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【11/1コミカライズ連載開始】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
連載開始四周年記念SS

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お泊まりおでかけ with 副団長⑬

『魔術師の杖 THE COMIC』

WEB雑誌『マグカン』様にて毎月1日更新!

挿絵(By みてみん)

(作画:ひつじロボ先生)

 先頭はカーター副団長で、つぎにわたし、最後にレオポルドが続いた。一歩一歩、周囲を確かめるようにして、時計塔の内側に造られた螺旋階段を上っていく。


 鼻にツンとくるのは機械油の臭いだ。魔道具師たちの手でていねいに磨かれた部品は、窓から差しこむ月明りに輝いている。


「鐘はちゃんと鳴るかな」


「だいじょうぶでしょう。壊れた部品はすべて交換しました。鐘の部分も問題なく動くはずです」


「うん。でも……あんまり手伝えなかった気がして」


 もだもだと口ごもれば、カーター副団長は振り返って意外そうに眉を上げた。


「塔の入り口を開けたではありませんか」


 たしかに開けないと修理も始められないけど……それだけじゃん!


 わたしの心を見透かしたのか、背後に立つレオポルドが口を挟む。


「まだ最後の仕上げが残っている。時計塔はきみの魔力で動かしてもらう」


「あ、うん。それはもちろんやるけど」


 段差があるから、振り向けば彼と視線がぶつかる。黄昏色の瞳は月光を反射して淡く輝き、長い銀色のまつ毛が上下に動いた。


「錬金術師団長が自ら各地に足を運ぶことはあまりない。きみはいるだけでも役に立っている」


「そうかな。でもグレンだって全国を回ったんでしょ?」


「……魔導列車の線路網を建設する際には、陣頭に立って指揮を執ったと聞いているが、それは三十年も前の話だ」


 レオポルドを包む魔力が、鋭利な刃物のようにギスギスと尖ったのを感じた。


(……ハリネズミくん?)


 だれかを傷つけるしかない、尖ったナイフ。そんなイメージの魔力なのに、わたしの頭にはなぜか、銀色のトゲトゲを逆立てる、キラキラでキュートなハリネズミが思い浮かぶ。


(やだ、かわいいかも!)


 変な想像を打ち消すように、両手で自分のほっぺをムギュッと押さえた。淡い紫の瞳を持った、月光に輝くキラキラハリネズミとか……わたしったらレオポルドに、なんて想像してんのよ!


 顔を押さえて黙りこんだわたしに、彼は眉をひそめてため息をこぼす。


「大地に魔導列車を走らせるか、研究棟にこもるかのどちらかだ。わが父ながら処世術を、もう少し学んでくれていたらと思うことがある。けれど誰にも彼を変えることはできなかった……」


「そんなことは……」


 わたしには愛想のいいグレンなんて想像もつかないけど、血がつながった親子だと、もどかしく感じたのかもしれない。カーター副団長の声が上から降ってくる。


「あのかたには時間がなかったのです。つねに仕事のことで頭をいっぱいにしておられた。やるべきことはつぎつぎに起こり、問題は山積みでしたからな」


「副団長はグレンの仕事ぶりを見ていたんだね」


「もちろんです。そのために錬金術師団へ入ったのですからな。あれは凄まじいものでした」


 副団長が語るグレンの姿は生き生きとして、師団長だったころの彼を思い起させる。


「銀の髪が逆立ち、いつも落ちくぼんで澱んだミストグレーの瞳が爛々と輝く。くりだす魔法陣は正確無比で……物質の変容を最後まで、息をすることも忘れて見入っておりました」


「そっかぁ。そのころのグレン、見たかったなぁ」


 わたしがつぶやけば、カーター副団長は変な顔をした。


「ネリス師団長はグレン老から、直に錬金術を学ばれたのでは?」


「教えてもらったけど、そのときは心臓の魔石化……っていうの?だいぶ進んでいて、無理はできなかったの」


 グレンが無理をしたのは、たぶんわたしの召喚が原因だ……。そう思ったら急に、わたしはレオポルドの顔を見られなくなった。


 だれかの命を糧に生きながらえている。そんな存在と婚約までさせて、本当によかったんだろうか。彼が婚約者としてふるまおうとしてくれるたび、心のどこかで申し訳なくなる。


