ローナミア・フィエンゼ編 十章 明日を夢見て。
午前十一時。
アージヴァイズたちを乗せた船はイクイノックスの艦首にあるハッチから艦内に入った。
「山下!」
アージヴァイズはゆかりを見て笑みながらそう言った。
「止まると渋滞になるので乗艦許可証は事前に出しておいてください」
ゆかりはアージヴァイズたちを見てそう言った。
「あぁ、悪い悪い」
アージヴァイズはそう言いながら乗艦許可証を取り出した。
「で、これをどうすれば良いんだ?」
アージヴァイズはゆかりを見て笑みながらそう言った。
ゆかりは黙って携帯端末で乗艦許可証を読み取った。
「はい、次」
ゆかりはオレンジを見てそう言った。
「ど、どうなってるの??」
オレンジは乗艦許可証を見せながらそう言った。
ゆかりは携帯端末で乗艦許可証を読み取った。
招待されたメンバーが神軍拠点艦一番艦イクイノックスに乗艦すると、牛たちが出迎えた。
「・・・う、牛・・・」
ローランは小さな放牧場に居る牛たちを見てそう言った。
「絶滅種と言われる牛だな・・・」
クリスティーナは放牧地に居る牛たちを見てそう言った。
招待されたメンバーは部隊長級組織員についていき、組織員専用の高速エレベーターに乗って生活区域へ移動した。
「ようこそお越しくださいました」
梨々香は招待されたメンバーを見て笑みながら言った。
(余裕があり過ぎる・・・持ち物検査もしてないのに・・・)
ローランは梨々香を見つめた。
「ど、どうも。レムフィト国元総帥、クリスティーナ・オブ・クーパーです」
少し緊張するクリスティーナは梨々香を見てそう言った。
「梨々香という者です」
梨々香はクリスティーナを見て笑みながらそう言うと、お辞儀した。
「ベルコントさんたちは艦内を自由に見学していてください」
梨々香はアージヴァイズたちを見て笑みながら言った。
「マジ!?」
アージヴァイズは梨々香を見て笑みながら言った。
「行こうぜ!!」
アージヴァイズが嬉しそうに言うと、アージヴァイズたちが探検を始めた。
「クーパーさん、ローランさん、部屋を用意しているのでそこで話をしましょう」
梨々香はクリスティーナとローランを見て笑みながら言った。
一室へ移動すると、梨々香が話し始めた。
「レミリア総帥とレムフィト議会の意向により、レムフィト基地及び十七ヶ所の基地と五十一州の権限が一時的ではありますが神軍に渡りました」
梨々香はアージヴァイズたちを見てそう言った。
「え!?そ、そんなにも!!」
冷や汗をかいたローランは梨々香を見てそう言った。
「レムフィト全体の権利を握っているようなものじゃないですか・・・」
冷や汗をかいたローランは少し焦りながらそう言った。
「権利が渡って喜べるような状況であれば良かったのですがね・・・」
梨々香はタブレット端末を見ながらそう言った。
「・・・」
ローランは気まずそうに黙り込んだ。
「本日は少し世間話をしたくてここへ呼んだんです」
梨々香はクリスティーナとローランを見てそう言った。
「雑談・・・ですか?」
ローランは梨々香を見て怪訝な表情をしながらそう言った。
「はい。世間話です。これからフィトナーゼ総帥はどう動くか、とか」
梨々香はクリスティーナとローランを見て笑みながらそう言った。
「ど、どう動くか・・・ですか?」
冷や汗をかいたクリスティーナは考えながらそう言った。
「はい」
「そうですね・・・レムフィト皇族の末裔ですからね。きっと、偉大なるレムフィト皇国を取り戻してくれるでしょう」
クリスティーナは梨々香を見て笑みながらそう言った。
「ベネトさんはどう思いますか?」
梨々香はローランを見て笑みながらそう言った。
「私はそうは思いません。現実的に考えて、東和連合の圧力に負けるでしょう。レムフィトは何も変わらないと思います」
ローランは梨々香を見てそう言った。
「お二方は考え方がかなり違うんですね。近しい立場であったのに少し不思議です」
梨々香はクリスティーナとローランを見て笑みながらそう言った。
「私は夢や理想を語ったりするタイプなんです」
クリスティーナは梨々香を見て少し恥ずかしそうに言った。
「夢や理想ですか。クーパーさんの夢や理想とは何ですか?ベネトさんにも夢や理想はありますか?」
「レムフィト皇国で生活することを私はずっと夢見て来ました」
「レムフィト皇国ですか。私の友人がとてもいい場所だと話しておりましたよ。私も一度は観光してみたかったですね・・・」
