ローナミア・フィエンゼ編 八章 恩神
午後七時。
リリーたちは配給を食べながら話をしていた。
「神軍の飯マジで美味いな!」
フォークを持ったアージヴァイズは笑みながらそう言った。
「またこのトマトスープが飲めるなんて・・・」
オレンジはトマトスープを見てうっとりしながら言った。
「ウマッ!なんじゃこりゃ!」
スプーンを持ったグリードリヒはトマトスープを見て驚きながら言った。
「このスープ・・・」
スプーンを持ったレイチェルはトマトスープを見てそう言った。
「これ、アディさんが作ってくれた・・・」
スプーンを持ったキャロルはトマトスープを見て笑みながら言った。
「アディさんって神軍幹部第四位だよな」
スプーンを置いたアージヴァイズはパンを持ちながらそう言った。
「うん。アディさんは元々月浜の開発局に居た人だったんだけど、その時すごく良くしてもらってさ」
レイチェルはアージヴァイズを見て笑みながら言った。
「基地の外に行けたのも、美味しいお酒があるって知れたのも、美味しいご飯があるって知れたのも、全部アディさんのおかげなんだ」
レイチェルはトマトスープを見て笑みながらそう言った。
-回想-
千六百六十二年、四月二日。
疑似神姫の操縦士になったカレンたちは基地内で退屈な日々を過ごしていた。
「・・・つまんないなぁ~・・・」
カレンはベランダに来た小鳥を見てそう言った。
「・・・」
震える手で缶の酒を持ったレイチェルは黙ったまま酒を飲んだ。
「酒クセェな・・・」
オルガはレイチェルを見て嫌そうに呟いた。
「・・・」
レイチェルは空の缶を振ると、缶を握り潰した。
その時、ドアが開いてローラが入って来た。
「随分と荒れてるな。新人」
酒瓶を持ったローラはカレンたちを見て笑みながら言った。
「アディ博士!」
立ち上がるカレンはローラを見て笑みながら言った。
「新人」
酒瓶を持ったローラはレイチェルをの隣に座ってそう言った。
「・・・」
レイチェルはローラを見た。
「辛い時は美味いやつで一杯やる。これに限る」
酒瓶を机の上に置いたローラは笑みながらそう言った。
「・・・」
レイチェルはレムフィト式ワインを見た。
南龍朝廷歴千六百五十一年、フィトナーゼワイナリーにて醸造。
銘柄 フィトナーゼ・レッド。
保管状態 良好。
色 赤。
価格 五十リズ。
「グラスはあるかい?」
ローラはカレンたちを見て笑みながら言った。
「おしゃれなグラスはちょっと・・・」
オルガはローラを見てそう言った。
「洒落っ気なんていらないよ。気取ると疲れてしまうからね」
ローラはオルガを見て笑みながら言った。
カレンたちはワインを飲み、驚いた。
「こ、こんなにも違う・・・」
レイチェルはワインを見てそう言った。
「良いか?これが本物の酒だ。お前らが酒って呼んでるのは、酒と名付けられた化学薬品だ」
グラスを持ったローラはカレンたちを見て笑みながら言った。
「これが本当のお酒・・・」
グラスを持ったオルガはワインを見て驚きながらそう言うと、ワインを飲み干した。
「そうだ。広い土地で自由に育った果実や穀物だけを使って酒は造られる」
ローラはグラスに入ったワインを見て笑みながら言った。
「今日は無礼を気にせず話そうじゃないか」
ローラはカレンたちを見て笑みながら言った。
ローラはカレンたちに話を振り、悩みなどを聞いた。
レイチェルは戦闘が苦痛であること、幻聴に悩んでいること、夜には必ず悪夢を見ることを打ち明け、ローラに泣きついた。
「嫌なんだ怖いんだ!悲鳴が聞こえるんだ!銃声が聞こえるんだ!自分がやったから考えちゃうんだ!寝てる間にロケット弾や焼夷弾を打ち込まれたらどうしようって!絶対に怖かっただろうし、痛かっただろうし!怖くて仕方ないんだ!!」
ローラに抱きついたレイチェルは泣きながら叫んだ。
「誰も同情してくれないし、わかってくれないし、この世界はどうなってるんだよッ・・・!」
