お泊まりおでかけ with 副団長⑫
『このライトノベルがすごい2026』
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副団長は機嫌よくパンをムシャムシャ食べ、いつもより熱心に話すから、宙に飛んだパンくずが魔導ランプの明かりに舞う。
「交換した部品はすべて魔道具師たちが、新しく取りつけてくれました。アルバーン師団長もあれだけの数、修復の魔法陣をこなすとはさすがですな」
「たいしたことではない」
ソラから「ネリア様には向いていません」と言われた修復の魔法陣。それを使う魔術師はみんな目が死ぬと聞いたので気になって、彼を見つめれば視線がカチリとぶつかる。
魔導ランプの明かりで黄昏色の瞳は、いつもと違う金の輝きを帯びていたけれど、目が死んでいるようすはない。
「どうした?」
「目が死んでないなーと思って」
「?」
彼が首をかしげると、こてりとソラがやるしぐさに似ていた。何を言われたのかに気づくと、彼はふっと笑う。
「街ひとつ修復するのにくらべれば、どうということはない」
この負けず嫌い!
たしかに地上に降り立ったときは、いつものように平然としてたけどさ。そのときは平気そうでも、アガテリスの背では息を切らして、魔力ポーションがぶ飲みしてたの知ってるんだからね!
無言でにらみつけた意味を誤解したのか、彼は淡々とわたしに告げる。
「きみは修復の魔法陣に向いていない」
「知ってます!」
ソラにも同じこと言われたもん。そういうことではないんだけど、カーター副団長もいるしなぁ……なんて思って言い返さないでいたら、副団長がしたり顔でうなずく。
「まぁ、ネリス師団長は器用に菓子を作るかと思えば、繊細な魔導回路などはとことん不器用ですからな」
メイクできれいな眉を描ける人は、繊細な魔導回路も得意だと思う。
「ヘタなのは自覚してるよ。眺めるだけなら楽しいんだけどなぁ」
術式に目覚めたら魔法陣の構築も楽しくなったし、ドーンと敷いてバーンと魔力をこめるような魔法は得意なのだ。ただバーンの規模が大きくなりやすいだけで。
わたしがため息をついたところで、副団長が話を変える。
「そういえばアルバーン公爵家から魔道具ギルドに、豪華な魔導車が発注されたそうです。公爵夫人が旅に出られるとなるとおおごとですな」
「へぇ、そうなの?」
グレンと絶縁状態にあったせいか、アルバーン領に魔導列車の線路は走っていない。転移魔法が苦手な公爵夫人は、もっぱら魔導車で移動するとか。
「空間魔法を駆使し、中には天蓋つきのベッドに衣裳部屋、宝石類をしまう金庫に全身が映る鏡を備えたメイクアップルーム、手紙を書くための書斎、お茶を飲むための応接室、そして星空を見上げるための天窓つきの寝台、侍女や護衛の泊まる部屋もあるそうです」
「うっわー」
その豪華さに感心していると、レオポルドが眉を上げた。
「何か副団長にも依頼があったのか?」
「装甲部分に使う防御系の術式について、技術供与を……と」
少しだけ考えこむように眉を寄せ、レオポルドは副団長にアドバイスする。
「……アルバーン家がほしいのは、魔導列車の防御をになう術式だろうが、それは慎重にすべきだ」
「どういうこと?」
「公爵夫人の旅行で、魔導車を強化したいという目的は本当だろうが、同じ技術を装甲車に使う可能性もある。モリア山から採れる貴重なミスリルを守るため、アルバーン家はつねに軍備を強化しているが、エクグラシア全体から見るとかなり突出している」
「肝心の部分は渡しません。先方に見せるまえに魔術師団長の確認も必要ですか?」
「そうだな。私が不在のときはバルマ副団長に確認してくれ」
「かしこまりました」
わたしは不思議に思って口を挟む。
「アルバーン公爵ってそんなに好戦的なの?」
「強ければ強いほどいい、という信念がある。強者としてふるまい、強者であろうとする」
「なる」
レオポルドの説明にわたしは納得した。そういえばはじめて会ったころ、レオポルドもそんな感じだった。今でも彼が弱味を見せることは、あんまりないけど。
穏やかに食事をしながら、仕事も片づけていく。こういうところが錬金術師団の食事らしい。
「私もそうだが、カーター副団長のまわりも令嬢の婚約で騒がしくなるだろうな」
「もともと私は人づき合いが苦手でして。娘が王子と婚約したとて、すり寄ってくる者もない。清々しいぐらいです」
ギラッと歯を見せて笑う副団長は顔が怖い。魔道具修理では王城のスタッフから頼りにされているけどね!
にこにこと見守っていれば、カーター副団長は恐ろしいものを見るような目つきで、わたしを振り返って肩をすくめた。
「だいたいネリス師団長は、娘の命を盾に私を脅したのです。あのときの恐怖にくらべれば……」
「えっ、わたしそんなことしてないよ!」
「私の目の前で天空かなたへと、メレッタを連れ去ったではありませんか!」
「あれはメレッタに頼まれたんだってば!」
「…………」
レオポルドは長いまつ毛をパチパチとまばたかせ、わたしたちのやり取りを興味深そうに見守っている。そこは口を挟んでくれてもいいんだけど。
「今後ふたりは私の監視下に置き、隙あらば婚約破棄の口実を見つけたいと思います!」
「まだ認めてないんだね……」
「あたりまえです!」
わたしがぽろりと一言こぼせば、血走った目つきでにらまれた。うひぃ。
「私の……私の目のまえでメレッタを口説くとは……あの王子っ!」
ギリギリと歯を食いしばるカーター副団長は、オドゥ以上にカディアンをしごきそうだ。メレッタが止めてくれるといいけど、ヘタすると逆効果になりそうで怖い。それでもとにかく人手がほしかった。みんな人手不足が悪いんや!
すっとレオポルドが動き、カーター副団長の前にお茶のカップを置く。
「食事は楽しめたか?」
ハッとしたように動きを止め、カーター副団長は湯気を立てるカップを見下ろして、大きく息を吐く。
「ええ。私にまで給仕をしていただくとは……ありがたいことです」
「カーター副団長はそれだけの働きをしている」
レオポルドは淡々として、むしろそっけないぐらいの態度なのに、カーター副団長は目に見えて落ち着き、クールダウンしていった。
「ネリス師団長、このお茶はミスリル鉱石以上の価値がありますぞ。すべての憂いが解けていくような気がします」
「うん。レオポルドが淹れてくれるお茶は本当においしいよ!」
ソラの淹れてくれるお茶を、ふだんから飲みつけているわたしでもそう思う。
「特技とも言えないような特技だがな。かんたんなようで難しいからそそられる」
「へぇ……」
レオポルドが何かに興じている姿は見ないけれど、もしかしたらこういう日常のささいなことを、楽しんでいるのかもしれない。忙しい仕事の合間にできる、そんなちょっとしたことを。
「飲み終わったら修理の仕上げだ。時計塔を動かそう」
そのひと言でわたしたちは立ち上がった。