梨々香はクリスティーナを見て笑みながらそう言った。
「皇国の文化が広がった世界でのんびりと暮せたら幸せだろうな・・・と、若い頃はよく考えていました」
クリスティーナは梨々香を見て嬉しそうに言った。
「ベネトさんは夢や理想はありますか?」
梨々香はローランを見て笑みながらそう言った。
「夢や理想ですか・・・」
ローランは梨々香を見てそう言うと、少し考え始めた。
「・・・家族とのんびり暮らすこと・・・それが私の夢ですね」
ローランは梨々香を見てそう言った。
「ノエラ・ベネトの妹でしたっけ?」
「姉さんを知っているんですか!?」
ローランは梨々香を見て食い気味に言った。
「えぇ、九十六年八月二日、神軍ジェマノ島拠点所属の戦闘艦がゼグヒース一番姫と交戦したという記録がありましてね」
梨々香はローランを見てそう言った。
「・・・」
ローランは黙って少しうつむいた。
「・・・結果は?この子の姉はどうなったんですか?」
冷や汗をかいたクリスティーナは梨々香を見てそう言った。
「攻撃を受けて海に不時着。体の骨が複数折れていましたが、意識がはっきりした状態で救命船に引き上げられました」
梨々香はクリスティーナを見て笑みながらそう言った。
「姉さんは!姉はまだ生きているんですか!?」
ローランは梨々香を見て驚きながらそう言った。
「えぇ、生きていますよ。今はジェマノ島拠点で生活しています」
梨々香はローランを見て笑みながらそう言った。
「・・・良かった・・・」
ローランは安堵しながらそう言った。
「・・・No.3は月浜の秘密を知る第一世代疑似神姫です。月浜がそう簡単に逃がすとは思えません」
冷や汗をかいたクリスティーナは梨々香を見てそう言った。
「大丈夫です。ジェマノ島拠点は神軍幹部第一位の管轄ですから
梨々香はクリスティーナとローランを見て笑みながらそう言った。
一方、アージヴァイズたちは艦内にある展示室に来ていた。
「綺麗な子だね」
夜見の少女という名前の黒い髪の少女が描かれた絵画を見ていたオレンジはグリードリヒを見て小声でそう言った。
「ね」
グリードリヒは絵画・夜見の少女を見て小声でそう言った。
「古い扇子だ・・・」
レイチェルは古い扇子を見て小声でそう言った。
「神里 三葉って誰?」
古い扇子を見たオレンジはオルガを見て小声でそう言った。
「燦水天狐族燦水衆出身の有名な剣士らしいよ」
パンフレットを持ったオルガはオレンジを見て小声でそう言った。
「ふーん」
オレンジは扇子を見て興味なさそうに言った。
「聞いてきたのあんたじゃん・・・」
眉を顰めたオルガはオレンジを見てため息交じりにそう言った。
「すごい!このティーカップ絶対高いよ!」
エコーは夜空色のティーカップを見て笑みながらそう言った。
「シュテルンヒンメルって名前なの?なんかカッコいい」
キャロルは夜空色のティーカップを見て笑みながらそう言った。
「どういう意味かは書いてないね」
パンフレットを持ったジュリアはパンフレットを見ながらそう言った。
「シュテルンヒンメルっていう神様がいたんでしょ?」
キャロルはジュリアを見てそう言った。
「そんな神様聞いたことないけどね・・・」
パンフレットを持ったジュリアはキャロルを見てそう言った。
一方、梨々香はローラを自室に呼び、話をしていた。
「君には逸材を見つける才能がありますね」
梨々香は黄色の浴衣を着たローラを見て笑みながら言った。
「身に余るお言葉・・・感謝いたします」
ローラは梨々香を見て笑みながら言った。
「中々に面白い人たちだ」
梨々香はタブレット端末の画面を見てそう言った。
「・・・陛下!」
ローラは梨々香を見てそう言った。
「どうした?」
梨々香はローラを見て笑みながら言った。
「私、もっと強くなりたいです!この手でもっと多くの生き物を守りたいです!」
「・・・照赫の加護を受ければ、今の困難が小さな砂粒に思えるほどの困難に襲われることになる。君はそれでも力を求めるのかい?」
梨々香はローラを見てそう言った。
「私はこの命が戦禍の中で尽きようと、決して倒れないと誓います!」
ローラは頭を下げてそう言った。
「その向上心はとても素晴らしい」
梨々香はローラを見て笑みながら言った。
「良いだろう。君を勇者として認める」
梨々香は笑みながらそう言うと、手を広げた。
「・・・」
ローラは驚きながら陽光を見つめた。
梨々香は最上大業物断暗万陽を生成し、落とした。
