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【11/1コミカライズ連載開始】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
連載開始四周年記念SS

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お泊まりおでかけ with 副団長⑩

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 カーター副団長が率先して質問に答え、王都でやる研修について話をはじめると、魔道具師たちの目がいっせいに輝く。


「すげぇ、何日か泊まりこみで研修を?」


「左様。宿舎は王都の魔道具ギルドに手配させよう」


 副団長がもったいぶって、口ひげをなでながらうなずく。するとみんなは口々に相談しだした。


「だとすると農閑期がいいな」


「待ってくれ。人数がいる工房ならともかく、俺みたいにひとりのトコはどうする」


「交代でひとりずつ送ってはどうだ。休みになる工房の仕事はみんなでカバーして」


「それなら……」


 みんなの目がキラキラと輝いてまぶしい。うん、ごめん。カーター副団長はタダで使える労働力を確保しただけなのに。


(でも……)


 わたしはカーター副団長の提案につけ加えた。


「研修の終わりには各自、研修レポートを提出してもらいます。魔道具ギルドにかけあい、魔導時計士の修了証を発行してもらいましょう」


「ネリス師団長、それは……」


 ぎょろりと目をむくカーター副団長に、わたしは説明する。


「副団長は魔道具ギルドと修了証発行の基準をすり合わせて。ちゃんと形になるものを渡したいの」


「……承知しました」


 またもや魔道具ギルドの仕事を増やしちゃうけど、副団長ひとりに任せると彼が暴走するかもしれない。修了証を渡すのも、ちゃんと基準があったほうがいい。


「わたしがサルジアに旅立っても、レオポルドがいてくれるもんね。王都のことはよろしくね!」


「そのことだが……いや、何でもない」


 レオポルドは何か言おうとして、首を横に振った。





 午後になると魔道具師たちも、がぜん修理に熱が入る。部品ひとつひとつを手に取り、感心したりメモを取ったり。王都に行けるって地方で暮らす彼らには、それだけ大きなことなんだろう。


 交換できない部品はレオポルドが呼ばれ、修復の魔法陣をかけていく。作業がひと段落したところで、休憩をとってみんなで時計塔に上った。


「湖底都市だ!」


「本当に街の形をしてるんだな」


 魔道具師たちは湖を指さして歓声をあげ、みんなで湖底に広がる光景に見入る。


 澄んだ水の底に、大きな街が見える。張りめぐらされた道路に、小路をつなぐ階段で高低差もあり、家には出窓まで取りつけてある。


「すごい……迷宮絵本で見たものより、ずっと大きいね」


 水底に沈む街にはやはり人影はない。人魚たちが暮らすカナイニラウとも違う無人の街は、何かの記憶を留めるように存在していた。


「街の記憶……なのかな」


「街の記憶?」


「そう。湖底都市のモデルになった街は現実にあって。けれど時がたつにつれて街の形はどんどん変わっていくでしょ。過去の街を懐かしく思う誰かが、その形を留めたのかもしれないなって」


「……きみの解釈はそうなのか」


 湖上を吹く強風は、レオポルドが魔法陣をあやつり、そよ風に変えてくれる。


「この魔法陣て〝そよ風の魔法陣〟に似てるね」


「きみが暴風を喚んだ魔法陣を、逆展開するとこうなる」


「う、また高等テクニックがでてきた」


 わたしが顔をしかめると、彼はくすりと笑った。


「きみは何も考えずに魔術を使うからな。だがそれが思いがけないヒントになることもある」


「ふーんだ。わたしの魔法だって、時には役に立つんだから」


 湖底の光景はすばらしい。錬金術師ドルゲはこの都市を見るために、時計塔をわざわざこの場所に造ったのかもしれない。





 休憩を終えて時計塔の螺旋階段を下りようとすると、わたしはレオポルドに呼び止められた。


「きみは〝眠らせ時計〟で夕方まで休め」


「え、眠くないし元気だよ?」


 けれど彼は首を横に振る。


「修理の仕上げは夜中になる。休むなら今のうちだ」


「夜中……あ、そっか」


 船で運びこまれた荷物には、テントや寝袋まである。魔道具師たちは夕方には領主館へ返し、最後の仕上げはレオポルドとわたし、それとカーター副団長の三人で夜中に行うことになっていた。


 遠征にも参加するレオポルドが、テキパキとテントの準備をして、わたしはローブを着たまま寝袋にくるまる。


「ネリス師団長は小柄ですから、そうしているとイモ虫そのものですな」


 わたしはモゾモゾ動いて言い返す。


「イモ虫はきれいな蝶になるんだもん!」


 副団長がニヤニヤと見つめるけれど、自分でもイモ虫かタラコだと思う。寝袋に包まれば、美麗な魔術師団長だってミノムシと変わらないしね。まだ見たことないけど。


「作業音が聞こえないよう、遮音障壁を張る。ゆっくり休め」


 レオポルドはセットした〝眠らせ時計〟をそばに置くと、そうつぶやいて手でそっとわたしのまぶたを閉じさせた。


「ありがとレオポルド。おやすみ……」


 眠りたい時間だけ眠らせる時計、たしかにこれはとても便利だ。メロディの魔道具店でも人気商品なのがうなずける。


「ふれたら壊れそうな砂糖細工の花……」


 また意味のわからない言葉を、カーター副団長がブツブツつぶやくけれど、レオポルドの手に目を覆われたわたしは、そのままストンと眠りに落ちた。


撮影小物としてライアスとユーリのうちわも作りました。

挿絵(By みてみん)

お店番には公園通りでぬいもーずのミキミニをスカウト。

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