お泊まりお出かけ with 副団長 完結
【イベント参加】
1月18日 文学フリマ京都10 みやこめっせ3階 第3展示場【け11】
1月25日 関西コミティア75 インテックス大阪2号館 【Iー29】
1月は渋谷〇〇書店での店番はありません。
冷えた指先の感覚がなくなってきたところで、肩に手を置かれた。
「もういい」
「え……」
ぼんやりと彼の顔を見上げれば、黄昏色をした瞳が射抜くような鋭い光を帯びる。
大きな手が包みこむようにわたしの手を取り、するりと指をなでた。
「指先が冷え切っている。まったく……目が離せぬな」
顔をしかめてため息を吐くレオポルド
に、わたしは抗議しようとした。
「みみみ……」
「みみ?」
「みじゅ、うみを見てたの、そっちりゃん!」
こてりと首をかしげた美貌の主に、わたしは鼻水を垂らしながら文句を言おうとして……思いっきりかんだ。しかも歯の根が合わなくて、舌もかんだ。とても痛い。
鼻の奥がツンとして、痛さのあまり涙がこぼれそうになる。
彼は軽く目をみはり、ぽすっと抱きこむようにわたしの頭を抱えた。
「ちょっ!」
あわてて手を差しこんで、ぐっと彼の胸板を押し返そうとしてもびくともしない。
ジタバタともがくわたしに、彼は軽く舌打ちをした。
「暴れるな」
そうはいかない。わたしは必死に彼の体をギュウギュウ押す。
「鼻み……な、涙でローブが汚れちゃうから!」
なんとかレディの尊厳を保って言い返せば、彼はまるでダダっ子に言い聞かせるように、静かな声で説明する。
「このローブは魔獣の血で汚れようと平気だ」
さすがだね!
……そうじゃなくてえぇ!
わたしがイヤなんです!
自分の鼻み……涙がぴちょっとレオポルドのローブについて、糸を引いたりなんかしちゃったら!
死ねる。
軽く死ねる。
だから、どうかほっといてえぇ!
こっちはパニックになりそうだというのに、彼は困ったように眉をひそめて、わたしの頭をなでて息を吐いた。
「軽く抱きしめただけで、これだからな……」
軽く⁉️
いやいやいや、鋼鉄のような腕だけども!
もがくわたしの背後から、カーター副団長のしっぶい声が聞こえた。
「まぁ、師団長のローブは神聖なものですからな。ネリス師団長とて気になるのでしょう」
レオポルドはため息をついた。わたしのことは解放せずに、ローブからハンカチを取りだす。
「では顔を拭いてやる」
待って。繊細な術式の刺繍がしてある、見るからに高級そうなハンカチを取りだしてるけど。それで顔を拭かれても、わたし困る。
「じょ、浄化の魔法使うから……」
「きみは婚約者にこのぐらいのこともさせないつもりか!」
「えっ、婚約者ってそんなこともするの?」
逆にびっくりして聞き返せば、彼はピタリと動きを止めた。
「どこから説明すればいいものか……」
「正直に話せばよいでしょう。ネリス師団長の体調が悪そうだから、魔術師団長は心配されたのですぞ」
「や、わたしだいじょうぶ……」
「とてもそうは見えない」
情けない。わたしに負担がかからないよう、作業も早めに切り上げて、休ませてもらっていたのに。
「ホントにだいじょうぶだから」
「だが……」
押し問答になりそうなところを、副団長が止めた。
「おふたりともこちらへ。ネリス師団長のおかげで見事に修復できましたぞ。動きにも問題ありません」
「そうだな。きみも見ておくといい」
レオポルドはつぶやいて、わたしの目にハンカチをそっと当てると、そのまますぐそこなのにバルコニーへと転移する。
すぐアルバの呪文が唱えられ、湖の風にほほがさらされることもなく、わたしの全身は暖かさに包まれた。
「ありがとう……」
「きみの異変にすぐ気づかなかったのは、私の落ち度だ。もう平気か?」
「うん」
気づかう彼の態度に、意地を張ってもしょうがないと思い直して、わたしは素直にうなずいた。
