レディフ・フィアンゼ編 終幕 長期休暇が訪れる。
同年、十月十九日。
リリーが用事を終えてレムフィト基地に戻って来た。
アージヴァイズは完全に戦意喪失、オレンジは昏睡状態。エコーは戦役復帰が見込めないほど重度の鬱。
月浜打撃軍のメンバーは不安で胸一杯。
全て最悪な状態だ。
「ケイト・クイーンアイと対峙したなら無理もない」
廊下を歩く赤いフリルが付いた黒いワンピースで身を包んだリリーはローランを見てそう言った。
「何か・・・治す方法とかありませんか?」
リリーの横を歩くローランはリリーを見てそう言った。
「ある」
リリーは前を見てそう言った。
「あるんですか!?」
ローランはリリーを見て嬉しそうに笑みながら言った。
「しっかり栄養を補給して、しっかり人と話して、しっかり寝る。これが早く治す技だ」
リリーはローランを見て笑みながら言った。
「あぁ・・・根性論ってやつですか・・・ブラック社長の素質ありますよ」
ローランはリリーを見てガッカリしながら言った。
「食事、コミュニケーション、睡眠。全て生物に必要なことだ。これを軽視する奴は死ぬ」
リリーはローランを見てそう言った。
リリーとローランは月浜打撃軍の会議室に入った。
会議室にはミッケとグリードリヒたちと月浜打撃軍の軍人たちだけが居た。
「グローニア総長!!月浜打撃軍はどうなっちゃうんですか!?」
月浜打撃軍の軍人2はリリーに泣きつきながら言った。
「考えられるのは二つ」
リリーは月浜打撃軍の軍人2を見てそう言うと、月浜打撃軍の軍人2から離れ、椅子に座った。
「二つ・・・」
眉を顰めた月浜打撃軍の軍人1はリリーを見てそう言った。
「一つは主要メンバーの入れ替え」
リリーは月浜打撃軍のメンバーを見てそう言った。
「入れ替え・・・」
ローランたちはリリーを見てそう言った。
「アージヴァイズ、オレンジ、エコーをメンバーから外し、新しいメンバーを入れる。そうなれば、手っ取り早くグリードリヒたちの中から選ばれることになるだろう」
「私・・・必要ないっていうこと?」
エコーはリリーを見てそう言った。
「ご、ごめんね・・・どうしてもボスに会いたいって言うから・・・」
エコーの両肩に手を置いたレイチェルはリリーたちを見て苦笑いしながら言った。
「要らないっていうこと!?こんなに頑張ってるのに!!」
エコーはリリーを見て目を見開き、怒鳴った。
「この会議を起こした原因なのに元気そうだな。もう復帰かい?」
リリーはエコーを見て笑みながら言った。
「グローニア総長・・・」
眉を顰めたローランはリリーを見てそう言った。
「嬉しいこと、楽しいことはすぐ塗り替えられるのに・・・辛いこと、嫌なことは中々塗り替えれない」
リリーは手を組み、少し前傾姿勢になってそう言った。
「・・・」
リリーを睨んでいたエコーはリリーを見つめた。
「まぁ、経験って言うのは消せないんだよ。今日は良い日だ、今日は楽しい日だって・・・塗り替えて、誤魔化しながら生きるしかないんだ」
リリーはエコーを見てそう言った。
「・・・」
エコーは少しうつむいた。
「というわけで!二つ目の案を発表する!!」
リリーは月浜打撃軍のメンバーを見てそう言った。
「二つ目の案?」
月浜打撃軍のメンバーはリリーを見てそう言った。
「今日から月浜打撃軍は長期休暇に入る!!休暇期間は決めてない!!」
リリーは月浜打撃軍のメンバーを見て笑みながら言った。
「えぇぇぇぇ!?」
月浜打撃軍のメンバーはリリーを見て驚きながら叫んだ。
「困りますよ!!」
驚く月浜打撃軍の軍人2はリリーを見てそう言った。
「そうですよ!」
驚くローランはリリーを見てそう言った。
「職務が!!」「収入が!!」
ローランと月浜打撃軍の軍人2はそう言うと、顔を見合わせた。
「町で仕事でも探せ。大人だろ?」
眉を顰めたリリーは月浜打撃軍の軍人2を見てそう言った。
「職務は全員揃うまでしない」
リリーはローランを見て笑みながらそう言った。
「全員解散!!」
リリーは立ち上がりながらそう言った。
リリーはバルコニーにあるカフェへ行ってのんびりカフェオレを飲み始めた。
「あんま美味しくないな・・・」
コーヒーカップを持ったリリーはカフェオレを見てそう呟いた。
(休みか・・・久々に各国を巡るか)
リリーはボーっと空を見つめた。
その時、何者かがリリーの肩を叩いた。
「ん?」
リリーが振り返ると、リリーの頬に拳が当たった。
しかし、殴られたリリーは全く微動だにしない。
「・・・」
ドラインネスコの団長、マルグリット・ド・アルネゼデールは驚きながらリリーを見た。
「ここは予約席だったかな?申し訳ないね」
リリーはマルグリットを見て笑みながら言った。
「でも」
リリーはそう言うと、マルグリットの手首を掴んだ。
(こ、こいつ・・・なんて力・・・!!)
