レディフ・フィアンゼ編 十二章 青き禍光に誘われ、氷鳥は現れる。
同年、十月十日。
アージヴァイズはエリーを呼び出すため、エリーの部屋へ行った。
急な訪問だったが、エリーは何も気にすることなくアージヴァイズを部屋に入れた。
「・・・」
桜色のもこもこパジャマを着たアージヴァイズは資料や設計図などが積み重なり、狭くなった部屋を見て驚いた。
「何か用?」
ペンを持ったエリーは資料を書きながら言った。
「・・・何してるんだ?それ」
アージヴァイズはエリーを見てそう言った。
「みより皇女陛下から受け継いだ新型戦姫の資料を作成してるんだよ」
「・・・一緒に訓練しないか?」
「しない。他の人を誘って」
「・・・お前は神軍って存在すると思うか?」
アージヴァイズは座りながら言った。
「さぁ?」
「まぁ、大体そうだよな・・・」
アージヴァイズはエリーを見てそう言った。
「でも、あり得ないことはないんじゃない?」
「そうなのか?」
「四十年以上前だけど、神の存在は確認されてるんだ。しかも、その神は大陸を壊滅させた」
「・・・大陸を・・・」
アージヴァイズはエリーを見て笑みながらそう言った。
「クリスティーナもローランも知ってることだよ。クリスティーナは家族を、ローランは仲間を失ったからね」
「・・・でも、基地長は神軍の存在を否定してたぞ」
「そんな神が集まってるって、信じたくないんだよ。まぁ、誰だってそうだと思う」
「・・・まぁ・・・」
アージヴァイズは少し考えながらそう言った。
「この件はめんどくさそうだから、深入りしたくない」
エリーはそう言いながらペンを進め続けた。
エリーの部屋から出たアージヴァイズはリリーに会うため、ジュリアたちの部屋へ行った。
しかし、リリーもジュリアたちも部屋に居なかった。
「・・・どこ行ったんだよ・・・」
アージヴァイズは部屋を見てそう言った。
「グローニア総長ならヤングブラッドさんたちの訓練を見てますよ」
資料を持った月浜打撃軍の軍人1はアージヴァイズを見て笑みながらそう言うと、歩いていった。
アージヴァイズがリリーを探して施設の外へ行くと、さっそく外にポツンと置かれたパイプ椅子に座って上空を見るリリーを見つけた。
「リリー」
アージヴァイズはリリーを見てそう言うと、リリーに近づいた。
「どうした?」
リリーはアージヴァイズを見て笑みながら言った。
「神軍って存在してると思うか?」
リリーの前で立ち止まったアージヴァイズはリリーを見てそう言った。
「それに近いもの、人知を超越したものは存在していると思ってるよ。少し考えればわかる事さ」
「少し考えれば?」
アージヴァイズはリリーを見てそう言った。
「今当り前に使われてる疑似神気エネルギーがどうやってできたのか、どうして精鋭級四位とも言われている疑似神姫が碌な防衛設備を持ってないレムフィトへの侵攻を躊躇したのか、多くの疑似神姫がクォーツ島沖を避けるのか、おかしいと思わない?」
「まぁ、そう言われると確かに・・・」
アージヴァイズは少し考えながら言った。
「なぁ、リリーは四十年以上前に神が確認されたってこと、聞いたことあるか?」
アージヴァイズはリリーを見てそう言った。
「・・・赤紫ノ龍神のことかな?」
リリーは少し考えてそう言った。
「赤紫ノ龍神・・・ってことは、龍の神なのか?」
「龍の神なんだろうね。何せわかってることが少ない。当時、月浜に降臨して強力な衝撃波で大陸を壊滅させたという情報しかない」
リリーはアージヴァイズを見てそう言った。
「衝撃波・・・あいつら、疑似神姫も妙な風を使うよな。それに、あの黒い奴も・・・」
アージヴァイズはそう言いながらハッと気が付いた。
「人知を超越した存在・・・所謂神はなにも一体しかいないと決まったわけじゃない。人のように感情があるとすれば自分をわかってくれる者と一緒に居たいと思うかもしれない」
リリーはアージヴァイズを見て笑みながら言った。
「・・・」
アージヴァイズは少し考えながら黙った。
「まぁ、私の話は全て科学などで否定できる。基地長たちは神軍は存在しないって言う決定的な証拠を持ってるんだと思うよ?」
リリーはアージヴァイズを見て笑みながらそう言うと、空を見た。
同年、十月十五日。
月浜北部月海県で異常洪水が発生した。
四十一万人が避難、その内十三万人が負傷。
二万一千人が行方不明になり、その内一万六千人が発見され、死亡が確認された。
月浜軍部が洪水処理のために疑似神姫を全て月浜に撤退させると、大陸中で争いが激減した。