レイチェルは泣きながら叫び続けた。
「君はとても優しい子だ」
ローラはレイチェルの頭を撫でながら言った。
「他者を傷つけて辛いのは当然だ。他者を殺して怖くなるのは当然だ。君は正常だ」
ローラはレイチェルを抱きしめながら言った。
同年、四月三日。
カレンたちはローラに連れられ、初めて基地の外に出た。
ローラが来ると、八百屋も魚屋も肉屋も酒屋も隠していた高級品を出す。
カレンたちは野菜と海鮮と肉を網で焼き、網焼き料理と共に天星麦酒を味わった。
酒を飲み終えると、ローラは決まって特製トマトスープを作った。
そして、そのトマトスープをみんなで食べた。
「美味しい!」
箸を握ったレイチェルはトマトスープを見て笑みながら言った。
「橘花国の句道湖で獲れたシジミをたっぷり入れたトマトスープ。これが酒を飲んだ後の楽しみなんだよ」
箸を握ったローラはシジミ貝を見て笑みながらそう言った。
「確かに、めっちゃ楽しいです」
箸を握ったキャロルはローラを見て笑みながら言った。
-回想終了-
「そうか・・・良いやつなんだな。神軍幹部第四位は」
アージヴァイズはレイチェルを見て笑みながら言った。
「うん、すごくいい神様」
レイチェルはアージヴァイズを見て笑みながら言った。
「六龍の一角、雷壊龍は自由を唄う者として有名です」
梨々香はリリーたちを見て笑みながら言った。
「カルジェルド陛下」
アージヴァイズたちは梨々香を見てそう言った。
「カルジェルド陛下?」
グリードリヒたちはアージヴァイズたちを見てそう言った。
「カルジェルド陛下!?」
グリードリヒたちは梨々香を見て酷く驚きながら言った。
「初めまして。梨々香という者です」
梨々香はグリードリヒたちを見て笑みながら言った。
「会えるんだ・・・部隊長級に会うのは難しいって言われたのに・・・」
驚くグリードリヒはそう言った。
「あの・・・六龍って何ですか!?」
カレンは梨々香を見て笑みながらそう言った。
「なんか、考古学というか!そいう言う匂いがするんですけど!!」
カレンは目を輝かせてそう言った。
「六龍は龍神の眷属です。神と呼ばれることが多いですが、正確には幻獣です」
梨々香はカレンを見て笑みながら言った。
「・・・」
湯飲みを持ったリリーは梨々香を見ながらお茶を飲んだ。
「幻獣!?」
そう言うカレンは増々目を輝かせる。
「あの・・・勢力図というか、強さランキングというか、そう言うのあるんですか?」
ジュリアは梨々香を見てそう言った。
「ありますよ」
梨々香はジュリアを見て笑みながら言った。
「・・・」
ジュリアは梨々香を見て目を見開き、頬を紅くした。
「聞きたい!!一番つえぇ神の話!!」
アージヴァイズは梨々香を見て笑みながら言った。
「一番強い神・・・と言うのは二柱います。森羅と六合、六合の方は聞いたことあるんじゃないでしょうか」
梨々香はアージヴァイズたちを見て笑みながらそう言った。
「六合は聞いたことあります」
カレンは梨々香を見て考えながらそう言った。
「六合は私の妻に宿り、森羅は気が遠くなるほど遠い遠い昔、とある少女に宿りました」
「少女?」
「アティア・ルイゼ・ライズ・ゼン。略してアティア・ゼンと呼ばれていたようです」
「な、なんて?」
アージヴァイズたちは梨々香を見て困惑しながらそう言った。
「アティア・ルイゼ・ライズ・ゼンだって」
ジュリアはアージヴァイズたちを見てそう言った。
「・・・どうなってんだ??」
アージヴァイズはジュリアを見てさらに困惑しながらそう言った。
「聴こえないというか・・・なんか・・・わからない・・・」
冷や汗をかいたオレンジはジュリアを見てそう言った。
「疑似神気エネルギーはアティア・ゼンの力が籠ったアティア・ゼンの創造物から生成されたものです。人であろうと神であろうと、俗世に属している者が制御できるものではありません」
梨々香はグリードリヒたちを見てそう言った。