冷や汗をかくマルグリットはそう言いながらリリーの手を解こうと腕に力を入れた。
「ここはサウスドラゴニアじゃない。予約席に知らない人が座っていたとしても、殴ることは許されない」
怒筋を浮かべ、目を見開いたリリーは必死にもがくマルグリットを見てそう言うと、手を離した。
「・・・」
冷や汗を垂らすマルグリットは下がると、腕を押さえてリリーを見た。
「何の用かな?」
少し前屈みになり、軽く手を組んだリリーは冷や汗を垂らすサウスドラゴニア王族第七王位継承権保有者、マリーヌ・ド・イオネスコを見てそう言った。
「リ・・・リリー・グローニア・ハッゼウ!貴様を神軍に加担した罪で逮捕する!」
冷や汗を垂らすマリーヌはリリーを見てそう言った。
「何をどうやって加担したの?」
「そ、そんなこと説明する必要はない!!」
冷や汗を垂らし続けるマリーヌはリリーを見て怒鳴った。
「へぇ~」
リリーはマリーヌを見てそう言うと、姿勢を正してゼノクイーンネックレスを外した。
「き、貴様・・・!!何をする気だ・・・」
「ほいっ!」
リリーは笑みながらゼノクイーンネックレスを出入り口方面に投げた。
「ゼノクイーンネックレス!!」
マリーヌは投げられたゼノクイーンネックレスを見てそう言うと、マリーヌとマルグリットがゼノクイーンネックレスに向かって走った。
「って!安っぽ!!」
偽物のゼノクイーンネックレスを拾ったマリーヌはゼノクイーンネックレスを見て驚きながら言った。
「流石に知能無さすぎだろ」
リリーは笑いながらそう言うと、コーヒーカップを持ってカフェオレを飲んだ。
「ふ、ふざけやがって・・・!!」
偽物のゼノクイーンネックレスを握ったマリーヌはリリーを睨みながら言った。
「戦いたいというなら相手をしよう」
黒鞘に納まった刀を生成して握ったリリーはそう言うと、黒鞘に納まった刀で床を突いた。
マリーヌはマルグリットの背に隠れ、マルグリットはリリーを見て冷や汗を垂らしながら下がった。
「もうすぐ軍人たちがご飯を食べに来る頃だ。問題にしたくないなら去れ」
リリーがそう言うと、マリーヌとマルグリットが慌てて食堂から出た。
同年、十月二十二日。
大陸の北に寒波が到来し、停戦状態になった。
休暇を得た月浜打撃軍のメンバーたちは各々のんびり過ごし始めた。
リリーは一人ベラ・ジ・ルルへ向かうため、空港に来ていた。
空港は貸し切りになっていて、神軍組織員たちが集っている。
「・・・」
神軍部隊長級組織員柄1はリリーに敬礼した。
「・・・」
リリーは神軍部隊長組織員柄1を見て少し手を挙げ、会釈した。
「・・・」
リリーは髪留めを外し、黒いカッターシャツを着て黒いコートを羽織り、黒い長ズボンを穿いた梨々香に戻った。
梨々香は自家用ジェット機に向かって歩き始めた。
「少し待たせてしまったね」
梨々香はカスミ・ローゼ・カーリンを見て笑みながら言った。
「お、お待ちしておりました!」
緊張する青眼、黒髪ツインテール。白いカッターシャツを着て黒いリクルートスカートを穿いた褐色肌の少女、カスミ・ローゼ・カーリン神軍部隊長組織員乙は梨々香を見てそう言った。
「では、行こう」
梨々香はカスミを見て笑みながらそう言うと、自家用ジェット機に乗った。
「・・・」
少し緊張するカスミは操縦桿を握って操縦している。
「私は食に関して知見が狭い。お口に合っていると良いのですが」
杯を持った梨々香は見て笑みながらそう言うと純米酒を飲んだ。
「えぇ、とても美味しいです。流石はカルジェルド陛下と言わざるを得ません」
杯を持ったベラ・ジ・ルル皇国の皇女、シャーロット・ジ・ルルーシャは梨々香を見て笑みながら言った。
「カルジェルド陛下が我々ベラ・ジ・ルルの民に救済を約束してくださってからというもの、我々を苦しめた飢餓も疫病も内戦も全て収まり、恵みの国と言われた頃のベラ・ジ・ルルに戻ってまいりました。本当に感謝しております」
杯を持ったシャーロットは笑みながらそう言うと、純米酒を飲んだ。
「役に立てて光栄ですよ」
梨々香はシャーロットを見て笑みながら言った。