休暇が与えられ、暇になったアージヴァイズたちはリリーに会うためジュリアたちの部屋に向かった。
アージヴァイズたちが部屋のドアを開けると、カードゲームをしながら適当に話をするリリーたちがいた。
「あ、新聞見た?」
カードを持つグリードリヒはアージヴァイズたちを見て笑みながら言った。
「新聞?読んでねぇよ」
部屋に入るアージヴァイズはグリードリヒを見てそう言うと、適当に座った。
「月浜の月海県で大洪水が起きて月海のほとんどが流されたらしいよ」
カードを持つリリーはグリードリヒの手札からカードを引きながら言った。
「マジで?すげぇな・・・」
アージヴァイズはリリーを見てそう言った。
「船とかが県内の住宅や施設を壊して大変だったって書いてあったね」
エコーはリリーを見てそう言った。
「みんな教養あるんだな~」
アージヴァイズはオレンジたちを見てそう言った。
「私は見てないよ?」
オレンジはアージヴァイズを見てそう言った。
「仲間だな!」
アージヴァイズはオレンジを見て笑みながら言った。
「仲間を見つけて安心するなんて最低だにゃ」
ミッケは蔑んだ目でアージヴァイズを見てそう言った。
「私は文字を見ると頭が痛くなるんだ!仕方ないだろ!?」
アージヴァイズはミッケを見て大声でそう言った。
「そうだ。少しの間ベネローブの所へ行ったりするから、少し留守にする。何もないだろうけど、グリードリヒたちを任せたよ」
リリーはアージヴァイズたちを見て笑みながら言った。
「おう!任せとけ!」
アージヴァイズはリリーを見て笑みながら言った。
「じゃあ、私はそろそろ準備するね」
リリーはそう言うと、立ち上がった。
「暴れたりするなよ?」
リリーはグリードリヒたちを見て笑みながら言った。
「しないよ」
グリードリヒたちはリリーを見て笑みながら言った。
同年、十月十七日。
神軍幹部が大陸各地に出現し、数百の町と七つの都市と四つの国を滅ぼしたことで各国の警戒心が高まり、自国の防衛に専念し始めたことで少し平凡な日々が続いた。
月浜軍がかつてないほど慎重になり、自国の防衛に専念したことでアージヴァイズたちものんびりと生活していた。
「ほら!神軍は存在した!!」
オレンジはご飯を食べるローランを見てそう言った。
「静かにしろよ」
箸を握ったアージヴァイズはご飯を食べながら言った。
「今回は仲間割れでしょうか。まぁ、都合が悪いことを隠蔽するために神軍って言う名前を使ったのでしょうね」
フォークを握ったローランはテレビを見てそう言った。
「・・・」
アージヴァイズがテレビを見ていたその時、電気が遮断され、電灯やテレビが切れた。
「・・・停電?」
ローランはそう言うと、立ち上がった。
その瞬間、食堂の窓ガラスが一気に割れ、爆風が屋内を飲み込んだ。
「・・・」
土煙が晴れると、バリアを張ったアージヴァイズ・レプシデシアの姿が見えた。
アージヴァイズ・レプシデシアは割れた窓に向かって走り、割れた窓に立って外を見た。
数機の疑似神姫が神具を保管している施設から飛び立ち、海へ向かっていた。
「基地長!戦闘許可を!!」
アージヴァイズ・レプシデシアはローランを見てそう言った。
「ま、先ずは状況確認を!」
冷や汗をかいたローランはアージヴァイズ・レプシデシアを見てそう言った。
その時、藍色の光が轟音を立て、上の部屋から途轍もない速度で飛び立ち、疑似神姫たちに向かった。
「あれは!?」
耳を塞ぐオレンジは白色に変化する藍色の光を見て驚きながら言った。
「・・・あのバカ!」
アージヴァイズ・レプシデシアはそう言うと、窓から飛び出した。
「私たちもいかないと!」
オレンジはエコーとミッケを見てそう言った。
「基地長!グリードリヒたちをシェルターに送ろう!」
ミッケはローランを見てそう言った。
「・・・そうですね」
や汗をかいたローランはミッケを見てそう言った。
「グリードリヒさんたちをシェルターへ」
冷や汗をかいたローランはオレンジたちを見てそう言った。
「行くよ」
ミッケはグリードリヒたちを見てそう言うと、走った。
グリードリヒたちはミッケに続いて走った。
「副総帥閣下!!格納庫、滑走路、神具保管庫、指令室がやられました!!」
走って来たオペレーター1はローランを見てそう言った。
「・・・総員シェルターへ避難用意を」
ローランはオレンジたちを見てそう言った。
「・・・あとはゼノクイーンの入手法を考えるのみか・・・」