「父が急死したのはそのせいか。気力だけで持ちこたえていたのだろう」


「その死を看取ったのも、エヴェリグレテリエ……ソラだけですからな」


 カーター副団長の言葉に、わたしは足を止めた。


「ソラだけ?じゃあ、ソラに聞けば、そのときのようすがわかるの?」


「そうですな。ソラしか知りません」


 盲点だった。最初からソラに聞けばよかったなんて……。帰ったら確認してみよう。


 話しながら最上階に着いた。


「すごい……」


 魔導時計の機構をちゃんと見たのははじめてだ。つややかに磨かれた真鍮製の歯車には、幾何学模様みたいな術式の線が刻まれている。それがいくつも組み合わさって、すべてが動きだすのだ。


「さ、ネリス師団長」


「うん」


 カーター副団長にうながされ、わたしは操作盤の中央にはまる暗赤色をした魔石にふれる。魔力はそっとフタをずらすように、慎重に……けれど魔力が引っ張られるように、わたしの体からあふれだした。


「ちょっ……」


 止められない、止まらない。あふれだした魔力は勢いよく時計の魔導回路に吸いこまれ、張りめぐらされた術式がまばゆいばかりに輝きだす。


 ギ……カタカタカタ……チッチッチッ……。


 小さな歯車が勢いよく回りだすと、つられて大きな歯車がゆっくりと回る。振り子が揺れて秒針を刻むような音がした。そして尖塔にすえつけられた鐘が揺れる。


 ゴォ……ン。ゴォ……ン。ゴォ……ン。


「ひゃっ」


 頭上で響く大きな音にビクッとしたら、レオポルドがさっと遮音障壁を展開した。


「だいじょうぶか?」


「う、うん。でもわたし、やりすぎちゃった?」


 時計塔がまばゆいばかりに輝きすぎな気がする。それにまだまだ魔力はあふれ続けていた。けれどレオポルドは首を横に振って、さらにわたしをうながす。


「いや、きみが平気なら……このまま続けてくれ」


「いいけど……」


 鳴り続ける鐘の音は湖を渡り、湖岸にある領主館にも届いているだろうか。わたしは勢いよく揺れる鐘を見上げながら、さらに魔力をこめていく。魔導時計はどれだけ魔力を流そうとも、壊れるようすはない。副団長が魔力計をにらんでうなった。


「さすがはドルゲ、並の錬金術師ならぶっ倒れているところですぞ」


「師団長でなければならぬと、制限を設けたのはこのためか」


「まぁ今は、魔石でも代用できますからな。そうした制限は無意味ですが」


「えっ⁉」


 ふたりの会話を聞いていたわたしは、そこで叫んだ。


「ねぇ、ちょっと。魔石で代用できるなら、動かすのわたしじゃなくてもよくない?」


 ふたりは顔を見合わせてから、あっさりとうなずく。


「そうだな」


「ネリス師団長がそうしているあいだ、私は時計塔や周囲を観察できますので」


「わたしは電池じゃなーいっ!」


「「べんち?」」


 ふたりはそろって仲良く首をかしげる。あああ……またエクグラシアにない単語使っちゃった!


 そしてなんでふたりとも、そんなに仲良くなってんの⁉


「それでカーター副団長、気になっていたこととはどれだ」


「時計は問題なく動いております。窓から湖のようすを見てみましょう」


 なぜかふたりともソワソワと、窓のほうへ移動していく。


「ちょ、ちょっと!」


 呼び止めるわたしを、レオポルドがくるりと振り向いた。月光を浴びた銀髪がきらめいて整った顔を縁どり、息をのむほど美しい姿だけれど、薄い唇から紡がれた言葉はそっけない。


「すまないが、もうしばらくそうしててくれ」


「えっ?」


 カーター副団長は軽く手を挙げて、さっさと窓辺に陣取ると身を乗りだした。


「ネリス師団長、魔力の補充をしっかり頼みますぞ。おお、これは!」


「どうした」


 つられてレオポルドも湖面を見下ろしている。


 しばらくってどれぐらい?


 ふたりは何を見てるの?


「わ、わたしだって見たいのに!」


 叫ぶわたしの手元では、魔石がどんどん魔力を吸っていき、頭上ではにぎやかに鐘が鳴り響いていた。


渋谷〇〇書店200番サチヲ書店さんが作って下さった奈々のドレス。

『魔術師の杖⑤ネリアとお城の舞踏会』の表紙がモチーフになっています。

外国産のレースにビーズ刺繍が綺麗ですね。

これから参加するコミティアや文学フリマにも、連れて行っていいと許可を頂きました。

挿絵(By みてみん)

12月14日 みちのくコミティア(福島)

1月18日 文学フリマ京都10

1月25日 関西コミティア75(大阪)

5月4日 文学フリマ東京42

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☆☆11/1コミカライズ開始!☆☆
『魔術師の杖 THE COMIC』

『魔術師の杖 THE COMIC』

小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
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