「・・・私たちの力は高祖母、メルーズ様の代から弱くなり、終には力がなくなってしまいました」
杯を持ったシャーロットは杯に純米酒を注ぐ梨々香を見てそう言った。
「力を失い、恵みをもたらせなくなった私たちは民からの信用を失い、没落した一族と呼ばれるようになりました・・・」
眉を顰めたシャーロットは少しうつむきながら言った。
「約束通り、君たちの一族始祖について話しましょう。きっと、何か見つかるだろう」
杯を持った梨々香はシャーロットを見てそう言った。
ベラ・ジ・ルルーシャ。
彼女は世の主六合と約束を結び、力を手に入れた。
彼女が得た力は、枯れ果てた大地に恵みをもたらした。
妖魔が引き起こす災禍から逃げた裏天の民は、ベラが創り出した深き緑に覆われた恵みの地に辿り着いた。
恵みの地の創造者であるベラは、裏天の民に崇められ、多くの民を束ねる統治者となった。
しかし、彼女が皇女の座について五千年が経過した時、天が崩れ、神気が降り注いだ。
世の主六合に召集された彼女は天から降り注ぐ神気が裏天の地を呑み込まないよう、神々と力を合わせ、奮闘した。
こうして、裏天の地を襲ったかつてない災禍は神々の奮闘によって収まりを見せた。
しかし、この戦いで命を落とした者は数多く、彼女も犠牲者の一人となった。
「・・・ベラ様は豊作の神だった・・・ということですか?」
シャーロットは純米酒を飲む梨々香を見てそう言った。
「そうですよ。元は幻獣でしたが、世の主六合との約束によって人の姿を手に入れ、神となったそうです」
杯を持った梨々香はそう言うと、杯を卓の上に置いた。
「幻獣・・・ですか」
シャーロットは梨々香を見てそう言った。
「その・・・六合?という神との約束って何ですか?」
「その力を使い、多くの者を飢えや病から救うこと・・・これが約束です」
「ですが・・・メルーズ様はとても民に寄り添い、民から最も尊敬されていたと聞きます」
「世の主が一方的に約束を破棄したんじゃ!?」
ハッとしたシャーロットは梨々香を見て大声でそう言った。
「その当時、何があったかご存知ですか?」
梨々香はそう言うと、杯を持って純米酒を飲んだ。
「と・・・当時・・・ですか?」
シャーロットは梨々香を見てそう言った。
「千五百三十八年。まだ妖魔と疫病が残っていた時代です」
杯を持った梨々香はシャーロットを見てそう言った。
「・・・すみません・・・詳しいことは何も・・・」
眉を顰めたシャーロットは梨々香を見てそう言った。
「ベラ・ジ・ルルが妖魔や疫病から逃げてきた者たちを拒絶した」
梨々香は机の上に杯を置きながら言った。
「・・・で、でも、何か事情があったんでしょう?メルーズ様はとても素晴らしい方だって!みんな言うんです!」
冷や汗をかいたシャーロットは梨々香を見てそう言った。
「その素晴らしい方の一言で数十万人、数十柱、数千頭の生き物が死んだんです」
梨々香はシャーロットを見てそう言った。
「それがベラ・ジ・ルル国民を守るための正義だったんですよ!」
「正義ですか。では、もうわかるのではないですか?なぜ力がなくなったのか」
「・・・」
梨々香を見つめたシャーロットは梨々香から目をそらした。
「あなたたちは正義のために力を与えた者との約束を破棄した」
梨々香はそう言うと、杯に純米酒を注いだ。
「・・・」
シャーロットは梨々香を横目で見て冷や汗を垂らした。
「約束を破棄したけどそのまま力を使わせてくれなんて、都合が良すぎると思いませんか?」
杯を持った梨々香はシャーロットを見てそう言うと、純米酒を飲んだ。
「・・・再び約束を結べば・・・力は復活するんですか?」
「厳しいことを言いますが、約束とは信頼があって初めてできます。あなたは約束を破った者と約束ができますか?」
「・・・」
シャーロットはうつむいて黙った。
「まぁ、過去の話はここまでにしましょう。これ以上気まずくなると大変ですから」
梨々香はシャーロットを見て笑みながら言った。
「・・・そうですね・・・」
少し元気がないシャーロットは梨々香を見てそう言った。