青眼、白髪ツインテール。青と白が基調のスカートタイプの戦闘服で身を包む生者の肌とは言い難い肌のTT-42B-50 キイが錆びた第一の神具を見てそう言った時、訓練用鋼鉄剣を握り込んだAA-09A-3 白月とその操縦士、藍色が基調のスカートタイプの戦闘服で身を包んだエリーが飛んできた。
「・・・!?」
キイは驚きながら迫る切先を見た。
訓練用鋼鉄剣はキイが誇る五重の強化バリアを切り裂き、左目から頬にかけてを斬り、液状疑似神気が噴き出した。
訓練用鋼鉄剣を握ったエリー・白月は一瞬でキイの神具が握られた右手を切り落とした。
キイの右手は第一の神具と共に落ちていった。
「グアァァァ!」
キイは叫び、暴れながら訓練用鋼鉄剣を握ったエリー・白月を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたエリー・白月はアージヴァイズ・レプシデシアの盾に受け止められた。
「・・・どうして来た。戦闘許可は下りてないよ」
訓練用鋼鉄剣を握ったエリー・白月はアージヴァイズ・レプシデシアを見てそう言うと、態勢を整えた。
「お前!最後に戦ったのいつだよ!ブランクくらいあるだろ!」
盾を握ったアージヴァイズ・レプシデシアは訓練用鋼鉄剣を握ったエリー・白月を見て大声でそう言った。
「なぜだ・・・なぜ氷鳥がぁぁ・・・」
左目を押さえるキイは涙目になり、怯えて震える右目で訓練用鋼鉄剣を握ったエリー・白月を見てそう言った。
キイは左目を押さえたまま撤退し、キイに続いて疑似神姫たちも撤退した。
「マジで余計なことしかしないね・・・君が来てなかったらこの無駄話をしている間にキイたちを仕留められたのに」
訓練用鋼鉄剣を握ったエリー・白月は盾を握ったアージヴァイズ・レプシデシアを見てそう言った。
「・・・ごめん・・・」
盾を握ったアージヴァイズ・レプシデシアは眉を顰め、うつむきながらそう言った。
「・・・はぁ・・・怒るのも疲れるから、帰ろう」
眉を顰め、ため息をついたエリー・白月は盾を握ったアージヴァイズ・レプシデシアを見てそう言った。
基地へ戻ると、アージヴァイズとエリーはクリスティーナとローランに呼び出されて総帥室へ行った。
「戦闘許可が下りてない状態で戦闘するとはどういうことだ?軍法違反だぞ」
クリスティーナはアージヴァイズとエリーを見てそう言った。
「それは・・・」
冷や汗をかいたアージヴァイズは焦りながらそう言った。
「私が独断で命令しました。責任は全て私にあります」
エリーはクリスティーナを見てそう言った。
「お、お前・・・」
驚くアージヴァイズはエリーを見て呟いた。
「君の独断で月浜打撃軍の副総長が動いたのか?逆じゃないか?普通」
眉を顰めたクリスティーナはエリーを見てそう言った。
「年齢も階級も私が上ですし、みより前皇女陛下から私、エリー・ヴィニ・ヘリズランドが以前副総長をやっていたと聞いていたそうなので、逆らえなかったんでしょう」
「・・・そうか・・・じゃあ、全て君に責任があるんだな?」
「はい」
「・・・」
クリスティーナは黙ってエリーを見つめた。
「・・・まぁ、今回は君の判断に救われた。今回の軍法違反は目を瞑ろう」
クリスティーナはエリーを見てそう言った。
「申し訳ございませんでした」
エリーはそう言うと、クリスティーナとローランに深々と頭を下げた。
「行くよ」
頭を上げたエリーはアージヴァイズを見てそう言った。
アージヴァイズとエリーが部屋から出ていくと、クリスティーナはため息をついた。
「軍法をもう少し見直すかぁ・・・」
クリスティーナは机に突っ伏してそう言った。
「それにしても、精鋭級No.3をあの短時間で撃退するなんて途轍もないことですよ。そして、あの部下思いな性格・・・ヴィニさんを副総長に戻すべきだと考えてしまいました」
ローランはクリスティーナを見て笑みながらそう言った。
「あの子は間違いなく出世する。十五で大佐か少将、二十で大将、二十五には大臣だろう。あまりに貴重な人材だ」
クリスティーナは考えるようにそう言った。
一方、廊下を歩くアージヴァイズは大泣きし、エリーになだめられていた。
「私・・・勝手に出撃してエリーの邪魔してエリーに助けられて・・・エリーに迷惑しかかけてねぇ・・・」
大泣きするアージヴァイズはそう言った。
「大丈夫だよ。キイはまた来るだろうし、処分も何もなかったんだし」
眉を顰めたエリーはアージヴァイズを見て笑みながら言った。
「マジで何も上手くいかねぇ・・・リリーにどんな顔すればいいんだよ・・・」
アージヴァイズとエリーは各々部屋に戻った。
大泣きするアージヴァイズはオレンジたちに心配され、なだめられた。