぁぁぁ!!!!」
炎を放つ零式翼龍を握り込んだクロウゼウは叫びながら力を込め続けた。
(熱い・・・!!助けて・・・助けて!!)
エミリアの祈りは虚しく、炎を放つ零式翼龍がエミリアの首を刎ねた。
「ウッ・・・」
クロウゼウは勢い余って倒れ、赤熱した零式翼龍が転がった。
「・・・勝った・・・魔塊眷属に・・・」
上位組織員2は首から液状闇を噴き出すエミリアを見て唖然としながらそう言った。
(私はまだ死なない・・・こいつにだけは負けてたまるか・・・)
エミリアは首を再生させ、手足を千切り、クロウゼウに向かって歩き始めた。
「ま、不味いぞ!奴にライトを当てるんだ!急げ!」
部隊員たちはサーチライトを操作しながら言った。
「こいつにだけは・・・」
エミリアはクロウゼウを見てそう言うと、足を踏み込み、拳を振ろうとした。
しかし、その瞬間、エミリアは踏み込んだ足から崩れた。
(どうして・・・)
目を見開いたエミリアはクロウゼウを見た。
「言っただろ・・・?お前の負けだって・・・」
口から血を垂らすクロウゼウは崩れるエミリアを見て笑みながら言った。
「ヌギュアァァァァァァァァ!!!!」
体が崩れるエミリアは地面に倒れ、体が砕けてエミリアの頭が転がった。
転がったエミリアの頭は月を見た。
「ふざけるなッ!!私は!私はまだ負けてない!!負けて・・・」
必死に怒鳴るエミリアの頭が崩れ、灰になって消えた。
(・・・どうしてだよ・・・勝ったのに・・・辛くて悲しいよ)
クロウゼウは涙を流した。
同年、六月二十六日。
戦いから一夜明け、梨々香の所にエミリア討伐の知らせが届いた。
「そうか。クロウゼウがエミリアを・・・」
梨々香は壊れた神核を見てそう言うと、灰色のスライムのような物体を見た。
「はい」
灰色のスライムのような物体は梨々香を見てそう言った。
「その姿・・・久しぶりに見ましたよ。衝撃吸収に優れた浄化精霊、スライム・・・でしたっけ?」
梨々香は灰色のスライムのような物体を見てそう言った。
「スライムはミーツェン様の眷属。私は粘着性に優れた浄化精霊ドーフの長、ドーフです」
「ドーフに関しては見分が浅く・・・」
眉を顰めた梨々香はドーフを見て笑みながら言った。
「スライムは界の至る所にいますが、ドーフはこの俗世だけ・・・スライムは転生者すら知っていますし?どうせドーフなんて一つの俗世の極一部の地域でしか生活できないドマイナー精霊ですよ・・・」
ドーフは落ち込みながら言った。
梨々香が困っていたその時、ドアが開き、フラフラのヴェルベサが入って来た。
「梨々香お兄ちゃ~ん・・・あいつズルいよ~・・・」
目を回すヴェルベサは椅子に座り込んでそう言った。
「見つけたか」
梨々香はそう言いながら手紙を机の上に置いた。
「あいつがピンチになるとお義姉さんが表に出てくるんだもん・・・神技喰らって死にかけた~・・・」
ヴェルベサは足をバタつかせ、ぐずぐず拗ねながらそう言った。
「----の技は強力だからね。回復不足で力が九割減少していることを考慮しても、ヒルデガルト王女に匹敵するくらい強い」
お茶を淹れる梨々香はヴェルベサを見て笑みながら言った。
「ほぼ完全抑制状態であれ?どうなってるんだよ・・・流石剣王夫婦」
ヴェルベサは梨々香を見てそう言った。
「挑んでみよっ!とか簡単に考えるんじゃなかった・・・」
ヴェルベサは机に突っ伏しながら言った。
「・・・なんだろう・・・僕は今、とっても悔しい・・・利用されてる気がして仕方ない・・・」
青眼のリベードリヒは頭を抱えてそう言った。
「自由に使える器が欲しいんでしょ?黙って利用されなよ」
「・・・ここまで来たらお前を信じて言うとおりにするしかない・・・」
リベードリヒはそう言うと、立ち上がった。