落とされた最上大業物断暗万陽はローラの手に納まり、鞘の飾りにはめ込まれた曙陽聖晶が光り輝いた。
同年、一月二十八日。
橘 ひよりがレミリアに呼ばれてディールズ貴国に来ていた。
ディールズ貴国
大陸に存在する唯一の永世中立国。
古来より世界経済の中心であり、世界最大の経済力を持つ。
「・・・た、高い・・・」
ひよりはビルを見上げて怯えながら言った。
「ぜ、全部ディールズリズだ・・・」
ひよりは売り物を見て怯えながら言った。
「橘殿ー!こっちです」
レミリアはひよりを見て手を振りながら大声でそう言った。
「フィトナーゼ総帥」
ひよりはレミリアを見て安心したようにそう言うと、レミリアに駆け寄った。
「何の御用で?」
ひよりはレミリアを見てそう言った。
「東和連合脱退の手続きをするために呼びました。国際裁判所に行きますよ」
レミリアはひよりを見て笑みながらそう言った。
「・・・は?」
ひよりは唖然としながらそう言った。
「国際裁判所です。東和連合脱退の手続きです」
「何言ってるの?そんな用事なら行かないわ」
ひよりは鼻で笑ってそう言うと、去ろうとした。
「出席しないと召集に応じなかったとして通貨の信用が下がりますよ?」
レミリアが笑みながらそう言うと、ひよりが足を止めた。
「・・・」
ひよりは冷や汗をかきながらレミリアを見た。
ひよりは渋々国際裁判所に行った。
国際裁判所に来たひよりは借りてきた猫のように大人しい。
「レムフィト国が東和連合から脱退するっていうことでよろしいですねー?」
気だるそうな職員は素早く書類を用意しながらそう言った。
「はい」
レミリアは職員を見て笑みながらそう言った。
「そ、その・・・応じないとダメですか?」
冷や汗をかいたひよりは職員を見てそう言った。
「残ってほしい理由が戦争絡みなら応じてもらわないとですねー」
気だるそうな職員はひよりを見てそう言った。
「・・・応じないとどうなるんですか?」
「東和連合の場合ですとー」
気だるそうな職員はファイルにまとめられた素早く書類を捲りながらそう言った。
「為替取引中止ですねー。簡単に言うと、橘花国リズがただの紙切れになりまーす」
気だるそうな職員はひよりを見てそう言った。
「な・・・何とかなりません?」
冷や汗を垂らすひよりは職員を見て笑みながらそう言った。
「なりませーん」
「・・・」
冷や汗を垂らすひよりはペンと書類を見つめた。
こうして、レムフィトは正式に東和連合から脱退した。
そして、帰り際にレミリアはひよりに脅しをかけた。
「変なちょっかいかけないでくださいね?」
レミリアはひよりを見て笑みながらそう言った。
「・・・」
ひよりはレミリアを睨んだ。
「変なちょっかいをかけると、私たちが持ってるディールズ貴国発行、大陸東部土地権利証を使ってうっかり土地代を請求してしまうから知れませんから」
「・・・」
ひよりは目を見開き、冷や汗を垂らした。
「では、お疲れ様でした~」
レミリアはそう言いながら去っていった。
「・・・」
ひよりは拳を握り込んで歯を食いしばった。
同年、一月二十九日。
神軍幹部ローラがレムフィト基地を管理し始めたことで基地内に神軍が使う最新の設備が用意された。
しかし、それと同時に多くの軍人に退役が言い渡された。
重役であろうと容赦なく退役となり、文句を言った重役は解雇という形で追い出された。
アージヴァイズたちも退役となる予定だったが、アージヴァイズたちの意向で残ることになった。
一方、レミリアはフィトナーゼ家の副従者長から報告を受けていた。
「旧王宮と旧議会堂を再建するために集まった寄付金の額は、現在二百五十万ディールズリズです」
フィトナーゼ家の副従者長、シルフィはレミリアを見てそう言った。
「歴史的建造物なだけあってすごい寄付額だね」
レミリアは情報が送られてくるタブレット端末を見て笑みながらそう言った。
「レムフィト土地権利証とか大陸東部土地権利証とか、国を一瞬で終わらせられるような権利を残してくれた歴代当主様たちマジ有能」
レミリアはタブレット端末を見て嬉しそうに言った。
同年、一月三十日。
梨々香はリベードリヒと共に酒を飲んでいた。
「また梨々香とお別れか・・・」
杯を持ったリベードリヒはそう言うと、純米酒を飲んだ。
「今までと比べたら、とても短い時間ですよ」
杯を持った梨々香はリベードリヒを見て笑みながら言った。
「・・・確かに長かった・・・いくつもの種が栄え、滅びる時を見て来た」
