水かけ祭り 中編
シリーズ発売5周年記念、トートバッグ5月29日発売!
税込3,300円(送料が別に550円かかります)
6巻表紙の画像を、よろづ先生が陽光の色調にレタッチして下さいました。
サイズはMとL、色は生成りと黒の2種類です。
レオポルドは口をへの字にしたままだ。
「濡れるぐらい、かまわん」
わたしは彼に考えを変えさせるべく粘った。
「護符だって失くしちゃうかも」
「もともと消耗品だ」
「ええとぉ……」
断る理由を探していると、レオポルドの眉間のシワがぐぐっと深くなる。
「まだなにかあるのか」
だってさ……うるさいお目付け役なんて、ついてきてほしくないじゃん。
……とは言いづらい。
「ん-むむむ」
「口がタコみたいだぞ」
「え、変な顔なんだから見ないでよ!」
あわてて両手で顔を隠せば、盛大にため息をつかれた。
「真正面に座っていながら、なにをぬかす」
そうなんだけどね!美形に指摘されたくはないんだよ!
「じゃあ、『お兄ちゃん』やってくれるならいいよ」
「は?」
「ヌーメリアの甥のアレクを連れて遊びに行くんだもん。わたしも『お姉ちゃん』やるし。年長者として、ちゃんとめんどう見てくれなきゃ」
彼はぎょっとしたように、目を見開いた。
「私がか?」
「もともと、ひとりでアレクを連れて行くつもりだったし。手伝ってくれるんなら、いっしょに来てもいいけどぉ。いかにも魔術師団長なローブだって禁止だからね」
「…………」
ほらね。めんどくさければ彼だって渋るに決まってる。水かけ祭りは監視抜きで楽しまないと!
「承知した」
「へ?」
じゃまな前髪を払うようにかき上げてから、彼はギロリとわたしをにらみつける。
「で、水かけ祭りはいつだ?」
「あさってだけど……」
「では、あさっての昼に。研究棟へ迎えに行く。では帰れ」
ポイッ。そんな感じでわたしは塔の外に追いだされた。え、レオポルドもくるの?マジで?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
彼の返事を聞いたものの、半信半疑のまま水かけ祭り当日になった。アレクといっしょにでかける準備をしていると、ソラがわたしのところへやってくる。
「ネリア様、青いレオがやってきました」
青いレオ……西武ライオンズ?
わたしのガオォ……な想像は、すぐに打ち砕かれた。白いライオンはどこにもいない。
「あ……青っ!」
顔はレオポルドだけど、アレクのような青く長い髪と瞳を持つ、長身の人物が研究棟の入り口に立っている。いつもだと光を放つ銀糸のような髪が、濃い青に変わっている。なんと、まつ毛までしっかり青い。
「用意はできたか」
「あ、うん。収納ポシェットにお財布とタオルも入れたし、もうでかけられるけど……髪も瞳も青くしたんだね」
彼は顔をしかめて自分の髪をつまむと、気にいらないようすで首をひねっている。
「『お兄ちゃん』だというから……塔にちょうど青い髪の魔術師がいるから、色を抽出してみたが、あまりしっくりこないな」
そっか、アレクの『お兄ちゃん』設定⁉
魔術師団長……といっても、青いとそんな雰囲気はない。ふだんと違って、どこか軽薄な感じもして、わたしも首をかしげた。
「そうだね。違和感があるけど……抽出ってその人、無事なの?」
心配になってたずねると、彼は淡々と答える。
「錬金術師じゃあるまいし、髪をひと房切り取っただけだ。驚いて真っ青になっていたが……」
いやいやいや。魔術師団長にいきなり髪を切られたら、びっくりするし怖いでしょうが。
「錬金術師だって人間相手に、乱暴なことなんかしないわよ!」
けれど彼は眉をひそめて問いかけてきた。
「人間を錬金釜に入れるのではないのか?」
「し・ま・せ・ん!」
騒ぎを聞きつけて、アレクがひょっこり顔をだした。
「ネリア、その人だれ?」
「えと……レオだよ」
「へえぇ」
じーっ。わたしの手をキュッと握り、アレクはあいさつもせずレオを見上げた、彼は彼でまばたきをして、十歳の少年を無言で見下ろしている。
どうしよう。けれど……レオポルドは顔にださないだけで、髪の色も変えてくるぐらいだから、もしかして水かけ祭りに参加したかったの?
つまりガチ勢なのかも!
「それならそうと、言ってくれればいいのに!」
「?」
なーんだ。わたしも王都ではふだん、ネリィとして楽しんでいるもん。レオポルドだって師団長の肩書きを外して、はっちゃけたいときはあるよね!
じゃ、思いっきり彼に水かけても平気なんだ。そっかー。
おっしゃあぁ!
なんだか妙な気合が入る。遠慮せず行かせてもらいますとも!
わたしはウキウキとアレクに話しかけた。
「あのね、アレク。彼もすっごく、水かけ祭りに参加したいんだって」
「この人も?」
アレクが目を丸くした。
「そう。すんごく行きたいみたい」
「おい……」
レオポルドはなにか言いたげだったけれど、アレクはわたしとレオの顔を交互に見て、ついでにソラのこともチラリと振り返ってから言った。
「べつにいいけど……レオって、なんだかソラに似ているね」
子どもならではの遠慮ない指摘に、彼はビキリと固まった。耐えてる。レオポルドも子ども相手なら、ちゃんと耐えるんだぁ。妙なところにわたしは感心する。
アレクは無邪気そうなようすで、わたしの手をクイクイと引っ張り、小さな声でこそっとささやく。
「でもさネリア、つき合うならカッコいい竜騎士団長のほうがいいと思うよ?」
ラララ、ライアス⁉
「こここ、この人とはそんなんじゃないから!」
「そうなの?」
「そうだよ。勝手についてきたんだもん」
コソコソ話のつもりが、彼の耳にはしっかり聞こえていたらしい。
「おい……ずいぶんな言い草だな」
「だって、ついてきてなんて頼んでないもん。行こう、アレク」
わたしは日差しを避けるために帽子をかぶり、アレクと手をつないで歩きだした。その数歩うしろを、レオポルドは黙ってついてくる。三人でテクテク通路を歩いて通用門へと向かう。
「ネリア」
アレクはまた、わたしの手をクイクイと引っ張り、小さな声でこそっと聞いてくる。
「ホントに僕、お邪魔虫じゃない?」
「もぅ、アレクったらそんなんじゃないってば。だいじょうぶだよ。彼はホントに水かけ祭りに行きたいだけなんだから」
わたしは笑って否定して、アレクに歩調を合わせる。
「そうだなぁ、わたしも彼がついてきたのは意外。だけどせっかくだもん、楽しもうよ。人生最高の水かけ祭りにしよう!」
「あはは、ネリアってば。僕ら初めてだから、どうやったって人生最高の水かけ祭りだよ」
「そうそう!」
アレクは安心したように笑うと、もういちどレオポルドを振り向いて、「やっぱりソラに似てるなぁ」とつぶやいた。