うながされるままに、湖へと身を乗りだし、湖底に広がる光景に叫び声をあげた。
「街に明かりが灯ってる!」
水の中にある建物のひとつひとつに、魔導ランプのような明かりが輝いている。
それだけでなく、真っ白な人たちが家から出てきて街を散歩したり、あいさつをしたりしている。
ひとりひとりの動きは全部違っていて、まるで生きているみたいだ。
けれどまるで大理石の彫像のように、その人たちには色がない。わたしはレオポルドのローブをギュッと握りしめる。
「あの人たちはいったい……」
「錬金術師ゾルゲの作った魔導人形だ。城の大広間にもあるだろう」
「あれが⁉️」
「もとは彩色されていたのが、長い年月で落ちてしまったようですな」
ゆらゆらと揺れる水面の向こうで、真っ白な人たちはそれぞれに動いていた。
「すごい……街の一日が再現されている。お城の魔導時計より、もっと大掛かりだよ!」
「それでつい、我々も見入ってしまいましてな」
「なぜ彼はこんなものを……あ、あそこに錬金術師がいる!」
錬金術師の特徴あるローブを着た人形を見つけ、わたしは叫んだ。
錬金術師の白い人形は広場で花売りから花冠を買い、その場で動きを止めた。
しばらくすると白いドレスを着た別の人形が彼に近づいていく。
すると止まっていた錬金術師の人形は、精巧な動きで彼女の頭に花冠をかぶせると、ふたりはその場でくるくると踊りはじめた。
気づけばその2体以外の人形は、同じ場所で同じ動きを繰り返しているだけになる。
「なるほど……」
「何かわかったの?」
「湖底都市はもともとここにあった。時計塔はそれを利用した設備だが……ゾルゲは王都の師団長の職を辞して、このコルト湖にやってきたと言われている」
「たしか降嫁した王女につき従ったとか」
「え、じゃあ……あの人形はゾルゲ自身?」
「だとしたら、人を遠ざけるように設計したのもうなずけますな」
「どういう意味?」
レオポルドが吐いた息が、白く風に乗って広がっていく。
「王女との婚姻など、当時の錬金術師に許されるわけがない」
「何もかも水の中に隠し、年に一度だけ作動する魔導人形に想いを託したというか、隠したのですな」
カーター副団長がうなった。
「礼を言いますぞ、ネリス師団長。私だけではここに来ることはできませんでした」
「や、わたしは何も……そうだ!」
わたしは思いついて術式を展開した。レオポルドが目を見張り、あわててわたしを止めようとる。
「待て。その術式は……」
「そう、幻術。今回はだいじょうぶだから!」
自分の魔力を最小限に。幻を作りだすのではなく、白い人形たちに色をつけていく。彼を姫の瞳に輝きを、白い肌に血色を。
錬金術師のローブ以外に鮮やかな彩りを添えていくと、踊るふたりも心なしか幸せそうに見える。
ふたりの恋は成就したのか、それとも錬金術師の一方的な想いか、それはわたしにもわからない。
どこまでも隠そうとしたゾルゲの想いを、歴代の師団長だけが知ることができた。
(グレン……あなたも見ればよかったのに!)
わたしはあぜんとしているレオポルドに笑いかけ、そしてそのまま意識を失った。
「無茶をする……」
崩れ落ちた娘の体を抱きとめて、銀の魔術師は深く息を吐いた。ぴちりとまぶたを閉じた姿は人形のようで、心なしか軽く感じる。
「私の予定では、魔力を使ってフラフラになったネリス師団長を、アルバーン師団長が支えるはずだったのですが……ちと、やりすぎましたな」
副団長としても、ここで彼女が幻術まで使うとは思わなかったのだろう。
「このぐらいなら明日には回復するだろう」
銀の髪をかきあげてつぶやく青年に、副団長はおやと眉を上げた。
「以前にもこんなことが?」
「…………」
青年は答えず、副団長もそれ以上聞くのはやめた。
ようやく完結!
お読みいただき、ありがとうございました!