リベードリヒは杯に入った純米酒を見てそう言った。
「救わなければ良かった・・・という考えが脳裏に過る時ほど悲しい瞬間はない」
杯を持ったリベードリヒは杯に純米酒を注ぎながらそう言った。
「そして、その繰り返しが私を壊していった・・・」
杯を持ったリベードリヒは純米酒を見てそう言うと、純米酒を飲み干した。
「頼れないと言うのは大変ですよね」
杯を持った梨々香はリベードリヒを見てそう言った。
「そう・・・大変だった」
杯を持ったリベードリヒは梨々香を見て笑みながら言った。
「・・・私の夢に・・・本当に最後まで付き合ってくれますか?」
杯を持った梨々香はリベードリヒを見てそう言った。
「何のために生きてきたと思ってんのさ。付き合わせてよ」
「梨々香の夢は、どれだけ多くの者を殺し、どれだけ多くの者を救うんだろうね。新たなる始まりを楽しみにしているよ」
リベードリヒは杯を掲げてそう言った。
晩酌を終えたリベードリヒが店から出ると、外で待っていたウェンディがリベードリヒを見た。
「良い夢を見れそうだ」
リベードリヒは空を見て笑みながらそう言った。
「・・・六合様。やはりこのようなことは無茶としか」
ウェンディはリベードリヒを見て怒りが籠った声でそう言った。
リベードリヒが笑うと、ウェンディが冷や汗をかいた。
「ウェンディ、梨々香が怖いのかい?」
リベードリヒはウェンディを見て笑みながら言った。
「・・・怖いですよ・・・とても」
ウェンディはリベードリヒを見て悔しそうに言った。
「彼は術に依存して怠けることなく己を磨き、技を磨き、今も努力を重ね続けている」
リベードリヒはそう言うと、ウェンディに背を向けた。
「彼を知れば何も怖いことはないとわかります。梨々香とゆっくりと話し合いなさい」
リベードリヒはウェンディを見て笑みながらそう言うと、どこかに歩き始めた。
一方、梨々香の所にはローラが来ていた。
「・・・陛下」
ローラは梨々香を見てそう言うと、真剣な表情で梨々香を見つめた。
「・・・どうしたんだい?」
二つの杯を寂しそうに見る梨々香は一言そう言った。
「・・・・・・信用し過ぎるというのは、悪いことでございます。もしも裏切りでもしたら・・・」
ローラがそう言うと、少しの静寂は訪れた。
その静寂は梨々香の笑い声によって砕かれる。
「彼女が出した最善の策がそれならば、彼女がそれで幸せになれるなら受け入れるよ」
梨々香はローラを見て笑みながら言った。
「そ、そんな・・・」
驚くローラは梨々香を見てそう言った。
「まぁ、彼女はそこまで愚かじゃありませんがね」
梨々香はローラを見て笑みながらそう言うと、立ち上がった。
同年、二月二日。
残った軍人たちは神軍訓練組織員として再スタートした。
訓練組織員になったアージヴァイズたちは模造刀と脇差をベルトに差し、飲食物や夜間行動に使う用品が入ったリュックを背負い、行動訓練に臨んだ。
重量はニ十キロ近く、激重だ。
「ふ、ふざけんなよ・・・!!こんなことしなくてもいいだろ!!」
アージヴァイズは走りながら叫んだ。
「いいよいいよ!いい調子だよ!」
部隊長級組織員柄1は走るオレンジとエコーとミッケを見て笑みながら言った。
一方、リベードリヒは木々生い茂る森を走っていた。
「逃がさんぞ!!」
木々を飛び渡りながら移動する青眼、白い狐耳に白髪ロングヘア。白い着物を着た女性はリベードリヒを見て笑みながら言った。
(やっと見つけた・・・もう一人の華千﨑・・・)
「騒めく!胸が騒めく!歓喜の騒めきだ!!」
青眼、白い狐耳に白髪ロングヘア。白い着物を着た女性は笑みながらそう言うと、リベードリヒに飛びかかった。
この時を待っていた。
リベードリヒを掴んだ青眼、白い狐耳に白髪ロングヘア。白い着物を着た女性はリベードリヒと崖を転がり、古い棺に激突して止まった。
青眼、白い狐耳に白髪ロングヘア。白い着物を着た女性はリベードリヒの首に指を突き刺すと、力を注いだ。
青眼、白い狐耳に白髪ロングヘア。白い着物を着た女性が人形のように転がると、リベードリヒが起き上がった。
「体が軽くなった・・・これが良質な器か」
勢いよく立ち上がった青眼のリベードリヒは手を交互に握り、笑みながら言った。
「こんなゴミみたいな器とはおさらばだ!!」
リベードリヒは転がった青眼、白い狐耳に白髪ロングヘア。白い着物を着た女性を見て笑みながらそう言うと、首を踏み潰した。
「フハハハハハ!」
リベードリヒは大笑いした。