「あ、あの名前って私たちにしか聞こえてないんですか??」
驚くグリードリヒは梨々香を見てそう言った。
「聴こえてない」
湯飲みを持ったリリーがそう言うと、アージヴァイズたちがリリーを見た。
アージヴァイズたちがリリーに注目する中、リリーは変化を解いた。
「・・・」
湯飲みを持ったリベードリヒはお茶を飲んだ。
その瞬間、神軍の組織員たちが慌てて食堂から出た。
「う、嘘だろ・・・」
アージヴァイズはリベードリヒを見て驚きながら言った。
「お、お前は・・・!!」
リベードリヒを見たレイチェルは急いで立ち上がってそう言った。
「ウッ・・・!!」
グリードリヒとジュリアはリベードリヒを見て嘔吐いた。
「な、何だよ・・・!」
アージヴァイズたちはリベードリヒとグリードリヒたちを交互に見ながら言った。
「と、トラウマがぁ・・・トラウマがぁ~・・・」
グロッキーになったグリードリヒとジュリアはそう言いながらレイチェルに抱きついた。
「こ、この神様がこの世界を生み出した神で、神がボスで・・・どういうこと!?」
エコーは困惑し、驚きながら言った。
「というか!いつから入れ替わったんだ!?本物のリリーは!?」
困惑するアージヴァイズはリベードリヒを見てそう言った。
「最初から私。時々梨々香が変化していたけれど」
リベードリヒはアージヴァイズを見てそう言った。
「はぁ!?ま、マジかよ・・・リリーが・・・こんなに・・・」
アージヴァイズは梨々香を見て驚きながら言った。
「私の親族を参考にして変化していたんです。騙してしまって申し訳ありません」
少し困惑する梨々香はそう言うと、リリーに変化した。
「・・・」
アージヴァイズたちは二人のリリーを交互に見て完全に固まった。
「というか、カルジェルド陛下と六合はどういう関係なんだ?」
アージヴァイズは梨々香とリベードリヒを見てそう言った。
「夫婦ですよ。リベードリヒはとある事情で本来の姿になれないだけで、本来の姿は大人です」
梨々香はアージヴァイズを見て笑みながらそう言った。
「はぁ・・・」
ジュリアは静かに落胆した。
「あの・・・それで・・・どうして私たちにしか聞こえないんですか?」
カレンは梨々香を見てそう言った。
「・・・それは疑似神姫が魔塊眷属や闇化生物に近い存在だからです」
言い渋るように少しの間黙った梨々香はグリードリヒたちを見てそう言った。
「で、でも!私たちはもう疑似神姫じゃないですよ!?」
冷や汗を垂らすカレンは梨々香を見てそう言った。
「どこかに力塊を埋め込まれた。だから、コアと疑似神気エネルギーを体から取り出しても通常聞き取れない言葉が聞き取れる」
リベードリヒはカレンを見てそう言った。
「・・・どこかって?」
グリードリヒはリベードリヒを見てそう言った。
「例えば、脳とか」
リベードリヒがそう言うと、グリードリヒたちが頭に触れた。
「アティア・ゼンの名前を知っている奴は今もこの俗世にいます。そいつを倒せば力塊は消え去るでしょう」
梨々香はグリードリヒたちを見てそう言った。
「その後は?中に空洞できたりとかしません!?」
焦るオルガは梨々香を見てそう言った。
「大丈夫です。神は再生力が非常に高いので」
梨々香はオルガを見て笑みながらそう言った。
「そいつ、つえぇのか!?」
アージヴァイズは梨々香を見て笑みながらそう言った。
「強いです。今の私たちではどうしようもできないくらい・・・」
梨々香はアージヴァイズを見て少し悔しそうに言った。
「・・・」
アージヴァイズたちは梨々香を見て冷や汗をかいて黙り込んだ。
「私たちはそろそろ帰りますね」
梨々香はアージヴァイズたちを見てそう言った。
「あ、あぁ・・・」
アージヴァイズは梨々香とリベードリヒを見てそう言った。
「また会える?」
グリードリヒはリベードリヒを見てそう言った。
「会えるよ。私たちの縁はそう軟なものじゃない」
リベードリヒはグリードリヒを見て笑みながらそう言った。




