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【11/1コミカライズ連載開始】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
連載開始四周年記念SS

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お泊まりおでかけ with 副団長⑫

『このライトノベルがすごい2026』

投票ありがとうございました!

イラストレーターのよろづ先生への応援も感謝です。

 副団長は機嫌よくパンをムシャムシャ食べ、いつもより熱心に話すから、宙に飛んだパンくずが魔導ランプの明かりに舞う。


「交換した部品はすべて魔道具師たちが、新しく取りつけてくれました。アルバーン師団長もあれだけの数、修復の魔法陣をこなすとはさすがですな」


「たいしたことではない」


 ソラから「ネリア様には向いていません」と言われた修復の魔法陣。それを使う魔術師はみんな目が死ぬと聞いたので気になって、彼を見つめれば視線がカチリとぶつかる。


 魔導ランプの明かりで黄昏色の瞳は、いつもと違う金の輝きを帯びていたけれど、目が死んでいるようすはない。


「どうした?」


「目が死んでないなーと思って」


「?」


 彼が首をかしげると、こてりとソラがやるしぐさに似ていた。何を言われたのかに気づくと、彼はふっと笑う。


「街ひとつ修復するのにくらべれば、どうということはない」


 この負けず嫌い!


 たしかに地上に降り立ったときは、いつものように平然としてたけどさ。そのときは平気そうでも、アガテリスの背では息を切らして、魔力ポーションがぶ飲みしてたの知ってるんだからね!


 無言でにらみつけた意味を誤解したのか、彼は淡々とわたしに告げる。


「きみは修復の魔法陣に向いていない」


「知ってます!」


 ソラにも同じこと言われたもん。そういうことではないんだけど、カーター副団長もいるしなぁ……なんて思って言い返さないでいたら、副団長がしたり顔でうなずく。


「まぁ、ネリス師団長は器用に菓子を作るかと思えば、繊細な魔導回路などはとことん不器用ですからな」


 メイクできれいな眉を描ける人は、繊細な魔導回路も得意だと思う。


「ヘタなのは自覚してるよ。眺めるだけなら楽しいんだけどなぁ」


 術式に目覚めたら魔法陣の構築も楽しくなったし、ドーンと敷いてバーンと魔力をこめるような魔法は得意なのだ。ただバーンの規模が大きくなりやすいだけで。


 わたしがため息をついたところで、副団長が話を変える。


「そういえばアルバーン公爵家から魔道具ギルドに、豪華な魔導車が発注されたそうです。公爵夫人が旅に出られるとなるとおおごとですな」


「へぇ、そうなの?」


 グレンと絶縁状態にあったせいか、アルバーン領に魔導列車の線路は走っていない。転移魔法が苦手な公爵夫人は、もっぱら魔導車で移動するとか。


「空間魔法を駆使し、中には天蓋つきのベッドに衣裳部屋、宝石類をしまう金庫に全身が映る鏡を備えたメイクアップルーム、手紙を書くための書斎、お茶を飲むための応接室、そして星空を見上げるための天窓つきの寝台、侍女や護衛の泊まる部屋もあるそうです」


「うっわー」


 その豪華さに感心していると、レオポルドが眉を上げた。


「何か副団長にも依頼があったのか?」


「装甲部分に使う防御系の術式について、技術供与を……と」


 少しだけ考えこむように眉を寄せ、レオポルドは副団長にアドバイスする。


「……アルバーン家がほしいのは、魔導列車の防御をになう術式だろうが、それは慎重にすべきだ」


「どういうこと?」


「公爵夫人の旅行で、魔導車を強化したいという目的は本当だろうが、同じ技術を装甲車に使う可能性もある。モリア山から採れる貴重なミスリルを守るため、アルバーン家はつねに軍備を強化しているが、エクグラシア全体から見るとかなり突出している」


「肝心の部分は渡しません。先方に見せるまえに魔術師団長の確認も必要ですか?」


「そうだな。私が不在のときはバルマ副団長に確認してくれ」


「かしこまりました」


 わたしは不思議に思って口を挟む。


「アルバーン公爵ってそんなに好戦的なの?」


「強ければ強いほどいい、という信念がある。強者としてふるまい、強者であろうとする」


「なる」


 レオポルドの説明にわたしは納得した。そういえばはじめて会ったころ、レオポルドもそんな感じだった。今でも彼が弱味を見せることは、あんまりないけど。


 穏やかに食事をしながら、仕事も片づけていく。こういうところが錬金術師団の食事らしい。


「私もそうだが、カーター副団長のまわりも令嬢の婚約で騒がしくなるだろうな」


「もともと私は人づき合いが苦手でして。娘が王子と婚約したとて、すり寄ってくる者もない。清々しいぐらいです」


 ギラッと歯を見せて笑う副団長は顔が怖い。魔道具修理では王城のスタッフから頼りにされているけどね!


 にこにこと見守っていれば、カーター副団長は恐ろしいものを見るような目つきで、わたしを振り返って肩をすくめた。


「だいたいネリス師団長は、娘の命を盾に私を脅したのです。あのときの恐怖にくらべれば……」


「えっ、わたしそんなことしてないよ!」


「私の目の前で天空かなたへと、メレッタを連れ去ったではありませんか!」


「あれはメレッタに頼まれたんだってば!」


「…………」


 レオポルドは長いまつ毛をパチパチとまばたかせ、わたしたちのやり取りを興味深そうに見守っている。そこは口を挟んでくれてもいいんだけど。


「今後ふたりは私の監視下に置き、隙あらば婚約破棄の口実を見つけたいと思います!」


「まだ認めてないんだね……」


「あたりまえです!」


 わたしがぽろりと一言こぼせば、血走った目つきでにらまれた。うひぃ。


「私の……私の目のまえでメレッタを口説くとは……あの王子っ!」


 ギリギリと歯を食いしばるカーター副団長は、オドゥ以上にカディアンをしごきそうだ。メレッタが止めてくれるといいけど、ヘタすると逆効果になりそうで怖い。それでもとにかく人手がほしかった。みんな人手不足が悪いんや!


 すっとレオポルドが動き、カーター副団長の前にお茶のカップを置く。


「食事は楽しめたか?」


 ハッとしたように動きを止め、カーター副団長は湯気を立てるカップを見下ろして、大きく息を吐く。


「ええ。私にまで給仕をしていただくとは……ありがたいことです」


「カーター副団長はそれだけの働きをしている」


 レオポルドは淡々として、むしろそっけないぐらいの態度なのに、カーター副団長は目に見えて落ち着き、クールダウンしていった。


「ネリス師団長、このお茶はミスリル鉱石以上の価値がありますぞ。すべての憂いが解けていくような気がします」


「うん。レオポルドが淹れてくれるお茶は本当においしいよ!」


 ソラの淹れてくれるお茶を、ふだんから飲みつけているわたしでもそう思う。


「特技とも言えないような特技だがな。かんたんなようで難しいからそそられる」


「へぇ……」


 レオポルドが何かに興じている姿は見ないけれど、もしかしたらこういう日常のささいなことを、楽しんでいるのかもしれない。忙しい仕事の合間にできる、そんなちょっとしたことを。


「飲み終わったら修理の仕上げだ。時計塔を動かそう」


 そのひと言でわたしたちは立ち上がった。

挿絵(By みてみん)

渋谷〇〇書店、チェキサイズのミニカードも作りました。

豆本などの撮影小物も増えました(^^)

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